第76話 練習の成果だよ

 領地強奪。

 このスキルを使えば、今は村から除外されているダンジョンも、村の領内に組み込むことができるかもしれない。


 ただ、このスキルには一つの制約がある。

 それは僕自身がその場所に行かなければ、強奪することができないということだ。


 だけどセレンには同行を断られてしまったので、僕はゴアテさんに頼んでこっそり連れてきてもらったのである。


 そうして思惑通りダンジョンに辿り着き、僕はここを村の領内にすることに成功したのだった。


「だからダンジョン内でも施設を作ることができるようになったんだ。探索する上で役に立つと思うよ」


 なにせ危険なダンジョンの中に、施設による安全地帯を作り出せるのだから。


「しかしルーク殿、先ほどのゴーレムは何なのだ?」

「あれはここ最近の練習の成果だよ。この間、石垣でゴーレムを作って動かしてみたときに、これはもっと応用できるんじゃないかなと思って」


 乗り込むタイプは上手くいかなかったけれど、こうして遠隔操作する形なら、今のように魔物と戦うことだって可能だということが分かった。


「どう、セレン? これなら僕だって十分、戦力になるでしょ!」


 先ほど生み出したゴーレムを近くまで持ってきて、アピールするようにポーズを取らせてみた。

 ちなみに動かすだけならポイントは不要、修復するには必要だけど微々たるものだ。


「そ、それは分かったけど……」


 さすがに過保護なセレンも、すぐには言い返せない様子。


「それにもうここは村の中だし。村長の僕が自由に村を探索しても何にも問題ないでしょ」

「ふむ。ルーク殿の言う通りだと私は思うな。それにこの年齢の少年というのは、好奇心が旺盛なものだ。それを無理に押さえつけるような真似をしては嫌われてしまうぞ」


 フィリアさんが僕の援護をしてくれる。

 なんだかすごく子供扱いされてるのが気になったけど……いや、長命なフィリアさんから見たら、僕なんて子供中の子供だろう。


「し、仕方ないわね! 一人で勝手に潜られても困るし……。その代わり、隊列の真ん中にいなさいよ! ノエル、何があってもルークを護りなさい!」

「うん、おれ、村長を護る」


 こうして僕はダンジョン探索への同行を許されたのだった。


 ところでセレンたちには黙っているんだけれど、実はまだこのダンジョンのすべてを村の領内にできたわけじゃなかったりする。

 というのも、


〈村長のいる地点から半径五十メートル以内に限定されます〉


 という制約が、ダンジョンにおいても適応されるようなのだ。


 つまり実際に領地強奪ができたのは、まだほんの入り口だけに過ぎず、ここからさらに村の範囲を広げていくためには自らダンジョンを潜っていき、その都度、強奪していかなければならないのである。


 それから僕たちはダンジョン探索を再開する。

 最初の緩やかな坂を下り終わると、そこは左右に道が分かれていた。


「いきなり分かれ道ね」

「今のところ、どちらからも危険なにおいはしませんが……」


『危険察知』のマルコさんが言う。


 と、そこで僕は、『迷宮探索』のカムルさんが、どことなく落ち着かない様子であることに気が付く。


「どうされましたか?」

「い、いえ、な、何でも、ねぇです……」

「大丈夫ですよ。どんな些細なことでも、間違っていても構わないので、何でも言ってください」

「……」


 しばらく待っていると、カムルさんがおずおずと口を開いた。


「り、理由は分からねぇですが……何となく、右の方が正しい感じがして……でも、色々と難しい感じもあって……逆に、左は正しくない感じで……なのに、簡単な気が……」

「ふむ、よく分からないな」

「でも、その直感がギフトによるものだとしたら、確かめてみる価値はありますね」


 いずれにしても最初の分かれ道だ。

 どちらも行ってみた方がいいだろう。


「じゃあ、とりあえず右の方から行ってみようかな」

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