第83話 これから村を移動させま~す
「って、アタシのダンジョンを浸食して勝手に変なもん作ってたの、アンタだったんかああああああああああいっ!」
アリーが咆えた。
「あれ? もしかしてその辺、分かっちゃうの?」
「もちろん分かるんですケド!」
「そうなんだ」
僕が領地強奪によって誰かが治めている領地を村の一部しても、相手がそれを察知することができるわけじゃない。
当然と言えば当然だ。
何か目に見える変化が起こるわけでもないのだから。
だけどダンジョンは違うらしい。
「ダンジョンとアタシは一体不可分、言わば精神と肉体なんですケド! 肉体が勝手に誰かに乗っ取られていったら、気づくのは当たり前なんですケド! ていうか、凄い恐怖だったんですケド!」
なるほど、確かにそれは怖いかもしれない。
「その部分は管理化から外れちゃうの?」
「それはないっぽいですケド。一応、アタシの命令もちゃんと受け付けるみたいですケド」
ダンジョンマスターとしての権限を失うわけじゃないってことね。
「じゃあ、そのままでいいよね」
「全然よくないんですケド!?」
「……ごめん、実はいったん領内にしちゃうと、元には戻せないみたいで」
「ちょっ、それは困るんで――別に困ることはないかも?」
「うん、君を無視して勝手に何か作ったりはしないから」
「……それなら別に構わないんですケド」
思ったより物分かりがいい妖精だ。
「その代わり、頼みがあるんですケド!」
「頼み?」
「ダンジョンを発展させるために、人を呼び集めてほしいんですケド! ダンジョンが生まれてから、全然まったく人が来なくて、発展しないし暇だしで毎日ほんとにツマらなかったんですケド!」
「このダンジョンの周辺、ほとんど人が寄り付かない荒野だからね」
「道理で来ないわけなんですケド!」
アリーは頭を抱えた。
どうやらダンジョンの外がどんなところなのか、中からは分からないようだ。
「でも人が来たらコアを壊される危険も出てくるよね?」
「そうね。だからダンジョンの中には、入場者を厳しく制限しているところもあるみたい。ダンジョンの存在が経済に与える影響は大きいから、誰かにコアを破壊されたら大打撃だもの。だから入場者を管理して、絶対にコアを破壊しないようあらかじめ契約を結んでいるのよ」
心配する僕に、セレンが教えてくれる。
「そうしてもらえるとすごく嬉しいんですケド!」
「まぁそれでも稀に契約を無視して、コアを破壊しちゃう人間がいるみたいだけど」
「そ、それは困るんですケド……」
このダンジョンが成長し、貴重な素材やアイテムが手に入るようになったら、それは村にとってもありがたい。
ただ、広く呼び集めてしまうと、中には自分本位にコアを破壊しようと考える者も現れるかもしれなかった。
せめてダンジョンがもう少し大きくなってからじゃないと。
今のままだと、僕らが一日で攻略しちゃったように、
……まぁ、あのズルい階段を攻略できる者はあまりいないかもだけど。
「そうだ。僕にいいアイデアがあるよ。要はダンジョン内に人がいればいいんだよね?」
いったん村に戻ると、僕は村人たちに呼びかけた。
「えー、これから村を移動させま~す! 危険なので、必ず施設内に入ってください! そして何かに掴まるようにお願いします!」
「村を移動させる……? どういうことだろう?」
「さあ? だが村長のやることだ。きっとまたとんでもないことに違いない」
「俺らは信じて従えばそれでいいさ」
みんな一体これから何が始まるんだと不思議がってはいたけれど、すんなりと応じてくれた。
さて、これでもうみんな施設の中に入ったかな?
「じゃあ、動かしますよ~っ!」
僕は配置移動を使って、村の全施設をゆっくりと移動させていく。
その方向は、ダンジョンのある方だ。
◇ ◇ ◇
ちょうどその頃。
荒野の村に向かっていた商人の一団が、呆然とその光景を見つめていた。
「み、道が……動いている……? いや、気のせいか……?」
「生憎、俺にも動いてるように見えるんだが……たぶん、気のせいじゃねぇと思う……」
「おい、道どころじぇねぇ! あれを見ろ! 村が……っ! 村が移動しているんだ!」
「は、はは……夢でも見てんのかな……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます