6 陰陽師の目的
地元のかっぽれにはノーマルバージョンとねぶた、レゲエ、エイサーなど(またちょっと先の未来ではフラメンコが追される)。その地域で踊られる地踊りなどがある。地踊りからのかっぽれに切り替わる際の難易度が跳ね上がる。地踊りはできたとしても、彼女は直文達がかっぽれの振り付けは覚えられるかどうか不安であった。かっぽれのノーマルは問題なくとも、それ以降が難易度が上がってくる。
■■は心配していたが、その心配は無用である。
彼らは画面の踊りを見ただけで、一瞬で振り付けを覚えた。またエイサーの前半部分の約二十五秒間の間奏の振り付けはフリー枠だ。そのフリー枠で、彼らはプロ並みのキレっキレなダンスを決める。誰かが無駄なクオリティというほど、振り付けも上手い。彼らが完璧に踊れると知って、彼女は安心して奈央をしごくことができた。
踊りの練習が終えて、奈央は床に尻餅をつく。奈央の流れる汗の数ほど、■■にしごかれた証拠だ。
「ふぁあ、疲れたよー。はなびちゃん」
「部活ほど疲れないと思うけど、奈央ちゃん。今回の部活動に参加しなくてよかったの?」
「はなびちゃん。いいの、先生にも言ったし」
話している最中、奈央の隣にペットボトルが置かれる。彼女は驚いて見上げるが、置いた人物は背を向けて歩いていく。置いたのはフードをした人物。直文の友人であった。ペットボトルはスポーツドリンクであり、今の季節にちょうどいい飲み物だ。
奈央は慌てて声をあげた。
「あ、ありがとうございます!」
彼は部屋を出ていく前に手を上げて振る。気にするなと言っているようだった。部屋を出ていくと、奈央は手にした未開封のペットボトルをつかみ、頬を赤くして震える。
「か、かっこいい……! あんな風に行動で気遣いを見せるなんて、うちの中学の男子に見習わせたい!」
■■は思った。経験がある大人が許される行動であり、人によっては許されない為推奨はしないと。澄は苦笑しつつ、■■にペットボトルを渡す。
「確かにかっこいいけど、奈央はイケメンに弱いの良くないよ。変な男に騙されるかもよ。はい、はなび」
「先輩。ありがとうございます」
奈央と同じのスポーツドリンクだ。■■は開封して開けて飲む。目線を動かすと、茂吉が男の子と女の子に囲まれて笑い話をしていた。先程まで男子から嫉妬の視線を送られていたが、彼の話術で懐柔されいる。男女関係なく、茂吉は笑顔を振り撒いていた。情報収集を得意としているだけあり流石である。だが、前回に彼女は茂吉の異質さを知っている為、ちょっとだけ怖く感じる。
「はなびちゃん」
直文に呼ばれて、彼女は振り返る。
「直文さん。どうしました?」
「飲み物がほしくて。近くのコンビニの場所がわからないから、案内してもらいたいんだ。ここに来たばかりだから地理がわからなくて……いいかな?」
返事をする前に、横から茂吉が手を上げる。
「はいはーい、俺も俺も、コンビニで食べるもの買いたいから案内して欲しいな!」
「っは、はい! わかりました」
要求を呑んで、鈴木と奈央達に一言つけて三人は部屋を出ていった。
玄関でシューズを靴に履き替えて、■■は気付く。茂吉は情報収集が得意だといっていた。近場のコンビニぐらいは知っているはず。前回の件で直文は、新田辺りの地理を把握している。■■は二人に問う。
「あの、二人はここの近くのコンビニぐらい知ってますよね?」
「今朝、言ってたこと。話す時間を作りたかったのさ」
直文に教えられて■■は気付いた。彼らの抱えている仕事は容易に話せるものではない。何事もなく装って、連れ出したのだ。
三人はスタジオの外を出て、離れた場所で茂吉が話し出す。
「陰陽師派閥争いの発端は、戦後にある家系がある術を作り出したこと。傀儡子の人形劇と魂呼ばいに術を見いだして、反魂の秘術から発想を得て研究して産み出した術。『変生の法』と言うのさ」
■■は瞬きをすると、直文が説明をしてくれる。
「これは、他者の器に魂を入れる術だ。魂は生者死者の関係ない。何もない器に魂を入れて生き物と生かすといっていい。見方によれば、死者の蘇生。体の乗っ取り。まあ外法にもなるね」
聞けば聞くほど■■は凄さと怖さを感じた。体を乗っ取り、死者を蘇生させる。この二つは人によって悪事に使えると、考えられる。■■は思い浮かんだ疑問を彼らに聞く。
「それは、貴方達の目的と関係があるのですか?」
茂吉は二人の前に立ち止まり、両手でパチンと指を鳴らす。
「鋭くていい質問☆ 君、頭いいね! 問題なのは、死者を戻して生者を使うこと。あの世から呼び戻される強力な妖怪のような存在を使うため、生者の使用を阻止しているんだ」
