6 陰陽少女の休養
真弓は目を開けた。
ゆっくりと身を起こすが、少し痛みは走る。部屋の中にある丸時計を見ると、八時半を指し示しめていた。暗くなったカーテンを開けて、光を入れる。窓についている水滴は蒸発しており、外がよく見える。山の近くにあり、整った地区でありながら自然が豊富だ。彼女は引っ越して三保の地区──三保の松原近くに住んでおり、海に近い。
また違った風景に真弓は瞳を輝かせる。
「……きれい……」
地元の人々からすると、普通の町並みだ。真弓からすると、美しい風景に映るのだ。窓を網戸にして、真弓はベッドから降りる。
机の上にある書き置きに気づき、真弓は手にして読み始めた。
【朝ご飯とお昼ご飯は用意してあります。冷蔵庫に味噌汁の小鍋があるので温めて、ご飯はおにぎりにしておいてあります。おかずは冷蔵庫の三段目にあります。お弁当は同じ三段目にあるので、場所の確認をしてください。
暇つぶしはリビングにあるゲームや漫画、テレビ番組などで潰してください。片付けは元の場所においてくれればいいです。
外には出ないように。シェアハウス全体に結界を張ってあるとはいえ、女郎蜘蛛の
絶対に、絶対に、出ないように!! 傷が痛むなら、俺の部屋の机に薬を用意してあるので飲んでください。 佐久山啄木より】
かわいい人の絵が描かれ、プンスコと怒っている。可愛い絵柄に真弓は癒やされた。
近くに着替えと書かれたメモが置かれた服と
【着ているパジャマは洗面所にある洗濯籠に入れるように。女性用の下着は女の先生から選んで送ってもらったものですので気にしなくてもいいです】
手にとって見てみると、真弓が着そうにない可愛らしい普段着の服であった。下着とブラジャーもある。質も良さそうであり、真弓は着替えた。
下着になって、彼女は怪我した部分を見る。包帯が綺麗に巻かれて、薬の匂いが彼女の鼻をくすぐった。
「……お風呂、どうするか聞いてみよう……」
サイズは少し余裕はあるが、問題なく着れる。七分丈のズボンとティーシャツ。靴下も履いて、携帯を手に真弓は部屋を見回す。男性の部屋と聞いて、散らかっているイメージがあった。真弓の予想を裏切るほど清潔感がある。
彼のデスクにある夏椿の髪飾りが目に入った。近付いてまじまじと見つめる。美しい髪飾りだが、啄木がつけるものとは思えない。
「……綺麗。佐久山さんのかな?」
気になりつつも真弓はお腹を鳴らす。ご飯を食べようと部屋を出た。
真弓はエントランスやリビングの清潔感に目を丸くする。
他の住人もいるはずだが、現在は人気なさそうだ。出払っているのだろう。
テーブルの方を見ると、小さな蚊帳があった。階段をゆっくり降りていき、メモに書いてあるとおりに洗面所に行き、身につけていたものを洗濯かごに入れる。
キッチンに向かい、大きな冷蔵庫を調べる。
書いてある通り、冷蔵庫には味噌汁の小鍋と朝のおかず、お弁当が入っていた。ガスの元栓をひねって、ガスコンロに火を付ける。小鍋をおいて、火の勢いを弱くした。
味噌汁の火をかけている間、蚊帳をあける。
お椀とコップ、おにぎりがあり、コップの下にメモがあった。
【飲み物は冷蔵庫にある冷茶を飲んでいいです。 飲み過ぎ注意】
過保護すぎるほどメモが用意されており、真弓はおかしそうに笑った。
味噌汁を温め終えると、ガスコンロの火を切ってご飯を食べる準備をする。
ご飯のおかずの玉子焼きと野菜の味噌汁が美味しく、おにぎりのご飯も完食してしまった。冷茶をもらったが美味しく、落ち着いた。傷の痛みも少しあるため、痛み止めをもらい水で薬を飲む。落ち浮いたあと食器を洗い、水切りカゴに置いておく。
冷蔵庫にある冷茶を貰い、リビングの椅子でホッとしていた。
「……
方言で呟く。三善兄妹は感情が強く出ているときや同郷がいると素の喋りが出る。
机においた携帯の着信音がなり、真弓は手にとって着信画面を見た。お兄ちゃん携帯と書かれており、折りたたんである携帯を出し電話に出た。
