2 ショッピング日和の最中2
今後の方針として『相手の出方を伺う』と決まった。狙いが依乃である以上、目的が何かを探らなくてはならない。
啄木と真弓は協会側を探る役目をになった。
茂吉と澄は、囃子で行方不明になった人々はどれほどいるのかの確認。
八一と奈央は依乃の側にいて見守る役を担う。日常の異変に気づく役目とも言えよう。
依乃を守る為に直文が付きっきりで護衛をすることになった。依乃の家族には巻き込まれないように直文が裏で根回しをする。
今日はショッピングをすると約束をしており、警戒しつつ彼らはショッピングを楽しむことにした。
勉強をし終えたカフェを出て、出来たばかりの商業施設へと向かう。
地下は食べ物が売っている食品コーナー。
一階は服やワイン輸入店。駅と隣接している。
二階は服屋と喫茶店があり、三階はフードコートに雑貨店と服屋。
四階は電気屋と雑貨屋が多く並び、五階はレストランと本屋。
最上階には映画館があり、映画館と五階の間には駐車場がある。茂吉と澄、啄木と真弓は三階の雑貨店に、直文と依乃、八一と奈央は服屋にいた。
女物と男物を売っており、奈央と依乃は互いに服を持って見せ合う。
「ねぇねぇ、これ雑誌に載ってた服だよね? どうかな、はなびちゃん。似合う?」
「いいと思うけど、私には奈央ちゃんはこれが似合うかなと思うの」
「あっ、じゃあはなびちゃんはこれだね! で、この服で明るい色の服を着て花火みたいな感じにするのどうか?」
「んー、ちょっと色が明るすぎるかも……」
奈央が少し暗いのものを見せるが、依乃は温かみのある暖色の秋物の服を見せる。トレンドものを合わせて奈央は見せるが、依乃は指摘をする。指摘を受け、奈央はじっと見て「そうかも?」と首を少し傾げた。
明るい友人を見て、花火の少女は言いたかったことを口にしようと決める。悩ましげに服を戻す向日葵少女に依乃は感謝をした。
「奈央ちゃん。ありがとう」
「ん、どうしたの? はなびちゃん」
唐突の感謝にキョトンとし、依乃は表情を柔らかにした。
「今回の件、私の為に調べてくれたんだよね? 奈央ちゃん。怪談見るの好きだから、その好きを活かしてくれたんだと思ったんだけど……違ったかな?」
友人から言われ、奈央はふんすと自信満々に胸を叩く。
「違くないよ! それに当然だよ。だって、はなびちゃんは私の親友だもん。私と出会ったときだって、私が連れ去られたときだって、依乃ちゃんは私を助けてくれたし支えてくれた。居てくれて、気持ちも救われた。だから、私も依乃ちゃんを助けたいの」
あの日から奈央の明るさに救われ続けており、依乃は嬉しそうに笑った。
「……えへへ。私も困ったときは助けるね。奈央ちゃん!」
奈央は嬉しそうに微笑んだ後、恐る恐ると依乃に呟く。
「……じゃあ、早速だけど……八一さんの埋めた外堀を少しでも掘り返す方法を思いついたら教えてほしいんだ。はなびちゃん。いや、婚約者というよりかは親友として見られたい」
奈央の無茶振りとも言える頼みに、依乃は苦笑した。どんなにいい案を出そうが、八一が覆してしまう可能性がある。親友として無理なものは無理だと依乃は口にする。
「奈央ちゃん。勉強は教えてあげられるけど、それは無理。ごめんね」
「ええっ! そんなぁ……」
奈央は涙目になるが、依乃は苦笑する。
奈央の背後を見ると、八一が凄く悲しそうな顔で見ていた。
話を盗み聞きしていたらしく、泣きそうな子犬を連想させるほどの悲しげな顔をしている。依乃はぎょっとすると、呆れた直文が「ふざけるな」と彼の頭を叩いていた。八一のいたずらっ子の微笑みを浮かべ、「すまない」と口と行動で謝り、奈央に近付いていく。
足音や気配もなく近付いていく。獲物を狙う動物の如く、奈央の両肩を掴む。
「おっじょーさん!」
「ぴゃっ!?」
驚いて振り返る奈央に、八一は楽しげに笑う。
「おっ、可愛らしい反応だな。奈央嬢さん」
「や、八一さん!? お、驚かせないでよっ!?」
「あっはっはっ、悪い悪い。で、服選び、いいの見つかったかい? 買ってあげようか?」
