第388話 いやそういうの本当にいいんで

 僕はセレンと共に、アルラウネの頭上へ瞬間移動する。

 ここからだと、そう簡単にはあの花弁で攻撃を防ぐことはできないはずだ。


「潰れなさい!」


 セレンがアルラウネの核目がけて放ったのは、巨大な氷柱だ。


「――――ッ!?」


 いきなり頭上から攻撃されるとは思ってもいなかったのか、アルラウネが慌てたように見えた。

 直後、氷柱がアルラウネを叩き潰す――と思われた次の瞬間、アルラウネが穴の中に下降するとともに、猛スピードで穴が閉じてしまう。


 氷柱は閉じた穴の上に突き刺さった。


「逃げたわっ!」

「この穴、閉じることもできるんだ……」


 閉じ籠ってしまったアルラウネの核。


「無理やり抉じ開けてやるわ!」

「その必要はないよ」


 僕はセレンと一緒に再び瞬間移動。

 閉じた穴の内側へ。


「――――ッ!?」


 まさか穴の中まで追ってくるとは思ってもいなかったのか、驚愕した様子のアルラウネ。


「はぁっ!」


 セレンの剣が、その首を跳ね飛ばした。

 そうして穴の底の消化液に落ちる前に、再び瞬間移動で外に戻る。


「花やツタがどんどん枯れていくわ」


 核を破壊されて力を失ったのか、巨大な花弁があっという間に枯れていく。

 街全体を覆い尽くしていたツタも、見る見るうちに萎んでいった。







 その後、ローダ王国が行った調査によると。

 どうやらあの街では、領主が秘かに違法な魔物の研究を行っていたらしい。


 魔物を支配下に置いたり、あるいは魔物を強化したりする研究で、それによって強大な武力を手に入れようとしていたようだ。

 研究に成功した暁にはクーデターを起こし、自らが国の支配者になろうとしていたという。


 だがその実験の途中でイレギュラーが発生し、アルラウネが急激に成長。

 そのまま街を滅ぼしてしまったそうだ。


「その領主はアルラウネに吸収されてしまったのか、もはやこの世にはおらぬ。当人に関しては自業自得以外の何物でもないが、それで領民たちを危険に晒し、住む場所をも奪うとは。これほど無能な領主は他にない」


 調査結果を教えてくれたガイウスさんが、憤慨したように吐き捨てる。

 最初に使者として僕の村に来たときは、威圧的で随分と偉そうな感じだったけれど、プライドが高いだけで実は意外と悪い人じゃなかったりする。


 ここ最近は気のいいおじさんといった印象で、ローダ王国との窓口にもなってくれている。


 そもそもローダ王国内の貴族の中には、僕やこの村のことをあまりよく思っていない人も多いみたいだ。

 元々セルティア王国とローダ王国は仲が良くないしね。


 それをガイウスさんが根強く説き伏せたりして、友好関係が続くように尽力してくれているのだという。


「それにしてもルーク殿。先日の帝国の一件といい、貴殿には感謝しかない。やはり我が国の爵位を」

「いやそういうの本当にいいんで」








「え? この村の力を貸してほしい? いやいや、さすがに多すぎでしょ!? これで何度目!?」


 僕は思わず叫んでしまった。


 もちろん力を貸すこと自体は構わない。

 だけどさすがに同じパターンが続き過ぎていて、違和感しかないのだ。


 似たような話、というレベルじゃない。

 元村人が冒険者になって、人助けのために……という流れが、まったく同じなのである。


 しかもローダ王国の一件の後も、すでに五回くらい繰り返されていて、これでたぶん九回目になるだろうか。


「急に何があったの? もしかして誰かの指示で動いてるわけじゃないよね?」

「そ、そんなことはありませんよ?」


 バルステ王国で冒険者をしているという今回の依頼主を問い詰めてみると、焦ったように否定してきた。

 うーん、明らかに怪しい。


「まぁ、別に悪いことしてるわけじゃないから良いけどさ……」


 でもやっぱり、なにか嫌な予感がするんだよねぇ。







 そんな感じで、各地で色んな事件を解決したりしていると――


 ――めちゃくちゃ村の大聖堂に参拝に来る人が増えた。

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