『影とり鬼』
僕の地域では夕暮れに遊んでいると鬼が出ると伝えられています。子供を怖がらせるためのいわゆる迷信みたいなもので、お爺ちゃんがよく夕暮れになると話すのです。
よく話す理由は、僕のお爺ちゃんは鬼と遭遇したからです。
お爺ちゃんが話したことを思い出す限り、下手くそなりに書き溜めて置きます。
失礼します。まとめ終えましたので投下します……。
これはお爺ちゃんがまだ小学一年生の頃、昭和三十年ぐらいの話だそうです。田舎とも言いにくい町におじいちゃんは住んでました。昔は今みたいに公園ではしゃぐのが難しくない世の中ということもあり、大きな広場で大人数で鬼ごっこをして遊んでいたとのことです。
昔ながらの遊びともいえる『影鬼』です。地域では『影踏み鬼』、『影踏み』というのでしょうか。僕の地域では『影鬼』といったのでこの鬼ごっこの名称は『影鬼』と統一させていただきます。
『影鬼』は鬼を一人決めて、影が踏まれた人が鬼になる。鬼を増やしていく。時間制限などを設けたりして、鬼と逃げるこの勝敗を決める。そんな遊びなの覚えてますかね。空が夕焼け色に染まる前その鬼ごっこをし終え、もう一回しようとするとき一人がある言い出したらしいのです。
『なぁ、あの電柱からあの壁の間で影鬼しようぜ!』
日が上がる方向より北寄りで、日が沈む方向より南寄りの斜めで『影鬼』をしようと言い出したのです。
逃げられる範囲を決めて逃げる。十数人でやる影鬼を広々とした公園でやるのは大変です。制限もつけたことで、少し楽になったのです。
すると、声をかけてくる一人の男の子がいました。
『ねぇー、何やってるのー?』
その男の子は当時のおじいちゃんたちより一つ下の子でした。古めかしい柄を着たような子でまだ当時は着物を普段着として来ている子もいたそうです。その子に『影鬼をしているんだと話したら、うらやましそうに。
『いいなぁ、楽しそう。ぼくもやらせてほしいなぁ』
『いいぜ! やろうぜ!』
といいその制限を提案をした子がいい、皆に確認を取って『いいよ』となったそうです。『影鬼』のやり方を教えたあと、どこから何処まで逃げるのかという距離を決めたことを話して始まりました。じゃんけんで決めたところ、鬼はその声をかけてきた男の子でした。
代わろうかとおじいちゃんが言ったところ、その男の子は『べつにいいよ』と首を首を横に振って。
『鬼は僕が相応しい』
と楽しげに言ったそうです。どういうことなのか、この言葉を実感するのは『影鬼』をしている最中、実感したそうです。
男の子が十数えて、全員が逃げていくと。
その男の子は追いかけて来るのですが、足はとても遅かったとのことです。影を踏もうにもすぐに影は遠ざかる。少女からにも逃げられて、男の子の息は上がっていたそうです。その時は何が鬼に相応しいのかと思うほどの走り具合らしかったのです。流石に代わろうかとお爺ちゃんが声をかけて、近寄ろうとしたとき。
流石に捕まらないのが可愛そうだも思ったのか、一人の少女が近づきて影を踏ませようとしたようなのです。
その時にお爺ちゃんが、男の子の歪な顔に気付いたようです。歪んだ笑みですが、無邪気な顔でした。
男の子が女の子の影を踏んだ瞬間、女の子の伸びていた影は消えていました。女の子は影に消えたのに気付かず、『影鬼』のルール通りに追いかけていきます。
流石にお爺ちゃんはまずいと思ったらしく、すぐに離れて女の子と男の子から逃げていったようです。
影が消えた女の子は友達らしき子の影を踏むとその子の影を消え、男の子は影が消えて驚いた子の影を踏んで影を消しました。何人かの影が踏まれて消えていく分、最初に誘った男の子の影が段々と大きくなっていくとおじいちゃんは語るのです。
男の子は影を取っているかのようで、影を取られた子はその男の子に操られているかのようだったと。
影が取られて驚かない彼らと男の子の影が大きくなっていく模様を奇妙だと思ったのでしょう。『お、俺やめる!』と怖がった様子で、その子が決められた範囲から逃げ出ようとしたのです。大きくなっていく男の子の影が、巨大な鬼のような姿となり逃げ出そうとする男の子を掴んだのです。
逃げ出そうとした子は動くことはできません。大きな影を持つ男の子は不満げながらこういうそうです。
『逃げないでよ。ちゃんと影鬼して鬼になろうよ』
