第275話 次回にした方がよかったかもね
「はぐはぐはぐっ! 今日のワイバーン料理も絶品なのじゃ~~~~っ!」
小さな口をぱんぱんにしながら、美味しそうにワイバーン肉を頬張るドーラ。
ここ数日、毎日のように見る光景だ。
あれからというもの、こちらが呼んでもいないにもかかわらず、ドーラは頻繁にこの村にやってきては、ワイバーン料理を食べて帰るようになっていた。
どうやら完全にこの村の料理にハマってしまったらしく、最近はオークやミノタウロス、それにコカトリスの肉を使った料理なんかも食べている。
「おいおい、何でこいつはタダ飯を食うのが許されてんだよ?」
と、不満そうに言うのはミランダさんだ。
「いえ、一応、ワイバーン肉を獲ってきてくれてますから。本当にタダ飯タダ酒のミランダさんとは違います」
加えて部屋だってタダで貸している。
「ふああ、眠くなっちまったなぁ。昼寝でもするか」
ワザとらしく欠伸をして、ミランダさんは部屋に戻っていった。
良い子はあんなダメな大人になってはいけないよ。
「それにしても、もう春だなぁ」
今日は天気も良くて、ぽかぽかと春を感じさせる陽気だ。
こんな日はどこかへピクニックにでも行きたいね。
そんなことを考えていると、
「ねぇ、ルーク! せっかく空を飛ぶことができるんだから、色んなところに行ってみましょうよ!」
セレンが提案してきた。
「色んなところって、例えば?」
「そうね……」
セレンは少し考えてから、
「海に行ってみたいわ、海に! まだ一度も行ったことないもの! 海って、泳いだりもできるんでしょ?」
「イメージしてたピクニックじゃない!」
春を飛び越えてきた提案に、僕は思わず叫ぶ。
「でも、まだ海は寒いよ?」
そもそもこの国にはほぼ海がない。
カイオン公爵領が、辛うじて凍てつく北の海に接しているくらいだ。
真夏なら何とか泳げると思うけど、この時期だと寒くて難しいだろう。
「南のバルステ王国の海だったらもう泳げるかもしれないけど」
「じゃあそこにするわ!」
「いやいや、勝手に泳いじゃダメでしょ?」
「? 何でよ? 海で泳ぐだけよ?」
「密入国になっちゃう」
「……密入国?」
首を傾げるセレン。
そこで僕は、なるほど、と思った。
どうやらこの世界には、まだ国境という概念があまりないのだろう。
パスポートなんてものも存在しないしね。
「じゃあ大丈夫かな」
つい最近、この国に軍事侵攻を仕掛けてきたばかりのバルステ王国だけれど、すでに和解し、友好条約が結ばれたというし。
そうしてワイバーン狩りのときのように公園を三次元配置移動で飛行させ、バルステ王国を縦断して海へ行くことになった。
荒野の村からスタートすると時間がかかるので、まずはセルティア王国の南端、すなわちタリスター公爵領の最南に築いた万里の長城へと瞬間移動して、そこから出発することに。
「楽しみだわ! 海でも水着で泳げるのよねっ?」
「そんな貧相な胸をして、よく浮かれていられますね?」
「うるさいわね! 胸は関係ないでしょ! ていうか、何であんたまで付いてくるのよ!」
「海と言えば、やはりわたくしのような巨乳の出番だと相場が決まっているからです」
「意味が分からないんだけどっ?」
空飛ぶ公園の上、言い合っているのはセレンとミリアだ。
せっかく楽しいピクニック――改め、海水浴だというのに、喧嘩をしないでほしい。
「ふむ、久しぶりだな、海に行くのは」
「フィリアさんは行ったことあるの?」
「随分と昔のことだがな」
ちなみに参加メンバーは、僕とこの三人を含めて、全部で二十人くらい。
実は軽く参加者を募ったら、あっという間に百人くらいの応募が殺到してしまったのだ。
勝手に他国の海で泳ぐのに、あまり大勢で目立ってしまうのも……と思って、残りの人たちはまた次の機会に、ということにさせてもらった。
「水着……水着……フィリアさんの水着……」
「……セリウスくんは次回にした方がよかったかもね」
すでに顔を紅潮させ、ブツブツ呟いている。
きっとまたポーションを使うことになるだろうなぁ。
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書籍版の第4巻が明日、発売されます!!
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