5 ▼直文達が 仲間になった!
報告をするとOKと返事をもらい、運営の方に連絡をしてくれるらしい。午前10時から踊りの練習がある。それまで、全員で一通りの家事をした。三十分前に練習場所のダンススタジオにいく。
直文は後から来るらしく、彼女達は自転車で練習場所に向かった。服装は動きやすい格好にしてある。彼女達は自転車を停めて中へ向かう。
玄関の下駄箱には多くの靴があり、■■には見覚えのあるものばかりだ。靴を下駄箱に入れて、スタジオに上がる用のシューズを履いていく。
目的の部屋に入る。広々としており、彼女達より年上と年下の青年少女が彼女を含めて七人、五十代か四十代の男性と女性もいた。おじさんの一人が名無しの少女に声をかける。
「おっ、■■ちゃん! 毎回参加だからせいがでるなぁ」
「っ……はい。鈴木さん。よろしくお願いします!」
彼女は一瞬だけ言葉を詰まらさせるが、何とか返事をする。彼女の挨拶に鈴木という男は笑った。どうやら、彼はこのチームを纏めるリーダーのようだ。奈央は中に入って挨拶をした。
「こんにちは。鈴木おじさん!」
「おお、奈央ちゃん。荘司は今日も仕事か?」
「はい。うちのお父さんも仕事が大変で。代わりに家で練習してます。あと、父が自称港祭り男に負けるものかと言っておくように言われました」
友人の言葉に鈴木は「あいつも口が減らないなぁ」と笑っていた。奈央の父親と鈴木は仲のいい同級生であり、奈央と仲がいい。二人に声をかける少女がいた。
「やぁ、元気そうだね。奈央、はなび」
中性的な呼び掛け方に、二人は嬉しそうに顔を向ける。
「澄先輩!」
嬉しそうに笑う彼女たちに、紫陽花のような笑顔を見せた。髪は明るい黒色のショートヘア。体格も良く運動が得意そうな少女だ。身長は彼女たちよりも高く、周囲の少女たちは憧れの瞳で見ている。高島澄。高校一年生。二人が話していた先輩であり、女子の憧れの的だ。
奈央は澄に駆け寄り、嬉しそうに話す。
「先輩、お久しぶりです。最後に会ったのは先輩の卒業式以来でしたっけ?」
「奈央、そうだね。ここ最近日々が忙しくてなかなか連絡とれなかったから、二人に会いたかったよ」
先輩は穏やかに格好良く微笑む。奈央は歓喜極まって澄を抱き締めた。
「私も澄先輩に会いたかったですぅー!」
「わっ、もう、奈央は仕方ないなぁ」
勢い良く抱きついてくる後輩に、澄は仕方なさそうに抱き締め返した。かっこいいだけではない、包容力がたる器の広い先輩でもある。■■も声をかける。
「澄先輩。お久しぶりです。元気そうでよかったです」
「ああ、はなび。よかった。元気そうだね」
安心する紫陽花の少女は申し訳なさそうに聞く。
「申し訳ないけど名前の方は戻った?」
澄を問いに■■は首を横に振る。まだ戻ってきてないのだ。澄は申し訳なさそうに「ごめん」と言う。澄は初めてあって一週間で名前の違和感を見破った。そこから、時折の声をかけては心配してくれる。
鈴木から■■に声がかかった。
「そういえば、■■ちゃんの言ってた参加者は?」
「後から来ると言ってましたが……」
答えると、部屋の出入り口の方から複数の足音が聞こえる。彼女たちのいるフロアの扉から直文が姿を見せた。
「こんにちは。ごめんね、はなびちゃん。仲間を迎えにいくのに遅れちゃった」
■■が名前を呼ぶ前に、チームメイトの少女や女性から黄色い声が上がる。急に現れたイケメンに澄も驚いていた。直文の後ろから見覚えのある人が現れた。
「初めまして、こんにちはー! 寺尾茂吉です。直文の友人で、寺生まれ寺育ちこと、歌って踊れる寺生まれのTさんと呼ばれてます。よろしくね☆」
愛嬌のある笑顔を中に見せて皆を笑わせる。直文は全員に向かって、丁寧に自己紹介をした。
「俺は久田直文です。よろしくお願いします」
