3章 番外

『三年二組の井口くん』

 私の通っていた高校にこんな話がありました。

 まだ私の高校が木造の校舎の頃。ある一人の男子生徒がいました。三年二組の井口くんという大人しい子がいたそうです。

 中学に入るまでは、本当に普通の子で普通の親で穏やかに暮らしていきました。中学に入学してからは、その大人しさ故に厄介な子達に目をつけられていじめられていたそうです。

 パシリや殴り、お金をせびるなど。抵抗をしたようですが、リンチの如くボコボコにして反撃してきます。まだ中学の時は先生と友人が良くて、言えば何度も注意をして叱っては止めてくれていたようです。しかし、彼が本当に暗くなったのは高校入学時。

 彼の友人達は、別々の高校へ行きました。

 彼の高校はなんと同じように厄介な子達も入学してきたのです。中学の時、先生に叱られた腹いせにまたいじめを始めます。井口くんは担任の先生に助けを求めましたが、その先生は。


「××達は井口と仲良くしたいんだろう。××も仲良くしてやれ」


 と保身に走ったそうです。

 井口くんは絶望しました。それから何度も助けを求めて、別の顔見知った先生にも頼んだそうです。ですが、どの先生も保身に走るばかり。

 やめてと訴えてもやめない厄介な子たち。抵抗しようとも数でリンチの如くボコボコにする厄介な子たち。

 井口くんの親はいじめに早く気付いた段階で先生や警察に相談や訴えをしました。が、取り合ってくれないようです。

 この当時はいじめを大きく問題視していない時代で、まだネットが普及してない時代なのでそう大きく取り沙汰されないのです。

 親は井口くんに謝りました。親は悪くないのに井口くんに「なにもしてやれなくて、すまない」と謝ったそうです。

 井口くんは親にも迷惑かけていることを気に病んで、三年生になったばかりの頃に学校に行くのをやめました。今で言う不登校ですが、その後の井口くんは非行に走ったりしてません。彼は親思いの優しい子だったのです。

 しかし、彼は自殺しました。

 学校に行けばあの厄介な子たちがいる。いじめを無視する先生がいる。親にも迷惑かけてしまう。誰も助けてくれない社会に絶望して自宅で亡くなりました。


 ここまで来て展開は予想できるでしょう。

 その彼は自殺したあと幽霊になって、復讐するために悪霊になっているんですよ。


 ありきたりパターンですが、この話の怖いところは『復讐の仕方』なんです。


 かつてのいじめた厄介な子たちは、各自宅で復讐をしました。

 親のいない時間で、自分とボコボコにして同じ目に合わせたのです。

 ボコボコにして、ボコボコにして、ボコボコにして、骨が折れるまで、血が出るまでボコボコにして、満足するまでボコボコにして、満足した最後に首に紐をつけて絞殺しました。


 保身に走った先生には何度も目の前に現れて、自分の死んだ姿を現してやりました。勿論、先生は慌てました。「死んだはずの井口があらわれた」と周囲に言いますが、周囲は信じません。


「幻覚でも見ているんじゃないのか。井口はいるわけ無いだろう」と。


 各先生は絶望しました。

 井口くんはその保身に走った先生方を、追い詰めるように目の前に現れました。井口くんが満足するまで追い詰められた各先生は後に事故死したり、自殺したりして亡くなっていきます。


 親と自分を苦しめた人を許せなかった。彼は各先生も厄介な子達の親族すらも追い詰めていきます。


 あんな彼らを野放しにした人間を許せない。産んだ彼らを許せないと。


 井口くんは復讐心が満足するまでボコボコにして、満足したあとに絞殺して。復讐心が満足するまで追い詰めて、死に追いやって行きました。しかし、そんな彼の凶行はある日を堺にパタリと止みました。

 

 実は、彼の中学時代の恩師と友人がお参りにやってきたからです。彼の亡くなった経緯を聞いた彼らは厄介な子たちと各先生方とその親族が亡くなったのを知って、止めるのに説得しつつお参りをしました。

 墓を参り、井口くんの家の仏壇に彼の好物のクッキーをお供えをすると、井口くんの復讐は止まりました。

 家族以外にも自分を大切に思う人が居てくれて、嬉しかったのでしょう。自分のしてきたことを恥じたのでしょう。


 彼はそれ以降凶行に及ぶことは……なかったはずなのです。


 数年後、井口くんの恩師が亡くなりました。その恩師を殺したのは恩師の息子です。

 どうやら相続の問題で言い争って、刺してしまったようなのです。その恩師の息子は自宅で亡くなった状態で発見されたようです。


 噂によると原型かなくなるまでボコボコにされて、体中に青痣ができていた。またその息子の首に縄が強く結ばれていた……とのこと。

 ただの噂なので、実際はわかりません。

 ……ですが、井口くんのかつての友人がブラック企業に勤めて死にかけた時は、その会社の人間が尽く何かしらの事故や原因不明の病気で亡くなっているのです。

 今まで大人しく見守っていたけれど、彼の大切な人間を傷付けられて怒ったのでしょう。

 井口くんの凶行はぶり返しましたが、また何とか助かった友人がお参りをしたおかげでその凶行は止まりました。その凄まじさ故に、長くに渡って井口くんの話は語り継がれて有名になっています。


 そんな私の高校では、一時おまじないが流行りました。使われてない教室で井口くんの力を借りようとするおまじないです。

 教室の真ん中に机をおいて、蝋燭ろうそくを二つ立てます。真ん中に人形と井口くんの好物をおいて。


「三年二組の井口くん。三年二組の井口くん。どうか、お助けください。私を傷付ける×××を滅茶苦茶にしてください」と唱えるのです。ロウソクが勝手に消えて、机ががたっと揺れればその人形に井口くんが乗り移った証らしいのです。

 

 しかし、これの成功した話は聞いたことありません。このようなまじないが広がらないように、私の高校ではお菓子の持ち込みは禁止になってます。


 ですが、県外ではこの『三年二組の井口くん』が流行っているらしいです。

 そう言えば、県外では自宅で中学生男子と女子が原型なくボコボコにされて絞殺される事件があったようです。

 身内が怪しいと警察は語ってはいますが、実際はどうなんでしょうね。



『三年二組の井口くん』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る