第274話 それから食う作戦やも

 ドーラがお風呂から上がってきた。

 ミリアが着せたのか、フリルが沢山ついた可愛らしいワンピースに着替えている。


「ふふふ、とてもお似合いですよ、ドーラ様。……ところでよろしければ、ルーク様用もございますが?」

「僕は要らない」


 服装はともかく、かなり綺麗になったみたいだ。

 それに顔色もよくなっている。


「こ、これは……もしや、ワイバーン料理かの……?」

「村の料理人たちが作ってくれたんだ」


 すでに料理の準備はできていた。

 リビングの大きなテーブルの上に、ずらりと美味しそうな料理が並んでいる。


 ワイバーン肉を使うのは、料理人たちにとっても初めてだったはずなのに、あっという間に用意してくれたのだ。

 きっと味の方も申し分ないだろう。


「これをわらわのために……?」

「そうだよ。ワイバーン料理を振舞ってあげるって言ったでしょ?」

「ほっ(……やはりわらわの取り越し苦労だったようじゃの)」

「?」


 なぜか安堵するような息を吐くドーラ。


「さあさあ、遠慮なくどうぞ」

「うむ、ではお言葉に甘えるとするかのう」


 ちなみにここにいるのは、僕とセレンとミリアにセリウスくん、フィリアさん、それから村の料理人たちだけ。

 少人数の方がドーラも落ち着くだろうしね。





「むしゃむしゃばくばく……かぁ~~、やっぱワイバーンはうめぇぜ! 酒も進む進む! んぐんぐんぐんぐ、ぷはぁ~~」





「って、ミランダさん!?」


 約一名、招かれざる客が紛れ込んでいた。


「なに勝手に食べてるんですか!?」

「ああん? 美味そうな匂いがしたから来てみたら、見ての通り料理が準備されてたんだよ。そりゃ食うに決まってんだろ?」

「どんな理屈ですか!?」


 普段は部屋から滅多に出てこない引きこもりなのに……ほんとにこの居候は……。


 そのときドーラとミランダさんの目が合う。


「何じゃ、こやつは……?(わらわには分かる……こやつ、人間のくせに凄まじい力を秘めておるようじゃ……)」

「おいおい、何だ、その見知らぬ幼女は……?(オレには分かるぜ……こいつ、ただの幼女じゃねぇ。恐らく相当な年月を生きてやがるぞ)」


 珍しくミランダさんが食べる手を止めて、じっとドーラを見ているし、ドーラもまた睨むようにミランダさんから視線を外さない。

 急に険悪な雰囲気に発展し、僕は慌てて割り込んだ。


「二人とも、料理ならまだまだ幾らでもあるから喧嘩しないでよ?」


 見た目じゃ分からないけど、どちらも長く生きているんだから、食べ物の取り合いなんて大人げないことはやめてほしい。


「(……いや、気のせいかの? 口の周りにソースを付けまくっておるし……なんだか、物凄くアホそうじゃ。とても強者には見えぬ)」

「(と思ったが、そこはかとない馬鹿っぽさからして、やっぱただの幼女かもしれねぇな。角と尻尾はただのコスプレか。まぁ、何でもいい。そんなことより今は飯と酒だ)」


 ようやく二人が視線を外す。


「じゃあ、今度こそ、どうぞ」

「う、うむ(あの女が普通に食べておるし、毒などは入ってなさそうじゃの。もっとも、わらわに毒は効かぬが)」


 大きめの椅子にちょこんと腰かけ、最初にドーラが手を伸ばしたのはワイバーン肉を使ったハンバーグだ。

 そのまま手で取って、小さな口で豪快に齧りつく。


「~~~~~~~~~~~~~~っ!? めっ、めちゃくちゃ美味いのじゃああああああああああああああっ!!」


 中から溢れ出てきた肉汁を飛び散らせながら、目を見開いて叫ぶドーラ。

 ドラゴンの口にも合ったようで何よりだ。


 それからドーラは、ドラゴンの食欲か、小さな身体からすると信じられないくらいの量を食べまくったのだった。







「ふぅ、美味しかったのじゃ……(どうやら本当にわらわを食う気はなさそうじゃの。……はっ!? ま、待て……もしやわらわをたっぷり太らせ、それから食う作戦やも……)」

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