第278話 身体まで開放しなくていいから
「ぺぺぺぺっ! な、何よこの水!? すっごいしょっぱいんだけど!?」
海に飛び込んでいったセレンが、涙目で浜辺に戻ってくる。
「知らなかったの? 海の水って、塩分が含まれてるんだよ。だから飲むと塩辛いんだ」
「そうなの? こんなにしょっぱいのに、魚は平気なのね……」
海の中を優雅に泳いでいる魚を見つめながら、不思議そうに言うセレン。
「それよりせっかく水着があるんだから、ちゃんと着替えようよ。あと、フィリアさん! 裸で泳ぐのは禁止! 水着を着るように!」
その場で服を脱ぎ捨てようとしていたフィリアさんに、僕は鋭く注意する。
「む? こんなに開放的な海で泳げるというのに……」
「身体まで開放しなくていいから!」
不満そうなフィリアさんだけれど、セリウスくんの命のためだ。
……いや、それがなくても裸で泳がないでほしいけど。
ここヌーディストビーチじゃないし。
もちろんフィリアさんには、できる限り布面積の大きな水着を渡してある。
「……一応、ミリアにも、もうちょっと布面積のあるやつを渡しておいたはずなんだけど」
「ふふふ、いかがでしょう、ルーク様?」
さっさと公園上に設置した小屋で着替えたらしいミリアは、全然違う水着を身に着けていた。
胸の谷間からおへそにかけて、網状になった煽情的な水着である。
「じっくり舐めるように見ていただいても構いませんよ?」
わざわざ僕の目の前で胸やお尻を強調するようなポーズを取り、そんなことを言ってくるミリア。
前々から思っているのだけれど、本当に神官なのかな?
と、そのとき急に周りが騒めき出し、何事かと視線を転じた僕は、次の瞬間、とんでもないものを目にしてしまうこととなった。
「うふぅん、どうかしらぁ、アタシの水着姿? とぉってもセクシーでしょん♡」
このピクニック兼海水浴に参加していたゴリちゃんが、水着姿で現れたのである。
というか、果たしてこれを水着と呼んでいいのだろうか。
「か、貝殻……?」
彼女の大事なところを隠していたのは、なんと貝殻だったのだ。
ホタテと思われるそれは、ゴリちゃんの巨体からするとあまりにも小さい。
今にもゴリちゃんのゴリちゃんがポロリしてしまいそうだ。
しかもどういうわけか、胸まで貝殻で隠している。
ちなみに筋肉で大きく膨らんではいるけれど、女性特有のそれは見当たらない。
「そうよぉん♡ 最初は村に置いてある水着を買おうとしたんだけれど、結局アタシに合うサイズはなかったの。だから自作してみたゎん」
そっか……ゴリちゃんに合う水着なんて売ってないよね。
服飾工房に特注で作らせるべきだった……当然、できる限り布面積の大きなやつを。
そのとき、怖れていた出来事が起こった。
股の間を隠している貝殻が、ゴリちゃんがくねくねと腰を動かす度に、その驚異的な太腿の筋肉に圧迫されていたようで、
パキッ!
真っ二つに割れてしまったのだ。
「いやぁんっ!」
凄まじい速度で股間を抑えるゴリちゃん。
「ああん! 割れちゃったわぁん! ……もしかして、見えちゃったかしら♡」
恥ずかしそうに頬を染めるゴリちゃんに対して、ぶんぶんぶんぶん、とみんな全力で首を左右に振りまくったのだった。
もちろん僕も見ていない。
見ていないったら見ていない。
「ゴリちゃんは普通の服を着て泳いだらいいと思うよ……?」
「そうね! それがいいわ!」
「むしろ切にそれを願います」
「あらん? そう? 仕方ないわねぇ」
みんなの説得もあって、ゴリちゃんはTシャツに短パンという格好で泳いでくれることになった。
僕はホッと胸を撫で下ろしつつ、
「じゃあ、泳ぐもよし、ビーチで遊ぶのもよし、みんな好きに楽しもう! ただ、あんまり遠くには行かないようにね! 海には魔物もいるから!」
今世では初めての海水浴を楽しむのだった。
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