彼は頭を下げた。
直文の隣にサングラスとした人が現れる。フードを被って、マスクをしている。直文と茂吉に負けないほど体格もいい。その彼は頭を軽く下げる程度であった。彼らは半袖に動きやすいジャージの姿をしている。すると、彼ら三人の目の前に少女と女性が集まってきた。何やら自己紹介をし初めて、若い青少年たちは若干妬みの視線で彼らを見ていた。
彼らに近づかなかった■■、奈央、澄。奈央は友人に声をかける。
「ねぇ、はなびちゃん。流石に私つっこみをいれるよ。なんで、久田さんが別種のイケメンをつれてくるの? もう一人はわからないけど、そのもう一人の寺尾さん。愛嬌のある顔に対して、腕の筋肉ヤバイじゃん」
「そんなこと言われても私もわからないよ!?」
理不尽でワケわからないツッコミに■■が奈央に突っ込みを入れた。澄は三人を遠くから見つめて頬を赤らめる。
「へぇ、かっこいいねぇ。あんな殿方と知り合いだったとは、はなびも罪だねぇ」
「何が罪なんですか。澄先輩!」
■■が突っ込みをいれると、茂吉は彼女たちに顔を向けてくる。一瞬だけ目を丸くして、にっこりと笑いながら歩み寄ってきた
「あっ、はなびちゃーん! おひさー。その子達は君の友達かい?」
「は、はい。そうです」
茂吉は陽気に話しかけてくるが、直文と同じ半妖だ。明るく見せかけて油断できない。茂吉は「そっか」と笑って、奈央と澄に愛嬌のある微笑みを浮かべる。
「俺は茂吉。直文ともう一人の連れのマイフレンドなんだ♪
よろよろよろぴく☆ ……なんてね、真面目によろしく!」
明るく笑った。滑稽に自己紹介をするのは相手の緊張を解す為だ。実際に笑いそうになりながらも奈央は自己紹介をする。
「私は田中奈央です。よろしくお願いします!」
向日葵少女の自己紹介をし終え、次は澄の番なのだが一向に自己紹介をしない。二人は先輩に目線を向ける。彼女はじっと茂吉を見つめていた。見つめられている本人は戸惑い、澄に声をかける。
「おーい、君。そんなに見られると俺に穴が開いちゃうよぉ。それとも」
顔を近づけて、獲物を捕らえたかのように目を細める。犬歯を見せて妖しく微笑む。
「俺に見惚れちゃった?」
さっきの愛嬌のある顔とは違い、男らしい顔を見せてつけられる。それを見て、澄は気付いて頬を赤くした。
「っすみません。私は高島澄と申します。よろしくお願いします。寺尾さん」
「なーんてね。冗談なんだから気にしないで。よろしく、高島ちゃん!」
いつもの明るい笑顔になった彼に、澄は瞬きをして頷く。奈央と■■は茂吉の表情の変化に驚いていると、直文がやって来る。
「もっくん。あんまり彼女たちを困らせるなよ」
「なおくん、メンゴメンゴ☆ じゃあ、俺男の子達に挨拶してくるよ!」
スキップをして、青少年が集まる場所へと向かう。直文は息を吐いて、澄に謝る。
「俺は直文。高島澄さんだよね? 茂吉が失礼をしてすまなかった」
「……いえ、私の方が悪いので気になさらないでください」
澄は首を横にふって黙り込む。
見たことのない先輩の反応に戸惑いつつ、奈央と■■はもう一人の直文の友人を思い浮かべる。サングラスとフードにマスクをした男性だ。見た目は話し掛けにくい。しかし、挨拶をしなくてはならないと、彼へと首を向けた。その彼は鈴木と何かを話していており、話し掛けるタイミングはなさそうだ。■■は直文にサングラスの彼について聞く。
「……直文さん。あのサングラスの人はどんなかたなのですか?」
「ごめん。あいつからは教えるなって口止めされているんだ」
苦笑して答えられた。変人か、シャイなのか。どんな理由で教えないのか。彼女達は考えつつ、サングラスの人を見ていた。
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