4 白椿少女への連絡
曇っていた空は晴れていき、群青色に全て染まる。
夕飯の粥をもらい、真弓が食べる。啄木の作った玉子粥であり、出汁の旨味が彼女はペロリと平らげた。
完食は元気の証。啄木は可笑しそうに笑いつつ痛み止めの薬を出した。
片付けたあと。真弓は携帯電話を手にしながらソワソワする。少女の様子を啄木は近くで読書をしながら観察していた。
兄が心配なのだろうと見てわかる。真弓は普通の陰陽師以上に力はあるようだが、経験不足らしい。『まがりかどさん』で起きた一連を思い出し、彼女を見ていた身内と友人に同情をした。扱いが大変であろうなと。
しばらく時間が経つと、携帯電話が震えてバイブ音を出す。真弓の携帯はガラケーであり、画面を開いて確認する。お兄ちゃん携帯と表示され、彼女は急いで通話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし、お兄ちゃん!?」
《っ! 真弓!? っよかった。無事なんだなっ……!》
安心した兄の声に真弓は表情を和らげて、訳を話す。
「あのね、救援が来る前に助けてくれた人がいるのっ……! その人に代わっていい?」
《……助けてくれた人……?》
不審そうに語る電話の声に、啄木はそうだろうなと息を吐いて立ち上がる。
穏健派と復権派の対立は根深く争いが絶えない。復権派が衰えたとはいえ、残党はいる。少しでも疑心は晴らそうと、啄木は真弓から携帯を受け取った。
「お電話、代わりました。妹さんから話は聞いてます。はじめまして、俺は佐久山啄木と申します。表向きは医師ですが、
《……これは、ご丁寧に》
名前は相手を呪うのに格好の触媒となる。相手側が名を名のならないのは、呪われないようにする為だろう。少しでも怪しまれないようにするため、啄木はある一連の話をする。
「失礼ながら、確認してもよろしいですか。四月の下旬頃、常磐公園にて陰陽師を捕まえていた少女を見たのですが……それは三善真弓さんでしょうか?」
《……っ何故それを……?》
「職場が近かったのです。帰り間際に、
《っ! いえ、その声は……!》
電話の主は気付き、彼は頷く。
「はい、俺が助けました。気絶した彼女と陰陽師を近くに移動させておきましたよ。その後、別の仕事が急に入って彼女を見守ることが出来なかったのが心残りでしたが……すぐに
脚色して、話を彼らに伝える。
納得させるには説得力のある話を捏造し、真実も交えた方が相手は嘘を見抜くのは難しくなる。啄木は狐と狸のように、何から何まで化かすわけではない。
聞いた話に真弓の兄は言葉が出ないようだ。
沈黙が続いており、彼の妹は目を見開いて口をあんぐりと開けていた。真弓自身にある一連の一部の記憶は消されている。記憶がない本人は何が起きたのかわかって頷いていた。
「そうだったんだ……佐久山さんが……」
彼女の兄は慌てて、感謝の言葉を送る。
《……前回も、今回も妹を助けてくださり、ありがとうございます……!
俺は三善葛と申します。よろしくおねがいします、佐久山さん》
「よろしくおねがいします」
名前を名乗ったのは信頼に値すると考えたからだろう。少しでも信頼されたことに啄木はほっとする。考えれば、違和感があるだろう。その違和を見抜く判断材料は真弓が持っている。当の本人が信用しているため、見抜きはできない。
啄木は葛に提案をした。
「早速ですが、葛さん。しばらく彼女が動けるまでこちらで保護してもよろしいですか?」
《いえ、むしろ、お願いします。妹は正義感ばかり強く無茶するので、見ていてほしいのです。申し訳ないですが、よろしくお願いします》
強く頼まれ、真弓という少女の人物柄を一端知って苦笑する。啄木は「わかりました」といい、他の要望があるかどうかを聞く。
「他に要望はありますか?
面会の希望がありましたら、仲間に話を通しておきますが……」
預かる身としては良い待遇をすべきだと啄木は思いながら聞く。電話からは苦渋の声色が聞こえてきた。
《……それは無理です。一時女郎蜘蛛を追い払って救援が来た時には、女郎蜘蛛の
彼らも同じ予想をしている。放たれている可能性がよほど高まった。
容易に動けないならば、啄木にとっては好都合だ。
「なれば、俺が退治しておきましょう」
「《っはっ!?》」
葛と真弓の声が重なる。二人は女郎蜘蛛の強さを身にしみており、一人で退治すると言う発言は驚きだからだ。電話からは慌てた声が聞こえる。
《何を言っているのですか!? あれは、普通の強さの女郎蜘蛛ではありません……!》
「ええ、話を聞く限り、察しは付きます。ですが、こちらとて住まわせてもらっている地域に危害を出したくはないのです。大丈夫。蛮勇、無謀ではありませんよ」
純然たる真実であるが、彼らが知るわけではない。啄木から念を押され、葛はしばらく黙る。真弓は心配そうに見つめた。電話からは仕方なさそうな声が聞こえた。
《……わかりました。ですが、やられても俺に責任は受け付けられませんよ》
「ご安心を。やられるたまではありません。ああ、よければ連絡先を交換いたしましょうか? 彼女の体調が悪くなった場合、何かと連絡がないと不安でしょう」
《……はい》
返事が来て、二人が連絡先の電話番号を言う。啄木はスマホを片手にメモを取って電話番号を書き入れるた何度確認をしながらいい、感謝をしたあとに携帯を彼女に返す。
「はい、返すよ。あと、お兄さんから代わるようにって」
「は、はい……!」
携帯を受け取り、彼女は耳に当てた。
「もしもし、お兄ちゃん?」
《もしもし、真弓。いいか? 佐久山さんに迷惑かけるなよ。お前はオッチョコチョイな部分があるだからな。じゃあ、元気になれよ!》
きつく言われて、通話が切られた。普通の人より耳がいい啄木は、電話の内容に苦笑を浮かべる。真弓は下唇をかみ、赤い涙目でふるふると震えていた。
「……迷惑かけないもん。かけるつもりないもん……!」
しばらく真弓は保護することが決定。啄木は彼女が変なことしないか先心配になるのであった。
眠る前にカーテンをして、啄木は窓から差し込む光をシャットアウトした。明かりを暗くしようとする彼に、真弓は部屋の主のベッドを占領していると気付く。すぐに返そうとするが、啄木は客間用の布団を持って来た。
布団で眠るとのこと。また同じ部屋に寝るのに、真弓は顔を赤くして戸惑う。
同じ部屋で寝ていいのかと少女は指摘すると。
「お兄さんから無茶するのでよく見るように頼まれた以上、無茶させるわけにいかないので。お兄さんから頼まれているのに、手を出すかって。じゃ、おやすみ」
と返し、彼は眼鏡を外して部屋を暗くし眠りにつく。彼女の兄から頼まれている上に、世間体を考えると啄木は正しい。実際400歳以上の半妖の男と十六歳の女子学生という字面だけでとんでもない。
真弓は意識されないのが少し悔しかったが、仕方なく彼のベッドを借りて入る。
微かに良い匂いがしてきて、真弓は安心して眠れた。
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