5 啄木の出勤
バイブの音が鳴る。布団の近くに置いてある啄木のスマホが振動しているのだ。啄木は薄く目を開けて、スマホを手にして時間を見る。
五時四十七分。彼の休日も終えた為、出勤しなくてはならない。眠そうに啄木は起き上がる。ベッドの方に誰かが寝ているのに気付き、すぐに首を横に向けてぎょっとする。
「……まゆっ──……いや……違う」
気持ちよさそうに寝ている真弓を見て、啄木は昨日の出来事を思い出す。彼は頭を掻いて、ため息を吐いた。
「……あー……そうだった。はぁ、寝ぼけてた……」
立ちあがって、起こさぬようにパジャマから普段着に着替える。部屋は暗いが、彼は夜目は効く。布団を折り畳んで隅に寄せ、眼鏡をかけた。
空調が切れるようにタイマーをしておく。
髪を軽く結び、部屋の扉をゆっくりと閉じる。部屋を出てリビングの窓の小高い窓から、眩い朝日が差し込むのを見た。
啄木はそれぞれの部屋を見る。直文の部屋と茂吉の部屋ではまだ動く気配はなく眠っているのだろう。
八一の部屋からは気配はない。まだ私情を追っているようだ。あと二つの仲間のいない部屋を見るが一人は実家に住んでおり、もう一人の啄木の相方は別途だ。
二階建てのシェアハウス。啄木は二階の部屋で泊まっており、彼は降りて洗面所で歯を磨く。
髭は生えてくるタイプであるため、髭剃りは欠かせない。髭を剃って歯を磨き、顔を洗う。朝食と昼のお弁当の準備をした。
野菜の味噌汁を多めに作り、スープ用の保温容器に入れる。多めに米を炊いて、昨日の晩飯のおかず残りをもらい、卵焼きを多めに作っておく。手慣れた様子で卵焼きを作る。二つのお弁当箱におかずを詰めていく。
詰めていく中、二階から物音が聞こえる。直文の部屋からである。彼も準備をしているのだ。
「……茂吉については、あいつ自分からやるからいいだろう」
自分の飯の面倒は自分で見るのではなく、茂吉は燃費が悪いので他者に任せられないのだ。
お弁当を作り、粗熱を取る。自分の朝ごはんを用意し、急須に茶葉を入れ魔法瓶に入っているお湯を入れた。窓を開けて、網戸にする。テーブルにご飯を置いて、コップに氷を入れ茶葉が開いたお茶をもらう。
「いただきます」
手を合わせて挨拶をし、啄木はご飯を食べていった。ご飯を食べ終えて、粗熱を取り終えた後にお弁当の蓋を閉じる。ゴムをしておき、朝のおかずとともに二つとも冷蔵庫に入れておく。
急須に残ったお茶をコップにすべて入れる。出がらしとなった茶葉を生ゴミに入れておく。
洗って食器を片付けて、水切りかごに立てかけておく。
テーブルに座り直してリビングにあるテレビを起動させて、気象情報をみる。六時半の時間表示を見たあと、しばらく晴れるとナレーションの声が聞く。
お茶を飲んでいると、一階のドアが開く。
啄木に黒い瞳を向けて久田直文は微笑む。
「おはよう。啄木」
「おはよう。直文。出勤なのに明るいなぁ」
啄木も笑って挨拶をし、指摘をする。言われて直文は嬉しそうに笑う。
「ああ、好きな子の顔を毎日見られるからね。学校はそういう場じゃないけど、少しでもあの子を知れるなら喜んで出勤するよ」
ある少女を救ってから直文は嬉しそうだ。啄木は羨望の瞳を向けて、笑ってみせた。
「いいなぁ。俺も直文みたいに毎日を謳歌したいよ」
「茶化すなよ、啄木。……昨日、話は全部聞いた。お前が憂いている気持ちはわかる」
直文は切なげに微笑み、食事の準備をする。直文もまた啄木と違う状況で、彼の大切な少女が乏しられていた。仲間の姿を見つめて、啄木は笑うのを辞める。
「……ごめん。大人気なかった」
首を横に振って直文は顔を向ける。
「気にしないよ。……それに、俺の場合は本当に運が良かっただけなんだ。
言われた内容に、啄木は黙ってテレビの画面をリモコンで消す。消したのみ、お茶を飲み押して呟く。
「……俺の運振りが良くないな……」
「どうかな。会えただけでも
直文の言葉に、啄木は笑ってテーブルから立ち上がる。
「まっ、確かにそうだな。こんな事で落ちこんでるわけにいかないし、今のことをしてかないとな」
コップを洗い桶に入れる。啄木は食器棚から女性用の箸。コップとお椀を出しておいた。
「野菜の味噌汁。冷めまして冷蔵庫に入れておいてくれよ、直文。あと、茂吉に人間用のふつうサイズのおにぎりを作るように言っておいてくれ」
「ああ、わかった」
返事を聞いたあと、彼は冷蔵庫からお弁当を手にして風呂敷で包む。出勤の準備のために自室に向かう。
ドアを開ける。部屋はまだ暗いままである。無理に起こすのも忍びなく啄木は薄く明かりをつけ、出勤の準備をしていた。
ジャケットを手にし羽織り、リュックを背負う。書き置きのメモを残しておき、啄木は部屋を出た。
玄関に向かい、
「じゃ、いってくるなー」
「いってらっしゃい」
直文の声が響き、啄木は玄関からシェアハウスを出る。出勤する前に、啄木はスマホを操作して通話を始めた。耳を当てると通話の音から切り替わり、心配そうな声が聞こえた。
《もしもし、佐久山さんですか? おはようございます。どうなされました?》
「もしもし、おはようございます。少し気になることがありまして、妹さんの学校生活については大丈夫でしょうか。休む旨は伝えておりますか?」
学校の件だとわかって、葛はほっとしたように話す。
《はい、大丈夫です。俺の方でしばらく休む旨を伝えております》
「申し訳ありません。それだけ聞きたくて、電話をいたしました。三善さんの妹さんは大丈夫ですよ」
《……ああ! すみません。わざわざそこまで気にかけていただき……!》
「こちらから申し出て保護しているのですから、この位は気にさせてください。……では」
苦笑し、啄木は電話を切る。
シェアハウス敷地全体に結界を張ってあるため、今の会話は聞かれない。女郎蜘蛛の
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