茂吉は微笑みの形を変えて■■を見つめる。
「そう、君のような存在を器として使うのをね」
器として使うと聞いて、名無しの彼女はビックリして自分を抱き締めた。自分も名前を取られて、曖昧な状態になっている。眉をひそめる直文を横目で見ながら、茂吉は淡々とした口調で微笑む。
「術を利用して式神を作ろうとしている人間が居る。ああ、けど相手側がここまでして君を狙おうとするなんて、はなびちゃんは今までの中で最高な器だろうね。魂と器が清いから、きっとより良く強いものを降ろせ」
「茂吉」
直文が強く冷ややかな声を呼ぶ。■■もビクッとして、恐怖を感じた。光は優しいが、強すぎると相手を焦がすことできる。直文は相手を焦がすほどの怒りを瞳に宿していた。名無しの彼女は怒気で体が震える。凄まじい剣幕で、直文は手から一枚の
「故意に彼女を怖がらせるにはそこまでだ。それ以上は、お前でも容赦はしない」
茂吉は呆れたように両肩をあげる。
「なおくんたら、この子に対しては甘くなるよね。一緒に居たいなら、俺達の残酷な面を教えないと駄目だよ。直文」
「彼女の名が戻るまでの間、傍らに居続けるだけだ。けど、彼女が傍に居てほしいなら居続ける。彼女には辛い目にあってほしくない。俺は、彼女には幸せであってほしい。大好きな笑顔を浮かべ続けてほしいんだ」
真剣に告げる直文に、■■は一瞬だけ感動しかけた。
が、彼の発言に気付いて■■は目を丸くした。直文からとんでもない愛の言葉を聞いたのだ。恐怖を感じるどころか、顔が熱くなる。呆れる茂吉に顔を赤くする名無しの少女。二人の様子を伺って直文は焦った。
「……えっ、何で二人とも黙っているんだ? なんか調子が悪いのか?」
「なおくん。平然と本心を真剣に言うなんて、本当にそういうところだぞ」
茂吉は突っ込みをするが、直文ははてなをたくさん浮かべて瞬きをする。天然な友人に茂吉は笑顔を作らずに頭を抱えた。愛がそこになければないが、彼の場合そこにあるので厄介である。尚、愛の告白を聞いていた本人は顔を赤くして混乱していた。ぎすぎすした雰囲気から突然の思い暴露なのだから、当然混乱する。
混乱する状況に茂吉は溜め息を吐き、本題に戻った。
「……まあ、つまりね。陰陽師の争ってる人は強いものを清い器に移して使役し、相手の派閥を牽制OR倒したいんだよ。今の君は相手側したら、格好の獲物。けど、その獲物がなかなか手元に来ないから向こうも焦っているんだよね。強い存在が甦ると、人や妖怪側に多くの死者が出ると予想できるから、俺達はその存在の顕現を阻止したいの」
「そ、そうなのですか」
話を要約してくれた茂吉に■■は頷く。話題を切り替えられて、直文が怒り出す。
「あっ、茂吉。本題に戻るなっ。お前についてちょっと叱らせろ!」
「険悪な雰囲気から、お前の無意識天然発言のせいでなあなあになったんだけどなぁ!?」
茂吉が突っ込みを入れると、彼は「えっ」と間抜けた声で瞬きをする。そのあと、暫し考えて直文は「ごめん」と謝る。素直でよろしいことだと茂吉は頷く。
二人のやり取りを見ながら■■は笑ってしまう。仲がいいとやり取りを見てわかったからだ。
歩きを再開して、三人はコンビニに着く。
コンビニで直文は冷たいバニラアイスを買い、彼女は甘いジュースを買う。茂吉は各おにぎり全種一つずつ、各サンドイッチ全種一つ。売られているパンを全種一つずつ。全サラダ各種一つ、表にあるジャンクフード系全種一つずつ。売られている肉まん系を一つずつ買っていく。ビニールに入っている量に■■は呆然とした。直文は見慣れているらしく、買ったものを聞いていた。
「もっくん。なに買った?」
「おにぎり、サンドイッチ、パン、サラダ、ジャンクフード、肉まん系。それぞれあるもの一つずつ買ってった。デザート系は冷たいのが多いから、これを食べ終えたらいくつもり。本当はコンビニにあるもの全部購入したかったけど、あとの人が困るからセーブしたんだ」
名無しの少女は「これで?」と一瞬だけ思った。茂吉という彼の胃袋かどんなものなのか気になった。■■の視線に気付いて、直文は苦笑する。
「はなびちゃん。茂吉の食べる量に驚いているようだけど、俺の組織にはこいつより多く食べる人は山ほどいるからね?」
「マジですか」
二人は茂吉を見る。食事の挨拶をしてから、美味しそうによく噛んでおにぎりを食べている。食べるペースが早く、■■は言葉を失う。呑んでいるのではなく、よく噛んでエネルギーになる食べ方。
直文はアイスを食べながら、■■と共に茂吉の食いっぷりを観賞していた。
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