第67話 ネガティブなドワーフ

 百人強のドワーフの集団からおずおずと進み出てきたのは、僕とそれほど背丈の変わらない、それでいて肩幅は倍以上ありそうなドワーフだった。


「あ、す、すいやせん……おいら、ドワーフのドランと言いやす……」

「……ええと、村長のルークです。初めまして」


 しかも髭もじゃで結構な強面……なのだけれど、随分と弱々しい声で話しかけてくる。

 あれ、聞いていた印象とまったく違うよ?


 このドランさんだけが特殊なのかと思ったけど、どうやらそうではなさそうだ。

 他のドワーフたちも例外なくビクビクオドオドしていて、いかにも臆病そうで、ドワーフの特徴と聞いていた豪快さなんて欠片も感じられない。


「お、おいらたち、ずっと向こうに見える山で暮らしてた……」

「魔境とされているあの山々でですか? 随分と危険な場所ですよね?」

「洞窟があって、そこに籠ってたから……」


 どうやら彼らは山々の麓あたりにある洞窟で暮らしていたらしい。

 洞窟の入り口は一か所だけで、防衛には非常に適した構造だったようだ。


 でもそれでどうやって食べていたのだろう?

 不思議に思って詳しく聞いてみたら、どうやら洞窟内で育つ特殊なイモを栽培し、主食にしていたという。


「あとは、洞窟内の虫とか蝙蝠とか……たまに、迷い込んできた動物や魔物の肉なんかも……」


 ……いずれにしても、あまり良い暮らしぶりではなかったみたいだ。


 エルフたちと同じように、彼らドワーフもかつては人間と交流があったそうだけれど、今ではほとんど断絶してしまっている。

 彼らも迫害され、辺境に追いやられてしまったせいだろうか。


「いや、ドワーフの場合は自業自得だ。奴らは自らが開発した強大な武具を使い、巨大な帝国を築いていた。しかしその武力で世界を支配しようとしたためか、天罰により国が崩壊。ドワーフたちは散り散りになり、以降は各地で細々と暮らすようになったのだ。……私もさすがに当時を生きていたわけではなく、伝承で聞いただけであるがな。なにせ千年以上も昔のことだ」


 千年……せいぜい十年ちょっとしか生きてない僕には、想像もできないほどの昔だ。

 それにしても、天罰って具体的にどんなものだったんだろう?


「おいらたちも詳しいことは知らない。だけども先祖が洞窟に住み着き、それからずっとそこで暮らしてきたとか……」

「なるほど、薄暗い洞窟に住み続けて、性格まで暗くなってしまったというわけか。しかし、この方が静かでありがたいな。ぜひともすべてのドワーフに洞窟暮らしをしてもらいたいところだ」


 ドワーフのことだからか、フィリアさんがちょっと辛辣だ。

 エルフとドワーフの仲が悪いのは本当だったらしい。


「それで、どうしてまたこんな荒野の村に?」

「実は……」


 なんでも数日前に突然、洞窟の中に恐ろしい魔物が現れたのだという。

 洞窟の入り口は封鎖し、しかも何かがそこを通った気配はまったくなかったというのに、いきなりドワーフたちが住む洞窟内に出現し、暴れ回ったそうだ。


「……きょ、巨大な蛇とも芋虫とも言える魔物で……おいらたちは逃げ惑うしかなかった……」


 何人かのドワーフがその魔物に喰われ、それで満足したのか、いったん魔物は姿を消した。

 しかし、しばらくして再びどこからともなく現れたため、彼らは長年暮らしていた洞窟を破棄し、荒野へと逃げてきたという。


 ドランさんは青い顔をしてそのときの恐怖を語ってくれた。


「そうしたら、ここを見つけて……おいらたちには、行く当てもなければ、食糧もない……。せめて、何か食べ物だけでも恵んでもらえたらと思って……」


 恐る恐る頼み込んでくるドランさん。


「そうだったんですか。もちろん構いませんよ。よければ住む場所も提供します」

「ほ、本当に……? でも、異種族のおいらたちに、なぜそんなに優しく……はっ? その対価だと言って、おいらたちを死ぬまで酷い労働に従事させる気では……?」


 ……随分とネガティブなドワーフだなぁ。

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