「もしもし、お兄ちゃん?」
《もしもし、真弓か? 元気そうで良かった……》
「うん、大丈夫! 佐久山さん。優しいし」
《そうか。そやけど、その佐久山さんはどんだけ凄いんだ? 退魔師とはいえど、妖怪の毒をすぐ
「……言われてみたら……」
妖怪の毒を
動植物に刺されたり、噛まれたりする際はその対処法がある。医療機関にも頼ることができる。しかし、妖怪ともなると全く異なる。妖怪ならば、妖怪に詳しい退魔系の医者が必要である。同じように退魔系の医師のいる病院に通院するべきなのだ。妖怪の毒を啄木はいとも簡単に
「……呪具とか、妖怪系の素材が必要なのに……佐久山さんの部屋……それらしきものはなかったけど……あっそーや……!」
ふっと考え、彼女は椅子から立ち上がる。
「ここのハウスを調べてみたらええ!」
《おい、待て。流石に怪しさがあるとはいえ、保護してもろうてその発言は如何なものか思う》
兄からの冷静的なツッコミに、真弓の思いつきは
「……そやな」
我ながら呆れて真弓は椅子に座り直した。
葛はため息をついて話を続ける。
《まあ、怪しい人ではあるけど、ええ人には違いあらへん。まず、佐久山さん達は俺達の争いに関係ない。変に怪しまない、関わらせない! ええーな》
「うん」
三善兄妹には厄介な問題を抱えている。
穏健派と復権派の争いだ。
穏健派は復権派を革命派と呼び、復権派は穏健派を保持派と言う。
革命派は国家に陰陽師という存在を認めさせようとする。
保持派は、陰陽寮から裏では協会として形が残った形を維持しようとしている。最初は国家に認めてもらおうと、直談判や文をしたためていたらしい。だが、
最初は革命派と保持派は分かれることはなかった。しかし、
葛は陰陽師の中で霊力が強い普通の人間として生まれたが、真弓は『変生の法』を受けて生まれた少女だ。
保持派は人の胎児に『変生の法』をして、妖怪の力が使える人間を産もうとした。結果、霊力の強い人間だけが生まれただけだ。故に真弓は素質は高いが、経験はまだ足りない。
真弓はしょんぼりとする。
「………外に出れへんのが残念……」
《我慢しろ。あと、学校を休むように話したぞ》
「うん、おおきに。……やった!」
《喜ぶな。ただでさえ勉強まずいんや。なんで陰陽師の知識と技術、体育だけは成績がええの……!》
嘆く兄に妹は苦笑するだけで何も言えなかった。学校の机に向く教科はほとんど全滅であり、実技だけが彼女の取り柄。スポーツ選手にならないかという誘いもあるが、真弓は最後の砦と考えている。
兄は話を続けた。
《兎も角、大人しゅうしろや? ただでさえ、真弓はそそっかしさがある上にドジるんやさかい、あの人に迷惑かけなや》
「わ、わかってんで! お、大人しゅうしてる!」
注意されて慌てる妹に、兄は怒り始めた。
《保護してくれた人の部屋を物色しようって言うた妹を信用できるかっ!?
兎も角、佐久山さんに妹の取扱書を送っとくな!》
「なにさ、おにいのあほ!! モテへんのに!」
《一言余計や! おっちょこちょいなあほ妹を面倒見る身にもなれ! じゃーな!》
ブツリと電話が切れた。切れた電話を見つめ、真弓は涙目でぐずる。
「……おにいのあほ…………おにい」
喧嘩はするが、普段は仲の良い兄妹だ。葛と真弓には親はいない。妖怪退治の最中に亡くなった。
まだ葛が十代で真弓が一桁の年の頃。葛は妹の面倒を見ながら陰陽師の仕事、学校などに通っていた。彼の友人と陰陽師協会の人からも支援を受けながら、二人は立派な陰陽師と陰陽師見習いになってきている。
唯一の肉親である兄に対して、真弓は本当に悪く言えない。
「……出来る限り、お兄ちゃんの言いつけは守らないとな」
大人しくするために真弓は立ち上がって、テレビのニュースを見る。バラエティや教育系などローカル番組などがあり、真弓は興味津々にローカル番組を見ていた。
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