第78話 うるさいんですケド
「ミノタウロス……」
「「「牛肉だ!」」」
僕がその魔物の名を口にする一方で、他のメンバーたちはまったく違う言葉を叫んだ。
「ミノタウロスの肉はめちゃくちゃ美味いって聞いたことがあるぞ!」
「
「今夜は焼肉パーティだな!」
どうやらみんな、ミノタウロスを食材としか見ていないらしい。
「ブ、ブモォ……ッ?」
それを感じ取ったのか、ミノタウロスが一瞬後退った。
「ブ、ブモオオオオオッ!!」
それでもすぐに気を取り直して、こちらに猛スピードで突っ込んでくる。
噂通りの凄まじい突進だ。
「ゴーレム!」
「ブモオオッ!!」
「うわっ! 一瞬で破壊されちゃった!?」
こちらも負けじとゴーレムを突っ込ませたけれど、激突した瞬間、ゴーレムの身体があっさりと粉砕されてしまう。
どうやら土で作ったゴーレムでは、ミノタウロスの突進を止めることすらできないらしい。
「村長、任せて!」
そう言って巨大な盾を構え、前に出ていったのは『盾聖技』のギフトを持つノエル君だ。
「ちょっ、さすがに一人じゃ――」
ズガアアアアアンッ!!
強烈な激突音が鳴り響く。
だけどノエル君は、衝撃に押されて数メートルも後退してしまったものの吹き飛ばされることなく、それどころかミノタウロスの突進をたった一人で抑え込んでしまった。
「ブモォッ!?」
「すげぇぞ、ノエル。もはやパワーだけの俺じゃ、到底お前には敵わねぇな」
ゴアテさんがそう賞賛の言葉を投げかける中、動きが止まって無防備になったミノタウロスへ、フィリアさんが矢を、そしてセレンが魔法の氷刃を浴びせかける。
さすがのミノタウロスもこの集中砲火には一溜りもなく、あっさりと倒れ込んで動かなくなってしまった。
「ミノタウロスの肉はめちゃくちゃ美味いって話だからな」
「そう言われると、もう涎が出てきたぜ」
「おいおい、さすがに早すぎだろ」
そんなやり取りをしながら、狩猟で慣れているのか、何人かが手早く血抜きをしていく。
こうしてすぐに血抜きをしておくと、臭みを抑え、味を良くすることができるという。
血抜きを終えたミノタウロスは、袋に入れて持ち運ぶしかない。
オークよりも重量があるため、運搬するだけでなかなか大変そうだ。
その後も僕たちは何度かミノタウロスに遭遇した。
牛肉が増えてみんな大いに喜んだけれど、段々とそれが重荷になっていく。
「いつも森で狩猟するときはどうしてるの?」
「今は人数が多いから、何人かが獲物を探して、残った人たちには獲れたものから解体してもらっているのよ」
「なるほど」
だけど、人数を絞っているここではそうはいかない。
先に進もうと思ったら、収獲物を持ち運ばなくてはいけないのだ。
いくらゴアテさんが怪力と言っても、狭いダンジョン内では一人で何体分も運ぶわけにはいかないし……。
「あ、階段だ」
どうしようかと思っていたとき、僕たちは階段を発見した。
ダンジョンというのは、階層構造になっていることも多いらしい。
そして次の階層に移動する方法で一般的なのが階段のようだ。
「つまりここを降りると次の階層に行けるってことかな」
「ルーク、どうする? いったん引き返す? さすがにこれだけの収穫物を持って、次の階層に行くのは厳しいと思うけど」
「うーん、そうだね……あ、そうだ」
そこで僕はあることを思いつく。
「だったらここに置いていったらどうかな?」
「置いていくって言っても……その辺に放っておくわけにはいかないでしょ? 他の魔物が食べに来るかもしれないし」
「大丈夫。ほら」
僕はその場に土蔵を作ってみせた。
「ここに入れておこう」
もちろんこの場所も領地強奪で、僕の村の一部にしたからできる芸当だった。
◇ ◇ ◇
『緊急事態発生、緊急事態発生、緊急事態発生――侵入者により、ダンジョンが浸食を受けています。至急、対応することを推奨します』
「う~、何か、すっごい、うるさいんですケド……」
鳴り響く警報音で、手のひらサイズの少女が目を覚ます。
安眠を妨げられ、不愉快そうに顔を顰める彼女だったが、
「って、緊急事態……? っ!? ちょっ、アタシのダンジョンが、マジで乗っ取られ始めてるんですケドおおおおおおおおおおおおっ!?」
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