1 ショッピング日和の最中1

「皆、この創作怪談……洒落怖を見てほしいな」


 奈央はスマホを操作し、怪談図書館のサイトのURLをメッセージアプリに送る。全員はそこにある怪談図書館のURLを開いた。


 十月上旬の休日。


 静岡市葵区の本屋と隣接したコーヒーチェーン店に彼女たちはいた。ソファーの一角にて。四人の少女はノートと問題集を広げて、四人の男性からそれぞれの教科の教えてもらっていた。

 有里依乃は数学を久田直文に採点を。稲内八一は日本語での会話を禁止にし、英会話で泣いている田中奈央の英語を教えていた。高島澄は法律関係をクイズ形式で寺尾茂吉から出され、佐久山啄木は厳しい顔で涙目の三善真弓に化学を教えていた。

 依乃たちの学校のテストが近く、真弓は控えているため啄木がスパルタで仕込んでいるのだ。勉強に一息つき休憩をしている最中、奈央が話を切り出した。それが、冒頭の台詞。

 依乃は怪談図書館に載っているタイトルを読む。


「『送祭り』、『留囃子』、『影奉納』、『神幽婚』、『送囃子』……?」


 全員は内容を簡単に見る。直文と画面を見つめ、八一に顔を向けた。


「八一。これシリーズ物、もしくは長編か?」

「どっちも正解。これは『送囃子』で終わる。案外、儀式シリーズとも言えるかもな」


 直文に答えた内容に、依乃は小首をかしげた。


「えっ、怪談にシリーズとか、長編があるのですか?」

「実はあるんだ。はなびちゃん」


 奈央が教え、自身のスマホでそのまとめた怪談のシリーズものと長編の項目を見せる。師匠シリーズ、巣くうもの、それぞれの長編とも言える怪談の項目があった。奈央に見せられた項目を見て、依乃は震えて直文の腕にしがみつく。この全てが実際に現実として現れた場合、真っ先に狙われるも想像したからだ。

 怯えながら依乃は、親友に聞く。


「な、奈央ちゃん。そ、その儀式シリーズが……なに……?」

「あのね……依乃ちゃん。日付を注目してほしいの」


 奈央は顔を顰めてスマホを操作し、とある掲示版を見せた。

 掲示版のタイトルは『自分の体験した怪奇現象をあげてって パート23』というようなタイトルである。パート23と続いている当たり、長期の掲示板のタイトルらしい。その掲示板は九月に新たに建てられたばかりであり、多くの人間が書き込んでいるようだ。

 皆に見せるように奈央は画面を開いてみせた。指で画面をスライドさせ、下におろすとそこにはこんな書き込みがあった。


【なんだか、祭囃子が聞こえるんだが。近くの道路で着物着た子供が遊んでる】

【なにそれ】

【囃子と子供の声を聞いたあと、その後に影がなくなったんだが】

【こわっ】

【なんか、別の祭り囃子が聞こえるw

着物着た子供が遊んでる姿が見えるし、なんか影もないw 近くで祭りでもやってるんだk】

【ん? どうした】

【おーい……】

【返事がない。ただの屍のようだ】

【あっ、わいも時々祭囃子が聞こえる。近くで祭りをやってないのに何なんだろ】


 ここ先は怪奇現象の体験と時々祭り囃子が聞こえるという報告があるぐらいだ。日付に注目をすると、掲示板が建てられて間もない頃に投稿されたようだ。

 更に、奈央はSNSのアプリを操作し、検索したものを見せる。


【祭り囃子は昨日も聞こえた。近くで子供の声を聞いてたら、影がなくなった】

【昨日から囃子の音が強くなってきてる。着物を着た子どもたちが遊んでるけど、祭りをやってるのかな】

【囃子の音が聞こえて、友人の影がなくなったと。しばらくしたら友人がいなくなってました。3日も帰ってません。家族が捜索願を出してますが……】


 9月頃から同じようなつぶやきが載っている。数は少ないが、一昨日に同じつぶやきが投稿されていた。依乃はこの『送祭り』が現実に起きていると考えたが、八一が操作したスマホが奈央のスマホの横に置かれる。


「で、これが『送祭り』の儀式シリーズが投稿された掲示板だ」


 この『送祭り』を内容を知っているため、日付だけを確認する。


「「……えっ?」」


 きょとんとし、直文と依乃は声を上げた。茂吉と澄は険しい顔をし、啄木と真弓はありえないという顔をしている。

 その月とは同じ9月。祭り囃子が聞こえ始めた時期に投稿されていた。新作の創作怪談が、同時期だが誕生している。

 多くの人間に語られることにより、創作怪談の怪異は生まれる。

 現実に顕現させるには条件が必要となるが、現れれば脅威となる。しかし、そう簡単に生まれるはずがない。生まれる条件が揃わなくては生まれない。語られてすぐに生まれるはずがない。


「田中ちゃん、八一。二人の画面にあるURL、グループのところに送ってくれるかい?」


 茂吉は二人に声をかける。


「は、はい」

「りょーかい」


 奈央と八一はスマホを手にして、手を動かす。

 グループに送られ、全員は自分のスマホで操作し、奈央と八一のスマホの画面にあるサイトへと飛ぶ。全員はそれぞれの難しそうな顔をする。内容はともかく、日付が一番の気がかりだ。

