第288話 私も参加させてもらおう

 冷凍しているとはいえ、時間が経てば鮮度が落ちてしまう。

 特にサメ肉はアンモニア臭が酷くなるって聞いたことがあるし、できるだけ早く食べ切ってしまいたかった。


 そこで開催したのは、以前も一度行ったフードフェスティバルだ。

 ずらりと並べた屋台で、それぞれ村の料理人たちが独自に生み出した料理を、無料でみんなに振舞っていくのである。


 今回は一切の制限なし。

 好きなものを好きなだけ食べて良いことにした。


 同じサメを食材として利用しても、料理人ごとの個性が出るため、作られる料理は本当に多種多様だ。

 しかも今まで食べたことのない特別な魚を使った料理ということで、村の住人たちのほぼ全員がこのイベントに参加してくれた。


 とはいえ、全長二十メートルの巨大サメとなると、幾ら二万人を超える村人でも、そう簡単には食べ尽くすことはできないだろう。


 ……と、思っていたのだけれど。


「ほとんど一日でなくなっちゃった……」


 持ち帰って僅か一日で、綺麗さっぱり身がなくなってしまったのだ。

 残ったのは分厚い皮と骨だけ。


「村長! ぜひまたあの魚を捕まえてきてくれ!」


 コークさんが訴えてくる。

 彼の屋台は、当然のごとく期間中ずっと長い行列を作っていた。


「それは難しいかな」

「なっ!? それはなぜだ!?」

「あれはたまたま捕まえられただけなんだ。あんなのがそう何匹も海にいるとは思えないし、多分もう捕まえるのは無理だと思う」

「そ、そんな……」


 それだけあの巨大サメが食材として優秀だったのか、コークさんは愕然とその場に膝をつくのだった。


「な、ならばせめて、次回の海水浴には私を連れて行ってくれ! あれに近しい食材を見つけ出してみせる!」


 それはもう海水浴じゃないよね?


「いいけど、みんなは浅瀬で泳ぐだけだから、コークさんは一人で探してね。影武者は貸してあげるから」


 その後、本当に次の海水浴に参加したコークさんは、あの巨大サメとまではいかないけれど、それに近しいサメの魔物を発見。

 以降、狩猟隊と協力し、定期的に漁獲して村に持ち帰ってくるようになったのだった。


「完全に密漁だけど……まぁ、どうせ現地の人じゃ捕まえられない魔物だろうし、いっか」









「大海原の次は大砂漠に行ってみたいわ!」

「どうしたのさ、セレン。藪から棒に?」


 どうやら初めての海外旅行がすごく楽しかったらしく、セレンが他にも色んなところに行ってみたいと言い出した。

 その候補の一つが、砂漠らしい。


 この国の南東部には、広大な砂漠が広がっている。

 ルブル砂漠と呼ばれているそこには、小さな国も幾つか存在しているそうだ。


「でも砂しかない場所で、どうやって暮らしてるのかしら?」

「砂漠にはオアシスと呼ばれる緑地が点在していて、人々はそこで生活をしている」


 物知りのフィリアさんが教えてくれる。

 彼女はかつて砂漠を旅したことがあるという。


「砂漠の旅は過酷だったな。昼は灼熱の暑さ、夜は凍てつくような寒さ。歩くだけで体力が奪われる砂地が延々と続き、目印になるようなものがないため方向感覚はすぐに狂うし、水や食料はまず手に入らない。加えて砂漠ならではの危険な魔物が多数、棲息している」

「へえ、凄く大変なのね」


 砂漠がどういうところか、いまいちピンと来ていないセレンは、暢気に頷いている。


 まぁ、また公園で空を飛んでいくのだから何ら心配するようなことはないのだけど。

 空調設備が整った家屋を公園に設置するし、食料も水も十分な量を持って行けばいい。


 僕のマップ機能を使えば、方角を間違えることもないしね。


 そんなわけで、みんなで砂漠旅行に行くことになった。

 先日、一緒に海に行ったメンバーとほとんど同じ顔ぶれである。


 ただし、


「私も参加させてもらおう! 新たな食材に出会えるかもしれないからな!」


 食材探しにハマってしまったらしく、コークさんが是非にと参加を希望してきたのだった。


「お店を空けたらみんな悲しむよ? ただでさえ数か月先まで予約がいっぱいなのに……」

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