何処からともなくブラックカードを出し、奈央を困惑させた。
「い、いい。自分で買うからいいよっ!」
「冗談だよ。冗談。買うなら、私がちゃんと見立てて買うからな」
顔を合わせて悪戯っ子のように笑う八一に、奈央は頬を赤くして彼の顔を真っ直ぐと見る。
「じゃあ、その時はよろしくお願いします! 八一さん!」
怒ったように告げ、八一の目を丸くさせた。奈央は顔を赤くしたまま、依乃の手にしていた服を商品棚から取って会計に向かう。八一は瞬きをし、顔を片手で押さえた。依乃はその姿を見て、可笑しそうに笑う。
「……稲内さん。大丈夫ですか?」
「……」
深いため息をついて、沈黙をする八一。手の間からは少し赤い顔が見え、耳も赤い。直文がやってきて、彼の肩に手を置く。
「八一。もしかして、その時を想像したのか?」
「……ゴソウゾウニオマカセシマス」
棒読みで返し、八一が顔から手を外すと赤みは引いていた。八一は会計している奈央の元へと向かう。直文が近付き、声をかけた。
「依乃。何か気になるものはあるかい?」
「いえ、気になるものはないです。……直文さんはありませんか?」
「無いかな。殆どのファッションは雑誌と店頭に立つマネキンの服をそのまま購入しているし、茂吉に服の選びは任せてたりしてるんだ」
最初の頃、エプロンの柄の件について思い出す。不信に思わない時点で、ファッションに興味はないと依乃は推測した。元々素材がいいため、店頭のマネキンが来ている服が全て似合う。
お礼した機会があまりなく、依乃はチャンスと感じ直文の腕を掴む。
「直文さん。少しメンズものでも見ませんか?」
「えっ、メンズ? いいけど、どうしたんだ?」
「えっと、見たいのです! いきましょう!」
「えっ……あっ、うん……」
ゴリ押しで直文を押し切り、メンズの方へと向かう。出かけ着はあると考え、依乃は部屋着と併用できる服を選んだ。ニットのタートルネックに七分丈のおしゃれな上着など、似合いそうなものを見つける。
服を合わせてサイズを図り、彼に入るサイズの服を試着させる。選ばれて試着される流れから直文は意図が読めておらず、困惑した表情であった。
二着ほど服を決めて会計をする。お小遣いで買える範囲であり、ついでに包装をしてもらう。紙袋に入れてもらい、直文と共に店の外に出る。
両手で紙袋を直文にわたす。
「どうぞです。直文さん。いつものお礼です」
「……えっ、それ、俺の?」
キョトンとして自分を指差す。依乃は何度も頷き、照れながら笑う。
「直文さんにいつもお世話になっているので、どうしてもお礼をしたかったんです。本当は服だけでは足りないと思っているのですが……この先も恩を返せたら返させてください。
よ、喜んでくれるはかわかりませんが……その、部屋着とかに使ってくださいね」
直文は受け取り、紙袋を見る。依乃が何を買ったのか、見て知っている。依乃から貰った。自分の為に考えて選んでくれた。考えている姿を間近で見れた。三点だけで男の沽券はどうでもよくなり、直文は表情を明るくしてにこやかに笑う。
「──ありがとう! とっても嬉しいよ。依乃!」
眩しい笑顔に依乃は眩しく感じた。
子供のような嬉しそうに紙袋を見る直文に花火の少女は照れている。直文は少し離れたところにいる八一に声をかけた。
「おーい! 八一、見てくれ。依乃が、依乃が俺にくれたんだっ!」
「っなっ、直文さん!? ちょ、ちょっと! そんな大声、ださないでくださぁい!」
両手で紙袋を持って自慢げに八一に駆け寄る直文。それを見て依乃は羞恥心をいだき、止めに入ろうと走り出したとき。
ぴゅーひょろろーぴゅろろ ぴゅーひょろぴゅーろろ
ぽんぽん ぽん ぽぽん ぽんぽん ぽん
かん かん かん かんかっかん
笛の音と太鼓の叩かれる音に、当たり鉦の音が高く響く。
花火の少女の背後から、場に似合わない祭囃子が遠くから聞こえてきた。
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