11 後日談 夢のあと

 真っ暗な闇の中に戻り、誰かに揺さぶられる。


「……ちゃん。はなびちゃん!」


 呼ばれて■■は目を開ける。部屋の明かりがついていた。安心した奈央がおり、涙を縁にためて■■を抱き締めた。


「良かった、はなびちゃん。無事だ……!」

「……奈央ちゃん? ……おはよう?」

「うん、おはよう……!」


 挨拶をし返して奈央は抱き締め続けた。■■は友達の背中に手を回して抱き返す。寝起きの余韻もあり、■■は夢と現実の認識が曖昧となっていた。だが、眠気から覚めて意識がリアルを感じて、■■は目を丸くする。夢だと思い出したのである。リアルな恐怖と衝撃が強いせいで忘れかけていた。


「……奈央ちゃん。いつ起きた?」

「さっきだよ。けど、所々曖昧で覚えてないの。最後はバイクに乗って出口らしき光に突っ込んだのは覚えてはいるけど……」


 彼女は全て覚えている。パジャマの中にあるポケットにあるお守りを出してみた。お守りは裂かれていた。本当に身代わりになってくれたらしい。奈央も同じようにお守りを出す。


「そうだった。お守りについても話したかったんだ。これ、本当に守ってくれたんだね」


 彼女は頷くが、すぐに直文を思い出す。

 ■■はベッドから降りて部屋を出る。友人の呼び掛けを無視して、直文の泊まっている部屋に来た。変化したあと、現実の彼がどうなったのか気になる。

 ドアを開けた。

 部屋の窓には雨戸をしておらず、カーテンも開いている。窓の鍵だけは絞まっていた。直文はベッドの上で仰向けになって寝息をたてている。夢に囚われてしまったのかと不安に思い、■■は駆け寄って揺すった。


「直文さん、直文さん!」


 呼び掛けに彼は薄く目を開ける。ゆっくりと■■へと首を向けた。


「……ああ、おはよう」


 疲れを帯びた声に、■■は心配になって訊ねた。


「……直文さん。大丈夫ですか? お体に異常は」

「……大丈夫。疲れただけ。……夢の世界で戦うと、大分力が消耗するからね。……ごめん、夕方まで眠りたいな」


 本当に眠そうであり、彼はうとうととし始める。無理矢理起こすのも忍びない。■■は頷いて、優しく声をかける。


「直文さん。ありがとうございます。……お休みなさい」


 嬉しそうに微笑みながら、直文は目を瞑っていく。ものの数分しないうちに、寝息をたてた。彼女は部屋を暗くして、直文を寝やすくするようにする。部屋を出る前に、■■は彼を優しく撫でた。



 翌日の朝、直文は元気になる。結局一日中寝ていたが、昨日の朝見た時よりも元気そうだった。

 朝食の準備は直文がしてくれている。奈央と彼女は彼が作った料理を運んでいく。■■の好きなあんこも用意して、■■は直文に感謝した。


「直文さん。ありがとうございます」

「どういたしまして。昨日、心配かけさせちゃったから、お詫びをさせてほしいな」


 あんこの入った器をテーブルに置く。奈央は直文に頭を下げた。


「久田さん。私たちを助けてくれてありがとうございます!」

「うん、無事でよかった。はなびちゃんも無事でよかったよ。……昨日はありがとう」


 奈央には救う為に疲れ果てたと■■が説明をした。彼は根回しの感謝も含めて言う。少女は照れながら謙遜して、テレビをつけた。全国に流れるニュース番組でアナウンサーが情報を出し始める。


【──今朝、××県の××市の道路にて事故が起き乗用車に乗っていた運転手が死亡しました】


 カメラが一階のビルに突っ込んだ乗用車を映す。前面の窓ガラスは割れており、運転席がぐちゃぐちゃになって大破している。

 警察は現場検証をしてビルに突っ込んだ理由を探す。だが、アクセルとブレーキの踏み間違いになりそうだ。死亡した人の名前が出てきて『土御門留秋』と表示されて、奈央が声をあげる。


「あっ、土御門。安倍晴明の子孫として有名な名字だ!」

「そういえば、そうだね。でも、名字だけで本当の子孫じゃないかもだよ? 奈央ちゃん」


明治から名字を名乗ったこともあり、土御門の名字を名乗った人物もいる可能性があるのだ。■■で奈央は納得する。

 ■■は直文を横目に見た。彼は目が合うと、微笑みだけを浮かべて、手を合わせて食事を取っていく。

 ■■はわからなかった。呪いと凶が降りかかって、ニュースに乗っている人がやれたのか。それとも別人で不幸な事故だったのか。だが、確実に何処かで彼女達を襲った陰陽師は死ぬ。いつ、どの場所でどのように死ぬのかは不明。■■は直文を少し怖いと思い始めた。


「はなびちゃん。早くしないと冷めちゃうよ」

「は、はい! いただきます!」


 奈央に言われ、■■は慌てて手を合わせて食べていく。トーストにバターを塗って、餡をのせて食べる。大好物を食べて、さっきの恐怖は拭われた。

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