第62話 グッジョブです

「少し話に聞いてはいたが、まさかこれほど快適だったとは……」

「気持ちのいいベッドに、いつでも使えるお風呂……加えて美味しい料理……あと、あのトイレ!」

「ああ、トイレ! あれは凄かった! 思わず何度も試してしまったよ。しかし人族というのは、こんないい生活をしているのか?」

「いや、どうやらこの村が特別らしい。何でもあの村長殿が、強力なギフトを持っておられるようで……」


 何やら話をしているエルフたちを見かけたので、僕は声をかけた。


「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」

「そ、村長殿っ!」

「ええ、お陰様で!」

「それはよかったです」


 バーベキュー大会の後、彼らにはこの村に泊ってもらったのだ。

 野宿でも大丈夫だと言っていたけれど、さすがに持て成す側としてそれは認めがたい。


 余っていたマンションの部屋や僕の家、それに来客用に作った家屋、さらに新しく二棟のマンションを作成することで、どうにか二百人を超えるエルフ全員が、ちゃんと寝泊まりできるようにしたのだった。

 ……一瞬で現れた巨大建築物にかなり驚いてたけど。






「ルーク様、実はご相談があるのじゃが……」


 一晩しっかり休んで疲れが取れたのか、昨日よりすっかり血色がよくなったレオニヌスさんが、何やら神妙に切り出してくる。


「先ほど里の様子を調べさせたのじゃが、やはり被害は大きいようでしての……生活できる環境に戻すのに、なかなか時間がかかってしまいそうなのですじゃ。特にこれから冬になるしの……」

「それなら里が元に戻るまで、この村に居てはどうですか?」

「よ、よろしいのか!?」

「はい。元々この村、あちこちからの移民ですし。種族が違うだけで、境遇はみんな同じですから」

「ああ、ありがとうございますのじゃ……(これでもうしばらくの間、あのトイレを使うことができる……っ!)」

「何か言われました?」

「い、いえ、何も」


 里の防壁もかなり壊れてしまったらしく、まずそれを修復するところかららしい。

 その状態だといつ魔物に襲われるかも分からないので、なかなか大変そうだ。

 しかもまだオークの残党が残っているかもしれない。


「そうですね……もしよければ、里とこの村を安全に行き来できるようにしましょうか?」

「……? それは一体、どうやって? 間には魔境の森が広がっているのじゃが……」

「地下を通るんです」

「はい?」







「ここが里ですか。確かに、これはすぐには復興が終わりそうにないですね」

「ああ。この分だと、当面の間はまともに住めないだろう」


 僕はフィリアさんたちに連れられて、エルフの里にお邪魔していた。


 元々は森と融合した美しい集落だったのだろうけれど、オークの群れに蹂躙されてあちこち酷く破壊されてしまっている。

 特に里を囲んでいた石垣の状態が深刻で、これでは魔物の侵入を防ぐことができそうにない。


 ちなみに魔境の森に足を踏み入れることすら、僕にとっては初めてのことだ。

 これからやろうとすることのためには、いったん自分でここに来る必要があったからである。


 周りからは凄く心配され、必死に止められたけど……。

 セレンを筆頭とする狩猟チームも同行するということで、どうにか許してもらえた。


「だけど本当に良いんですか? 僕なら簡単に直せますけど……」


 せっかくの里の雰囲気をぶち壊しかねない家屋系はともかく、石垣くらいならそうした心配もないはずだ。


「さすがにそれは甘やかされ過ぎというものだ。里の修復くらい、自分たちの手でするべきだろう」

「分かりました」


 真面目で逞しいのは、彼らエルフの美徳の一つだろう。


「(よし、これで少なくともこの冬はあの快適な村で過ごせるぞ!)」

「「「(グッジョブです、戦士長!)」」」


 ……どうしたのかな?

 なぜかエルフたちがとても嬉しそうなんだけど?


「さて、じゃあ、この辺りを使わせてもらっても大丈夫ですか」


 一通り里の中を見て回ってから、南門付近にやってきた。


「一体何をするつもりなのだ? 貴殿の村と里を安全に行き来できるようにするというが……」

「まぁ見ててください」


〈この場所はすでに他者の管理下にあります。強奪しますか?〉


 なんだか随分と物騒な聞かれ方をしたけれど、僕は頷く。

 レベル6になって覚えた領地強奪のスキルである。


〈強奪しました。この場所は村の領内になります〉


 これで広場の一画が村の一部になったようだ。

 ちゃんと飛び地でも村にできることは確認済みである。


〈地下道を作成しますか?〉


 そして村になったら、施設を作成することができる。

 20ポイントが消費され、突如として地面に階段が出現した。


「なっ!? こ、これは一体……」

「さあ、行きましょう」


 目を剥くフィリアさんを促し、その階段を降りていく。

 階段を降り切ると、その先は地下道となっていた。

 と言っても、ほんの数メートル先で行き止まりになっている。


〈地下道を作成しますか?〉


 再び20ポイントを使い、地下道を伸長させる。

 これを繰り返していけば、やがて荒野にある村の地下にまで届くはずだ。


 かなりポイントが必要になるけれど、そのためにしばらく貯めておいた。

 多分ぎりぎり足りると思う。


 その予想通り、あと100ポイントを切ったところで、ついに辿り着いた。

 後は階段を作成し、村に繋げる。


「ただいまー」

「ほ、本当にこの村と里を繋いでしまったのか……」


 階段を上って、周囲に広がる畑に唖然とするフィリアさん。


「この地下道を使えば、里の修復にかかる時間も短縮できそうですね」

「あ、ああ、そうだな……。(くっ、それではこの村にいれる期間が短く……よし、できるだけゆっくり作業するように言っておこう)」

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