4 お祭りのお誘い

 朝二人は起きる。奈央は何事なかったかのようにスッキリと目覚めた。歯を磨いたあとは朝食。

 今回は洋食だ。サラダにスクランブルエッグとコンスープ。トーストにオレンジュース。■■は好物の餡バタートーストをいただく。朝食を一緒に食べながら、奈央は直文に感謝する。


「久田さん。本当にありがとうございます。あの夢、見ませんでしたっ」

「それはよかった」


 ホッとしたあと彼は、トーストを齧って珈琲を飲む。テレビに流れるお天気をBGMに三人は談笑を続けた。お天気が終わると、ニュースに切り替わる。


【新たな情報が入りました。東京都内の火災があった××ビルの二階で発見された焼死体の身元がわかりました。××県在住大津久那善おおつなくなよしさん。五十六歳の死亡が確認されました】


 ニュースの話を聞いて、奈央は不安げな顔をする。


「……なんか最近物騒だね……」

「そうだね……怖いね」


 友達に同意をしながら、■■は直文に目を向けた。彼は黙々とテレビを見ており、真顔でそのニュースを見続けていた。直文は顔を見て、何があるのか考える。コメンテーターとして幸徳井治重がおり、彼女は最近出るなと思った。

 このニュースが終わるまでの間、彼はご飯を食べ終え食器を持って立ち上がる。


「ご馳走さま。食器は水桶につけておくよ。あと、ちょっと友人に連絡させてくれないか?」


 二人は頷いて、直文は言葉通りに食器を片付けた。そのまま去っていく彼を見て、■■は立ち上がる。


「ごめん、奈央ちゃん。お行儀悪いけどちょっとお手洗いいってくる!」

「うん、わかった」


 奈央は頷いて、友達を見送った。


 

 ■■がお手洗いにいくのは嘘である。廊下を出ていくと、玄関の近くで直文は壁に寄りかかっている。携帯を弄って、何かを無言で打ち込んでいた。視線に気付いてか、直文が■■に向く。名無しの彼女は驚き、彼は何事もなかったかのように声をかける。


「ちょうどよかった。話をしたいことがあるんだ」


 ■■は不思議に思いながら、彼に近付く。


「……仕事の話なのですよね。大丈夫なのですか?」

「大丈夫。むしろ、知っておいた方がいい情報だ」


 彼は携帯の画面を見せてくれる。SNSのアプリで簡単にメッセージを送り会うことができる即席メール。スタンプを送れて若者向きだが、文面にかかれている内容が物騒でなければよかった。

 アイコンは青い葉っぱのマーク。そのアイコンの吹き出しにかかれている内容を下に明記する。


 大津久那吉。火災により死亡。

 大津前月。交通事故により死亡

 藤原義勝。頭を強く殴打され死亡。

 藤原佐久間。転落死。

 津守賢重。多くの切り傷により死亡。


 彼女はニュースで名前を見たことがある。どれもが不審死で亡くなっている他人だった。その下には、全員がその陰陽師の子孫。現役の陰陽師であったと書かれている。画面を見せるのをやめ、直文は忌々しそうに話す。


「はなびちゃん。田中ちゃんには言わないように。ここにある彼らの名前は夢の怪異から逃れられなかった陰陽師だ」

「……えっ!?」


 思わず声を出して、厄介そうに彼は画面を見つめる。


「相手は君を巻き込む気満々だ」


 彼女は息を呑む。今回の敵は怪異ではなく人間。■■は陰陽師同士の派閥争いについて知らない。巻き込ませようとしている理由は彼女自身にあるのはわかっている。■■はわからない事柄をいくつか聞く。


「あの、直文さん。何で人の名前をとって失踪させているのですか?」

「人体は強力な妖怪を使役するのにいい器だ。恐らく、派閥争いに利用する気なのだろう。だが、彼女を狙いつつ敵方を暗殺とは中々やるな」


 彼は感心しているが、わからないことが多く■■は聞く。


「……すみません。派閥争いについて詳しく聞いてもよろしいでしょうか?」


 質問に直文は考えるように黙る。深く関わらせたくないから話したくないのかと■■は考えた。彼女をじっと見続けて彼は息を吐く。


「いや、今は話すのはやめておこう。田中ちゃんがいると話しにくい。居ない時にある程度話す。それでいいかい?」


 ■■は気付いてから頷いた。

 聞かれる可能性もある。巻き込まれているとはいえ、深くまで関わらせたくない。長居をすると奈央が気にかけてしまう。

 ■■は会話をやめる前に昨夜の話を思い出す。直文は祭りに来るかもしれないが、本当に来るかどうかもわからない。彼は■■を見続ける。


「はなびちゃん。どうした?」


 聞いてくれたのがチャンスだ。■■は顔をあげて必死に聞く。


「あ、あの、直文さんは港祭りを見に来てくれますか!?」

「港祭り? ……ああ! 清水港の祭りのことかい?

スーパーのポスターに張られていたのを見たよ」


 彼に聞かれて、彼女は何度も首を縦に振る。必死すぎただろうかと■■は考えていると、直文は聞いてくる。


「ねぇ、その港祭りに総踊りがあるよね。俺と友人も参加したいんだけど、できるかな?」


 鳩が豆鉄砲を射たれた顔をする。■■からすると思ってもない願いだ。定員と申請に関しては余裕はある。だが、練習する日にちはあまりない。いくつかの振り付けを踊れるかどうか、間に合うかどうか心配であった。


連頭リーダーを通して運営に連絡しますが、練習とかは大丈夫なのですか?」


 彼は腕を見せて自信満々に頷く。


「鍛えているから大丈夫」


 直文は見た目に反して逞しいがそうではないと■■はツッコミを入れた。彼女達の地元のかっぽれはダンスに近い振り付けだ。不安に思いつつ、朝食を取り終えたあとに連絡をした。

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