17 白沢と遭遇2
童が二体消えたのを確認し、啄木は近くの商業ビルの屋上に降り立つ。
真弓を下ろすと不思議そうに見つめてきていた。絶叫マシンを目を瞑って耐えていたのだ。わかるわけない為、何が起きたのか状況を教える。
「二体の『おまねき童』が消えたのをこの目で確認した。八一達が消してくれたんだろう」
「えっ、それ本当!? 啄木さん!」
「気配を探ってみろ。違和感は一つしかないだろ」
真弓は集中をして街を見続けているうちに、はっとして喜びを見せた。
「っ! やったんだ……!」
「ああ、あと一体。結界を解除させようと俺たちを狙うだろう」
「でも、あと一体だよ?」
「一体でも油断はできないし、疑問は尽きないぞ。まだ一体残っている。『おまねき童』を操っているかの疑惑。真弓が連れ去られた理由がわかってない」
怪異の使役は可能であるが、考察の余地はある。疑問の一部を話すと、啄木に真弓は落ち込んで見せる。
「……それは、そうだけど……やっぱり……私は裏切り者扱いなのかな」
同じ仲間同士が敵ではないかと疑心暗鬼に陥ることはつらい。啄木たちは疑心暗鬼を利用して、何度も敵を陥れたことがある。故に慰める権利はないと考えたが、元気がない姿は彼は見たくなかった。
「まあ、俺達を見ていたら一目瞭然だろう。けど、無理をするな。嫌なら嫌でいい。……辛かったら、協力者解消でもいい。そうして、全部俺のせいにしてしま」
「嫌! 啄木さんに協力するって言ったよね!?
そんな風に自分を無下にするなら、押しかけてでも仲間になる!」
真弓に言葉を遮られ、強く拒まれる。強情に見つめられ、啄木は困ったように頭を掻く。慰めるどころか怒らせてしまい、何も言えなくなる。彼は自身を無下したつもりはない。
何かを言おうとする前に啄木と真弓は目を丸くした。真弓はつぶやき札を掲げた。その瞬間、二人の周囲に炎の鳥が飛び回っていき炎の柱となって二人を包む。
迦楼羅天の炎。
炎の侵入を阻むように結界が貼られているが、真弓は苦しそうに札を持ち続けた。汗を流して、呼吸を荒くしている。簡易的であるがゆえに持たない。啄木の作ったような強力な材料な札であれば持ったであろう。
これ以上の無茶をさせるわけに行かず、啄木は太刀を出して真弓の前に立つ。
「白滅」
言霊を吐き出し抜刀の構えから勢いよく太刀を抜き振るう。結界とともに炎の柱も切られ、弾けて火花となって消えた。太刀を納刀すると、啄木は術者に舌打ちをする。
「おい、お前。仲間に向かって術を放つってどういう了見だ」
声をかけられた人物は、布を顔にしている白髪が混じった男性。服装は正当な陰陽師の服を着ており、烏帽子もつけている。真弓はその姿を見て言葉を失った。
「あっ……う、そ……」
顔を布にかけていても雰囲気でわかるようだ。その人物は真弓がよく知る人物らしい。啄木は彼女の反応に気付き、覆い隠すように守る。啄木は殺意を剥き出しにし、太刀を強く握る。自身の額と体の目、両目を大きく見開かせた。
「わざわざ、御苦労なことだ。もう一度聞く。仲間に向かって、部下に向かって、術を放つってどういう了見をしているんだよ。土御門春彰」
淡々とした声だが、怒りと殺意が含んだ声。陰陽師はビクッと体を震わせ、渇いた笑いをこぼす。
「はっ、はは、これはやばいな……! まさか伝承に伝わる存在が我が派閥の仲間とともにいたとは」
余裕がなさそうに、興奮するように手を震わせながら、身隠しの面を顔から外した。真弓は怯えながら口を動かす。
「か……会長……」
わざわざ会長が出向いていることに、真弓は衝撃を受けていた。彼らは来ている可能性を考えてはいた。だが、こうも大胆に接触してくるまでは予想もしていなかった。啄木は周囲に妙な力を感じ、目を丸くした。見えない力が真弓に向かおうとしている。素早く太刀を抜き勢いよく春彰の足元に向けて投げた。
「!」
硬い音ともに、春彰は肩をビクッと震わせた。人からすると、目に見えない早さである。真弓も驚いて、唾を呑んだ。啄木は投げた太刀を見せつけ、春彰に言葉をぶつける。
「妙なことをするな。したら、その首と四肢を切断する」
「……気付くとは……見事」
余裕なさそうに笑う。土御門春彰が攻撃した訳は察しがつき、啄木は新たな太刀を出す。
「答える慈悲を与えていたのになぁ?