 茂吉は険しい顔をして、画面を指差す。


「完璧に可笑しいな。怪談に子供のことなんて書かれてないし、発生時期と投稿時期を合わせようとしているように思える」


 澄は画面を見つめ、頷く。


「そうだね。怪異を発生させるなんて、ある程度の認知度がないと駄目だ。私はこれは意図的だと思う。茂吉くんの見立ては?」


 問われ、茂吉は頭を掻く。


「うーん……俺も澄と同じ事を考えているけど。急に拵えたって感じが否めなくて、ちょっと引っかかりを覚える」


 画面を見つめ、啄木は怪談図書館のホームページを見る。儀式シリーズを載せた日付を投稿してから同時期だ。考えるように見つめ、全員に提案をする。


「この怪談図書館も早くに掲載されている。俺はこの管理人とは知り合いだから、このあと聞いて見るよ」

「あっ、啄木さん。私もお兄ちゃんたちから探ってみるいってっ」

「このばかもん。こういうのは俺の仕事だ」


 真弓も協力しようとするが、啄木に呆れられてデコピンをされた。


「お前は日常生活を送ってろ。陰陽師というより、身内を欺ける自信あるのか? 真弓」

「……うっ、ない」


 指摘され、真弓は落ち込んだ。真弓は問題児ではあるが根は善良であり、相手を欺くのは得意ではない。

 依乃は怪談図書館とSNS、掲示板の日付を見て考える。一日ズレているが、同時期に怪異を発生させている。怪異の誕生は前提として、多くの人間に認知され語られなくてはならない。これを見てから数ヶ月過ぎているとはいえ、行方不明の事件がオカルトに関わっているかなどの証明はニュースだけでは不可能だ。


「……此処から先は推理になりますね……」


 依乃の言葉に、直文は頷く。


「うん、そうだね。でも、推測はできることはあるよ」


 推測できると聞き半妖の三人は直文に目を向け、八一は真剣に聞く。


「直文。推測でもいい。お前の考えを聞かせてくれ」


 直文は頷く。


「了解。まず前提として創作の怪異は『多くの人間に認知されないと生まれない』だろう。いくらマイナーであろうが、人に知られて語られれば知られる。

語られなくとも、意志ある強い力や人から転じて生まれた怪異妖怪がいる。しかし、創作の怪異はこれには含まれない。

これらの前提条件、今まで俺たちが遭遇した事件の報告。これらを照らし合わせた推測として……今回の儀式シリーズはこれからなろうとしている可能性。怪談として、現在進行で成立させようとしているかもしれない」

「……なるほどね。今で遭遇した事件、直文と有里さんの件を踏まえて……『まがりかどさん』、『だょたぉ』、『三年二組の井口くん』。これらの件で遭遇した共通項が意図的に誕生させたという点だな。だからこそ、成立させようとしているってことか」

「そうだ。だが、これは推測だ。八一」

「いや? だとしても、説得力はあるし思い当たる節があるさ。なおくん」

「そうか? やっくん」


 二人の会話を聞き、啄木は考えるよう真弓と顔を合わせる。


「俺たちが破壊した『継紅美村』は……そういうのなかったよな」

「うん、私とお兄ちゃんたちに与えられた任務はあくまで調査だったから……ってあれ? ……調査?」


 真弓は瞬きをしていると、啄木も目を見張って『継紅美村』の件を話す。


「そうだ。解決じゃなくて、協会からは調査だったな。俺は調査をしてから怪異の解決をするのかと思ったが……」

「協会の本当の目的は違うってこと……? 啄木さん」


 指摘され、真弓に首肯した。


「ああ、『継紅美村』は『迷い家マヨイガ』の要素が強い現象に近い怪異。もしかすると、協会の方で調査にきた理由は……この現象系の怪異について調べていたのか?」

「何のために?」


 真弓の疑問を答え為に、啄木は視線を依乃に送る。依乃はびくっとする。全員は察したのか、有里依乃に目が向いた。直文は依乃を片手で抱き締め、答えを口に出す。


「依乃だ。陰陽師協会も何かの目的で依乃を手に入れようとしている」


 彼の声色は、氷点下まで下がっていた。奈央は怯え、八一の腕に張り付く。真弓は息を呑んて啄木はため息を吐く。茂吉は呆れ、相方に声をかける。


「……で、その陰陽師協会の目的は? わからないのに怒っても仕方ないだろう。直文」

「……そうだな。茂吉、悪かった」


 相方から水をかけられ、熱が冷ましたのか直文が落ちつく。茂吉の言う通りだ。ここで怒りを顕にして、陰陽師たちと怪異が出てくるわけではない。澄は真剣な顔で提案をする。


「……なおくんの推測は説得力はある。けど、推測でしかない以上、今後を話し合ったほうが良いんじゃないかな。方針も必要だた思う」


 最もな意見を澄がいい、茂吉は手を上げて笑う。


「はーい、俺はとーるに賛成。というよりと、相手からしてくる可能性が高いから何かしらの対策はしておいたほうがいいよ。相手側は確実に動いてる。直文、お前は特に警戒をした方がいい。間違いなく、有里ちゃんを狙っている」


 直文は頷き、拳を握る力を強くする。依乃は自分がまた狙われている実感が込み上げ、胸を掴んだ。 

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