第199話 どんどん出てきやがるな

 遺跡の入り口は、王都の地下に設けられた駅の片隅にあった。

 影武者がここに地下空間を設け、駅を作ったときに発見したという。


 地下道を作った際に、それが偶然にも遺跡の一部とぶつかってしまったらしく、その入り口は本来の遺跡の入り口ではない。

 そのため中に入ると、ちょうど通路の角らしきところに出た。


 床や壁が石でできた通路だ。

 だけど真っ暗で奥が見えない。


「これはあくまで人工的に作られた遺跡だからな。ダンジョンと違って、灯りがないと真っ暗で何も見えねぇんだ」


 経験豊富な冒険者であるアレクさんが言う。

 どうやら過去にはこうした遺跡を探索したこともあるらしい。


「灯りは拙者に任せよ」


 そう言って、『白魔法』のギフトを持つガイさんが、手にした棍の先端に光を灯した。

 光を操るのも白魔法の一種だ。


 ある程度は先まで見渡せるようになった。

 すると廊下の向こうに何やら蠢く影を発見する。


「はっ、早速お出ましになったようだな」


 ラウルが不敵に鼻を鳴らした。


 カタカタという不気味な音とともにこちらへ近づいてきたのは、剣を手にした骸骨だった。

 ハゼナさんが頬を引き攣らせて叫んだ。


「スケルトン!?」

「はい。この遺跡にはこうしたスケルトンをはじめとするアンデッドが多数、棲息しているようなのです」


 と、教えてくれたのは最後尾のマリンさんだ。

 普段からラウルのサポートをしているという副官で、二十歳くらいの女性である。


 キリッとした美人だけれど、よく見ると耳が犬のそれっぽい。

 獣人の血を引いているのかもしれない。


 そのスケルトンは僕たちに気づいたようで、顎をカタカタ言わせながら襲い掛かってくる。

 骨だけなのに動きが素早い。


 だけどノエルくんが盾で大きく吹っ飛ばした。

 倒れ込んだところへ、アレクさんが大剣を豪快に振り下ろす。


 頭骨から肋骨まで見事に粉砕し、骨が周囲に四散する。

 スケルトンはそのまま動かなくなった。


 カタカタカタ……。


「……どんどん出てきやがるな」


 すぐに新手が現れたようだ。

 二体三体四体と、闇の奥から白い骸骨が姿次々とを見せる。


「あたしがやるわ! ファイアジャベリン!」


 ハゼナさんが魔法を放った。

 炎の槍が一直線に飛び、スケルトン数体をまとめて焼き尽くす。


 それからもスケルトンの剣士と幾度となく遭遇したものの、僕たちの相手ではなかった。

 大半をアレクさんたちのパーティが倒してくれるので、セレンがちょっと退屈そうだ。


「ふん、雑魚が」


 背後から襲い掛かってきたスケルトンは、ラウルがあっさり始末してくれる。

 ……うん、やっぱりラウルがいると頼りになるね。


「こっちでっせ!」


 と、道順を示してくれているのはカムルさんだ。

 経験を積んで慣れてきたのか、以前と比べると明らかに自信に満ち溢れている。


 複雑な迷路になっているみたいだけれど、彼がいるお陰で迷いなく進むことができていた。


「うあ~あ~」

「お~あああ~」


 そうして順調に探索をしていると、前方から呻き声が聞こえてくる。


「うわっ、気持ち悪っ!」

「ゾンビか」


 青白く血だらけの顔に、ボロボロの衣服、ところどころ皮膚が抉れて骨が覗いている。

 スケルトンと違って生前の面影を残しているせいで、かえって不気味さが増したアンデッドモンスターだ。


「はぁっ!」


 動きは鈍いものの、高い耐久力を持つゾンビだけれど、アレクさんが大剣で豪快に一刀両断してみせる。

 さらにはガイさんが棍でゾンビの頭を一撃で破壊した。


 どうやらゾンビが相手でも問題ないようだ。


「あれ? どうしたんですか、カムルさん?」


 不意にカムルさんの案内が途切れてしまったことに気づいて、僕は声をかける。


「す、すいやせん……この先に進むには、ギミックを解除する必要があったみてぇで……」


 彼の視線の先にあったのは、金属でできた柵だ。

 その先には通路が続いているが、柵は硬く閉じられており、どうやら何らかの仕掛けを解くことで、ここを通り抜けられるようになるらしかった。

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