第49話 道路を作りましょう

「ダントさん、おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」

「ルーク様、おはようございます。はい、お陰様で」


 翌朝、ダントさんはどこかすっきりした様子だった。

 昨日はあんまり顔色がよくなかったけど、もしかしたら単に長旅で疲れていたからかもしれない。


 一方、ダントさん以上に顔色が悪かったバザラさんたち護衛の兵士たちも、昨晩よりはよくなった気がする。


「ルーク様、昨日は色々と驚くことが多過ぎて、言い忘れていたのですが……」


 不意に神妙な顔つきになったダントさん。

 何だろうと思っていると、


「北郡の住民たちを受け入れていただき、ありがとうございました」

「あ、はい……むしろ、すいません。結果的に住民を奪っちゃったわけで……」

「いえ、民たちが村を捨てて逃げねばならなくなったのは、私が不甲斐ないためです。責めるどころか、お礼を申し上げねばならない案件でしょう」


 よかった。

 怒ってはいないみたいだ。


「それで……これは大変厚かましいお願いだとは承知しているのですが……もしよろしければ、我々に食糧を売っていただけないでしょうか? 実は現在、北郡では大規模な飢饉が発生しておりまして……」


 今年は作物があまり取れなかったらしい。

 加えて増税だしね……。

 今は戦争どころじゃないと思うんだけどなぁ。


 この村にたくさん逃げてきたけれど、それはほんの一部で、飢餓に喘ぐ人たちがまだまだいっぱいいるそうだ。


「もちろん構いません。むしろ現状、余ってしまっているくらいなので助かります」

「ほ、本当ですかっ?」

「畑も増やそうと思えばもっと増やせますよ。それにうちの畑なら、恐らく冬でも収穫できるかと」


 千人を超える村人たちの仕事は現状ほとんどが農作業だし、畑を増やしても労働力は十分だろう。


「とはいえ、我が北郡も資金難に苦しんでいるところでして……可能であれば、何かしらの物資との交換という形が嬉しいのです」

「いいですよ。ここはまだできたばかりの村なので、色々と不足しているものが沢山ありますから、こちらとしてもお願いしたいくらいです」

「あ、ありがとうございます!」


 ダントさんは何度も頭を下げてきた。


 彼の一族は元からこの地域を収めていたらしく、だから外から派遣されてきただけの代官と違って、民のことを思う気持ちが強いのだろう。

 ただ、やっぱり代官として領主には逆らえないので、現状を歯痒く思っていたのかもしれない。


「でも、どうやって取引を?」

「私の方から信頼できる商会に声をかけ、商人をこちらに派遣させましょう。北郡各地に支部を持っている商会ですので、わざわざ役所を通すよりもスムーズに取引ができるかと思います」

「なるほど。分かりました」


 取引するとしたら特に衣類がありがたいかな。

 今この村では衣服を作れる環境にないため、みんな同じものを何度も繰り返し洗って着ているような状態だ。


 できれば本格的な冬が来る前に、何度か取引をしたいとのことだった。

 雪が積もってしまったら行商が難しくなっちゃうしね。


 それからすぐにダントさんは村を発つこととなった。

 もう少し滞在してはどうかと聞いてみたけど、早く戻って商会に話を付けたいのだという。


 僕は外石垣の門までダントさんたちを見送る。


「ダントさん、ぜひまた遊びに来てください」

「もちろんです。……次に来るときには、どれほどの村になっているのか楽しみです」

「はは、たぶんもうそんなに変わらないですよ」


 そうしてダントさんが馬車に乗り込もうとしたとき、僕はふとあることを思いつく。


「あ、そうだ。この荒れた荒野、馬車だと進み辛いですよね。道路を作りましょう」

「……はい?」


 凸凹の荒野に、この村から真っ直ぐ伸びる道路を作成した。

 遠くて見えないけれど、たぶん荒野の終わりまで続いているはずだ。


 これで今後、商人が来るときにもガタガタな道に困らずに済むことだろう。


「あ、ありがとうございます……(そんなに変わらない、とは……?)」

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