第282話 大海原での運動は最高だわぁん

「大量に釣れたね」


 公園の中央に、クラーケンの死体が幾つも積み上がっていた。

 生臭い匂いが辺り一帯に漂い、正直、鼻を摘まんでいないと吐きそうになる。


「とりあえず冷蔵倉庫に入れて凍らせておこう」


〈冷蔵倉庫:食糧などを低温で保存するための施設。温度調整可能〉


 影武者作戦は非常に有効だった。

 次々とクラーケンを釣り上げることに成功し、相当な数を討伐できたと思う。


「それにしても、何でこんなに大量発生しちゃったのかな? さっきのおじさんの話だと、本来はもっと沖に棲息してるらしいけど」

「原因を突き止めなければ、またすぐに増えてしまう可能性がありますね」


 ミリアの言う通りだろう。


「ルーク、もっと沖まで行けるかしら?」

「うーん、一応ギリギリまで行ってみよっか」


 レベルアップに伴い、村の領域がかなり広がってきたけれど、さすがにそろそろ端に到達してしまいそうだった。

 それでも行けるところまで行ってみることに。


「あ、クラーケンの海域がどの辺りか、さっきのおじさんに聞いた方がいいかも」


 というわけで、瞬間移動でいったん浜辺に戻り、突然現れた僕に「ぎゃーっ!?」と叫んだおじさんを連れ、海上へと戻ってくる。


「こここ、ここは!?」

「海の上だよ。あっちが陸地」

「一体何がどうなっているんだ!?」


 困惑し切っているおじさんに状況を説明する。


「原因を突き止めに、クラーケンの海域に行くだと!?」

「うん。おじさんならどっちに行けばいいか詳しいかなって」

「も、もちろん、海の人間には常識だが……正気かっ? 船乗りたちが絶対に避ける魔の海域だぞ!?」

「大丈夫。船と違って、これは転覆したりしないし、万一のときは……」


 僕は公園を上昇させた。


「こんなふうに海から離れることもできるから」

「……やはり俺は、夢でも見ているのかもしれない」







 おじさんの案内で、魔の海域とされているクラーケンの棲息地へと向かっていた。


「海で泳ぐのも楽しかったけど、これはこれでいいわね! あっ、あそこで亀が泳いでるわ!」

「潮風が心地いいですね。ルーク様も何か飲まれますか?」

「むう、また外したか。やはり海の中の魚を射るのは簡単ではないな」


 亀を発見してはしゃいでいるセレンに、ジュースを飲みながらビーチチェアに座って海を眺めているミリア、そしてフィリアさんは海の魚を矢で射ろうと試みている。


 ゴリちゃんは「大海原での運動は最高だわぁん」と言いながら筋トレをしていて、それをベルリットさんや狩猟隊メンバーたちが「相変わらず凄い筋肉だ……」と羨望の眼差しで見学していた。


 みんなリラックスした様子で、海の旅を楽しんでいるみたいだった。


「これから魔の海域に行こうってのに、よくそんなに落ち着いていられるな……」


 呆れているのはおじさんだ。


「だいたいの場所は分かったし、浜に戻る?」

「……いや、最後まで付き合おう。俺も原因が気になるし、何よりすべてお前さんたちに任せ切りってわけにもいかんだろ。もっとも、俺に何かできることはあるかは分からないが」


 そうしておじさんをお供に海を行くことしばらく。

 急に雲行きが怪しくなりだし、さらには波がどんどん高くなってきた。


「そろそろ魔の海域に入ってくるぞ。見ての通りこの辺りは海が荒れやすくてな、仮にクラーケンがいなかったとしても立ち入りたくねぇ場所だよ」


 船酔いで参ってしまいそうなくらい、激しい波が押し寄せてきている。

 幸い公園に乗っているので並の影響は皆無だけど。


「っ! クラーケンだ!」


 そのときセリウスくんが叫んだ。

 視線を向けると、確かにそれらしき影が海面に見えた。


「……なんだか様子がおかしいわね?」


 波に合わせて大きく揺れているだけで、ずっとその場に留まっている。

 近づいてみると、その理由がすぐに分かった。


「死んでるわ」

「というか、そもそも身体の一部のようねぇ。何かに噛み千切られたみたいになってるわん」


 それはクラーケンの残骸とも言うべきものだった。

 そしてゴリちゃんの言う通り、食い千切られたような痕がある。


「気を付けろ。海の底に何かがいるぞ」


 忠告したのはフィリアさんだった。

 直後、海の底から何か巨大な影が浮上してくる。


 それはどんどん大きさを増していって、


「っ、みんな、下がるのよぉっ!」


 ゴリちゃんが叫んだ次の瞬間、凄まじい水飛沫と共に、恐ろしく巨大な生物が海上へと跳ね上がってきたのだった。

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