第182話 蹴散らしてくれるわ

「後続が来ていないだと!? くそっ! 先頭は止まる気配はないし……このまま付いていくしかない!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


「な、なんだ!? いきなり前方に壁が!? くっ! 迂回するぞっ!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


「左右にも壁が!? て、停止ぃぃぃっ!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


「後ろもだと!? こ、これは……閉じ込め、られた……?」


 王宮へと続く大通りを進むアルベイル軍だったが、さらに次々とその兵数を減らしていた。

 というのも、突如として出現する檻のような壁が、後方の部隊から順番に彼らを閉じ込めていったからだ。


 そして気づいたときには、僅か三百ほどの兵を残すのみとなってしまっていた。


「エデル様! もはや兵が数百しかおりませぬ! このままでは王宮を落とすのも容易では……」

「問題ない! 残ったのは精鋭が三百っ! 十分な戦力だ!」


 だがアルベイル卿の戦意は変わっていない。

 それどころか、より一層苛烈にその闘気を膨らませている。


「ふはははは! エデル様のおっしゃる通りだ! 我ら四将に落とせぬ城などない!」

「……今は……三人しかいない……」

「ほほほ、三人でも十分でしょう。それでもここまで我々が追い込まれたのは何年ぶりでしょう。腕が鳴りますねぇ」


 四将の戦意も決して衰えていない。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 しかしあと少しで王宮といったところで、彼らの行く手を塞ぐように巨大な壁が地面からせり上がってきた。


「ふはははは! この程度の壁など、ぶち壊してくれる!」

「ほほほ、ここは私に任せてください」

「メリベラ!」


 メリベラと呼ばれた四将の一人が魔法を発動する。

 すると、どこからともなく現れた大量の土が壁の前に積み上がり、坂を形成していく。


 彼が得意とするのは黄魔法だ。

 中でも土を生成したり操ったりするのを得意とし、これによって時には戦場の地形ごと変えるという荒業をやってのける凄腕の魔法使いである。


 前後に現れた土の坂を駆け上がり、彼らは壁をあっさりと超えていった。

 そうしてついに辿り着いたのは、王宮前の目の前に広がっている広大な広場だ。


 そこには敵兵が待ち構えていた。


「ほほほ、見たところ、たったの五百程度ですか。我々もかなり減ったとはいえ、これで食い止められるとでも思っているのでしょうかね」

「……どこかに……兵を潜めてる……可能性も……」

「ふははは! どんな手を使おうが、我らの勝利は揺るがぬ! 蹴散らしてくれるわ!」

「……行くぞ!」


 アルベイル卿の号令を受け、残る三百の兵が一斉に馬に鞭を入れる。


 彼らはアルベイル軍の精鋭中の精鋭で、幾多の戦場を侯爵と共に乗り越えてきた歴戦の強者たちだ。

 戦闘系のギフトを有する者も多く、この人数であっても十分に城を奪還することが可能だと、誰もが自分たちの勝利を疑っていない。


 しかしそんな彼らも、まさか敵兵と激突する寸前で、いきなり足元の地面が消失するとは思ってもみなかった。


「「「は?」」」


 先ほどまでなかったはずの巨大な穴。

 突如として出現したそこへ、全員が勢いよく落ちていく。


 その深さは二メートルほど。

 馬から投げ出されながらも、身体能力の高い彼らはどうにか受け身を取ったが、直後に上から無数の矢の雨を浴びせられた。

 兵たちはどうにかそれを凌ぐも、馬は負傷が酷く、もはや使えそうにない。


「ほほほ、やってくれましたねぇ!」


 メリベラが再び坂を作り出し、馬を捨てた兵たちがそれを走り上がっていった。

 さすが精鋭だけあって、死をも恐れぬ彼らの戦意は衰えるどころか、かえって高まっているほどだ。


「行けええええええっ!」

「ぶち殺せええええっ!」

「おおおおおおおおっ!」


 ここまで散々と翻弄されてきたことで、彼らの怒りはもはや頂点に達している。


 装備もバラバラな、寄せ集めのような連中に負けるはずがない。

 彼らはそう確信し、競うように特攻していく。


 そうしてついに勝負の行方は、白兵戦へと持ち込まれたのだが。

 またしてもアルベイル軍の予想が大きく覆される展開となってしまうのだった。

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