第180話 何かがこっちに飛んでくるぞ

「行くぞ!」

「「「おおっ!」」」


 号令とともに彼らは階段を駆け上がっていく。


 上り切った先にあったのは、夜の闇の中に無数に張られた野営用の天幕。

 そしてそれを燃え盛る篝火が照らしている。


「あれが食糧庫のはずだ」

「よし、燃やすぞ」


 松明を投げつけると、天幕の一つに火が燃え移り、激しく燃え始めた。


「て、敵襲! 敵襲だ!」


 それでようやくこちらの侵入に気づいたようだが、もう遅い。


 彼らは階段を一気に駆け下りる。

 するとまるで最初からそこに何もなかったかのように、階段そのものが消失してしまう。


「どこに行った?」

「確かに、さっきまでここに侵入者がいたはずだが……」


 闇に溶けるようにいなくなってしまい、慌てて駆けつけてきた兵士たちは、ただ茫然とその場に立ち尽くすしかないのだった。




   ◇ ◇ ◇





「うんうん、いい感じで兵力を削ぐことができているみたいだね」


 意識を移した影武者の僕は、アルベイル軍の窮状を確認しながら頷いた。

 現場にいるお陰で状況がよく分かる。


「向こうもまさか地下に潜んでるとは思わないでしょ」


 実はアルベイル軍の行軍に合わせる形で地下通路を進み、彼らが野営をすれば、その度に夜襲を仕掛けているのだ。


 何人かを敵軍の一兵卒として潜入させ、地上の情報を得ているのだけれど、兵たちの離脱が止まらない状況らしい。

 僕たちが食糧を焼きまくってることもあって、指揮官たちもそれを半ば容認しているようなので、ますます兵が減りつつあった。


 父上もかなり苛立ってるみたいだ。

 本陣からは常に怒鳴り声が響いているそうだし。


 それでも行軍を急いでいるのは、この劣勢に乗じて、有力諸侯たちが戦いに参戦してくるのを懸念しているからだろう。

 実際、今こそアルベイルを討つチャンスだと、日和見な宮廷貴族たちも一気に反アルベイルへと傾き、諸侯への呼びかけを始めているようだった。


 そうしていやらしい攻撃で敵の戦力を削り続けた結果、アルベイル軍が王都に辿り着いた時には、兵数は半分以下にまで減少していた。


「一万いかないくらいかな? でも、まだもうちょっと減らしておきたいね。……というわけで、みんな準備はいい?」


 王都を取り囲む城壁の上に配置しておいた影武者に意識を転じた僕は、そこで待機してくれていた彼らに声をかける。


「おうよ!」

「いつでもいけるだ!」


 威勢のいい返事をしてくれたのは、村のドワーフたちだった。


「ドナ、の設定は大丈夫だよね?」

「ん。ばっちり」


 ドワーフの少女ドナが自信ありげに頷く。


「それじゃ、点火用意!」

「「「おう!」」」


 僕が合図すると、ドワーフたちが一斉にあらかじめ用意しておいた鉄の塊へと駆け寄る。

 それは彼らが製造した、鉄の弾丸を飛ばす兵器――大砲だ。


「……発射っ!!」




   ◇ ◇ ◇




「あれが王都……? 我々が出発したときは、あんな城壁ではなかったはずだが……」

「お、王都の隣に別の都市が……どうなってやがんだ……?」


 ようやく王都が見えるところまでやってきたアルベイル軍の兵たちは混乱していた。


 というのも、王都の城壁が明らかに以前より立派なものになっていたのだ。

 さらに王都に隣接するのは、それまでなかったはずの別の都市である。


「エデル様……どうやら、報告は本当だったようで……」

「……見れば分かる」


 ここまでくれば、もはや信じるしかなかった。

 本当に荒野にあったはずの都市が、何らかの手段によりここまで移動してきたのだ。


「しかも王都の城壁が真新しくなっていませんか……?」

「お前にもそう見えるか。残念ながらオレもだ」

「……右に……同じ……幻覚……だったら、嬉しい……」


 これまで経験したことのない事態の連続に、歴戦の猛者である四将たちも唖然とするしかない。


 と、そのときである。

 城壁の上にずらりと並んでいた謎の物体から、轟音とともに次々と煙が上がったのは。


「何だ、あれは?」

「っ! に、逃げろっ! 何かがこっちに飛んでくるぞ!?」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!


 アルベイル軍の先頭と目と鼻の先に、次々と鉄塊が着弾。

 その衝撃で地面が激震し、飛び散った土砂が彼らの頭上から降り注いだのだった。


「「「~~~~~~~~~~~~~~っ!?」」」

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