攻撃した了見は、仲間が自分たちの味方であるかどうかの見分け。俺が何者なのかの確認だろ。ここに来た理由も、『送祭り』の動作確認とみた」
春彰は答えに目を丸くし、引きつった笑みを作る。
「……わかっているでないか」
「わかっているんじゃない。推測が当たったんだよ。まあ、言い訳なんてなんとでも言えるか」
談笑するのが目的ではない。啄木は刀を構え、土御門春彰に問う。
「お前は、何が目的で『送祭り』を完成させようとしている。穏健派とは思えない行動だ。零落し弱り果てた弱神を利用して、妖怪を利用して、人すらも利用して、何がしたい?」
穏健派はあまり荒事を好まないように思えていた。活動が過激になってきており、啄木たちも警戒をせざるえない。啄木の殺気に春彰は冷や汗を流しながら、穏やかに微笑む。
「陰陽師がより良く活動できるためだ。その為に、あの名前を奪われた少女が必要なのだ」
春彰の目的に真弓は眉間に皺を寄せて、食いかかるように怒りをぶつける。
「っ会長の目的はやっぱり! 依乃ちゃんだったのですね!?
彼女を使って、何をしようというのですか!?」
「下のものが知る必要はない……と言いたいが、三善真弓さんは素質のある陰陽師。ここに来させたのは聞きたいからだ。何故、有里依乃を保護しないんだい?
君なら出来ただろう」
少女に対し、優しく聞く。啄木は少女の雰囲気の変化に気付く。春彰に対する怒りの堰が壊れたようだ。梵字の書かれた札を手にし、眉間にシワを刻んで真弓は印を組む。
「友達を売れるわけないでしょうっ!?」
「っ真弓。やめろ!」
止めるのは遅く、彼女は真言を述べていた。
「ノウマク サンマンダ バザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン! 不動明王様! 彼の煩悩諸共、炎剣にて焼きはら給え!!」
こなれたように素早くいい、札が消えていき真弓の周囲に赤い炎を出していく。次第に、大きな剣の形となった。陰陽師のトップに真弓は攻撃を仕掛ける行為に、啄木は戸惑いを示した。
真弓は片手で操作し、炎の剣を春彰に振り下ろしていく。春彰は見越していたのか、印を既に組んでおりぼそっと何かを呟く。
硬い音が響く。炎剣は見えない壁に阻まれ真弓は驚く。
炎剣の火が見えない壁に吸い込まれていった。
春彰の行動に変化が見られ、再び妙な力を感じ取る。
その力は再び真弓に集まろうとしていた。『変生の法』と夜久無の件を思い出し、啄木は咄嗟に体を動かす。
春彰と真弓を接触させてはならない、と。真弓の目の前に現れ、バチンと強く両手を叩く。ねこだましと言われるものであり、彼女はびくっとして目を見開かせた。
術の集中力が切れたらしく、炎の剣は消える。啄木は真弓を抱え、宙に身を投げ出す。春彰はびっくりをし、力の収束がおさまる。啄木は刀印を片手で作り、言霊を放つ。
「智守!」
白い透明な結界を春彰の周囲に張られた。閉じ込められた春彰は目を丸くすると、啄木は真弓を抱えて勢いよく飛んで逃げ出す。
新幹線にも近い勢いよくで飛ばれ、真弓は彼に抱きついた。結界の隅につき、啄木は飛ぶのをやめる。私鉄の商業施設の屋上に降り立つ。真弓を開放し、彼は春彰のいる場所に首向ける。
遠くから赤い光が見え、結界が消えたのを感覚で把握した。『おまねき童』もこちらに来るのには時間かかる。すると、真弓は怒りの声を上げた。
「っ啄木さん! なんで逃げるのっ!?」
「逃げるわ! トップに術は放つやついるかっ!? しかも、お前の上司のようなもんだぞ!? あれは完全に敵対行為だ!」
心配する前に、先に真弓の行動を咎めた。咎めた本人は怒りがおさまらないらしく、拳を強く握って怒りを滲み出す。
「でも、依乃ちゃんを狙おうとした! 人も巻き込んで、罪のない妖怪も巻き込んで……!」
彼女の悪い所が出たとこに、啄木は顔を片手で押さえて呆れる。
「……あのな、友達を狙おうとする相手に怒る気持ちはわかる。けど、今のお前の立場と今後、周囲の影響も考えろ。お前の兄と重光がどうなってもいいのか?
お前だけじゃない。身内や仲の良い人まで影響が出るんだぞ」
言われて理解したらしく、真弓ははっとしやがて困惑した表情となる。既にやらかしたことについては、後から始末をつけるしかない。
啄木は顔を押さえて、ため息を吐く。
「それに、真弓が生まれるきっかけとなった『変生の法』を使ったのも恐らくあいつだ。だから離れた。あいつはお前に何かをしようとした。生まれる前に、お前の中に何かを仕掛けたんだんだろう」
言われ、真弓は言葉を失った。
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