第267話 二つに折り曲げる

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 ドラゴンの雄叫びが耳をつんざく。

 その威圧感だけで、僕は身体が硬直して動けなくなってしまったけれど、


「めちゃくちゃ怒ってるわね。ドラゴンの縄張りに入り込んでたのかしら?」

「ワイバーンを殺されて怒っているのかもしれません、姉上」

「それよりドラゴンって食えるのだろうか?」

「うふん、噂じゃ、ワイバーンより美味いって話よぉん」

「マジか! そいつは是が非でも倒すしかねぇな!」


 こんなときに食べることを考えてる!?


「いやいや、戦うつもり!? 相手はドラゴンだよ!?」

「戦ったことないから分からないけど、どうにかなるんじゃないかしら?」

「「「食べたことないから分からないが、きっと美味いに決まってる!」」」


 ダメだ、これ……完全に食欲に支配されてる……。

 万一のときは独断で逃げることにしよう、公園ごと。


 それにしても、ワイバーンの数倍の大きさがあるというのに、ワイバーン以上の速度でこっちに近づいてきている。

 というか、思いっきりぶつかってくる!?


 僕は慌てて公園を横移動させる。

 直後、すぐ近くをとんでもない速さでドラゴンが通過していく。


「うわぁぁぁっ!?」

「あら、大丈夫、村長ちゃん♡ 軽いから飛んじゃうわねぇ」


 それだけで暴風が巻き起こり、危うく吹き飛ばされそうになってしまったところを、ゴリちゃんに腕を掴まれて事なきを得る。

 みんなも地面にしがみついてどうにか耐えていた。


 ビュウウウウウウンッ!


 そんな状況にもかかわらず、遠ざかるドラゴンの背に向けてフィリアさんは矢を放った。

 真っ直ぐドラゴンの翼へと直撃する。


「……弾かれたか」


 ワイバーンの翼なら貫いていたはずのそれは、跳ね返って山肌へと落ちていった。

 どうやらドラゴンは翼の部分も相応の強度を持っているらしい。


「オオオオオオッ!!」


 Uターンしたドラゴンが再びこちらに迫ってきた。

 その突進をまたしても横移動で躱すと、今度は即座に高度を上げる。


 こっちからドラゴンを追いかけたのだ。

 ワイバーンと同様、やはり空中戦では分が悪いので、地面に激突させて地上戦へと持ち込む必要があった。


「ぜんぜん追いつけない!?」


 けれど、上昇していくドラゴンに一向に追いつくことができない。

 それどころか徐々に離されていくほどだ。


 あんなに身体が大きいのに、どうやってあの速度を出しているのだろう?


「うふふ、村長ちゃん、ドラゴンはワイバーンと違って、魔力を使って浮力を得ているのよぉ。だから大きくても速いの」


 ゴリちゃんが教えてくれる。

 ドラゴンはやはり亜竜とされるワイバーンとは格が違うらしい。


 仕方なく追うのを諦めてその場に停止させる。


「やっぱりダメだよ。ワイバーンみたいには行かなさそうだし、今日のところはいったん退散しよう」


 僕が言うと、みんながガッカリしたように肩を落とす。

 それでもさすがに何らかの作戦を練り直さなければ、ドラゴン狩りは難しいことを理解したのか、


「うむ、また改めて挑戦するしかなさそうだな」

「例えば巣で寝ているところを狙うとか……」

「せめて上に逃げないよう、蓋ができたらいいんだけどなぁ。って、そんなことできるはずないべ」


 蓋ができたら……?

 ドワーフのバンバさんの言葉にハッとする。


「できるかも」

「オオオオオオオオオオオッ!!」


 そこへみたび、ドラゴンが突っ込んできた。


 今、僕たちが乗っているのはギフトで作り出した公園だ。

 これは家屋だったり、土塀だったりといった施設と同じく、施設カスタマイズのスキルを使うことで、任意に形状変化させることができる。


「つまりこの地面も、形状を変えることができるということ」


 土からゴーレムを作り出すのもその一つだけれど、もっと根本的で大掛かりな変形も可能なのだ。

 例えば――


「そのまま二つに折り曲げる、とか」

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