遠くにいても聞こえる声。普通の人ではありえません。お爺ちゃんはこの男の子が鬼なのだろうと語ります。
捕まった男の子は大きな鬼の影の手により、影が引き剥がされて鬼の影に吸い取られていきます。
男の子は恐怖する様子はなく、真顔で黙ったままになったそうです。一連の流れを見た子たちは必死で逃げようとしますが影を踏まれたり、鬼の手に捕まったりしていったそうです。
運良くその鬼を誘った子は助かって、お爺ちゃんと一緒に逃げていきます。決められた枠から出ないように、鬼に影を踏まれないように。ですが、隅に追いやられては逃げ場もありません。近づいてくる影のない鬼役と大きな影を持つ子供姿の鬼。お爺ちゃんたちは電柱を登って逃げようかと考えたようでしたが、足が震えて無理だったようです。
近づいてくる影のない鬼役の子。そして、鬼が近づいて、お爺ちゃんたちの影を踏もうでしたときでした。
『○○ー! 早くお家に帰りなさーい! あら、そこにいるの□□くん?』
公園の入り口で声をかけるお爺ちゃんのお母さんがいたようです。鬼たちの動きがピタリと止まりました。二人はすぐにその母親の元に追いついたようです。
『かあちゃん……! かあちゃん!』
『わぁーん! こわかったよぉ!』
泣きじゃくって縋り付くお爺ちゃんと誘った子。泣く二人にお爺ちゃんのお母さんは困ったようです。『どうしたの?』と聞く母親に声をかけられて、二人は気付いたようです。
決められた場所から出てしまった。すぐに二人は足元を見ると影はピッタリとくっついており、影が取られた様子はありません。
『何? 二人は何してたの?』
『えっ、影鬼……してた……そしたら』
鬼に襲われそうになったとお爺ちゃんが話す前に、お爺ちゃんのお母さんは不思議そうにお爺ちゃんたちの背後を見て言うそうです。
『影鬼? 二人だけで影鬼してたの?』
二人だけ。そんなことはないと二人は振り返ると、そこには一緒に遊んでいた子と鬼の姿はありませんでした。
残された二人だけの耳元に向かって声が聞こえてきたそうです。
『残念。もう少しだったのにな』
まるで囁かれたように言われたとのこと。お爺ちゃんのお母さんには聞こえてないようでした。
その後、誘った男の子と別れて帰ったそうです。大人に声をかけられて助かったのか、名前を呼ばれて助かったのか。助かった理由はわかりません。帰った日に、遭ったことを話すと家族からは架空の話だと笑われました。
しかし、一緒に住んでいるおばあちゃんからある話はこんな話を聞いたと。
『その電柱と隅は、太陽が登って沈む位置より少しズレていたかえ?
そこが北東と南西だとしたら、その間は危険だよ。その方角は鬼門と裏鬼門で『鬼の通り道』と言われているんだ。この地域では夕暮れまでに遊んでいると、鬼の通り道から鬼が現れて子供を連れ去ろうとする言われがある。大人が声をかければ助かることとも言われているけれど、昔話だからね。実際にはそんなことはないと思うけどね』
後の祭りでした。早く知っていれば、お爺ちゃんは助かったかもしれないと後悔していました。
後に、集団で行方不明なったことは町でだいぶ話題になりました。お爺ちゃんと誘った子は本当のことを言っても、大人たちは信じてくれなかったようです。
鬼が本当にいると知るのは三人だけ。
集団事件の衝撃と恐怖は年数が立つたびに風化して、当時を知る人物はお爺ちゃんだけ。誘った子も病気でなくなりした。
ここ数年子供が行方不明になる話は聞きません。……現代では監視カメラがあったり、物騒な事件がおもてだっているため、夕暮れに遊ぶ子が居ないのが救いなのでしょう。
お爺ちゃんはこの鬼を『影とり鬼』と呼んでいましたが、本当の正式名はわかりません。
ですが、わかるのは一つ。
連れ去っていった子供たちは、未だに帰ってきていないことだけです。
……えっ、何故、鬼がいると知るのは三人だけかと言い切ったのか……?
……僕も……大人側ですが…………昨日遭遇したのです。だから、こうして書き込もうと思ったのです。
昨日の夕暮れ時。公園で影鬼をしている子供たちを見たのです。その中に僕の甥御がいて、楽しげに影鬼をしていたのですが……その中に地域では地域では見慣れない子がいて、甥御の友人らしき影を踏んでいる場面を見ました。
その影は踏まれて、消えたのです。
昔から夕暮れ時になるとお爺ちゃんの話を思い出して、僕は急いで甥御の名前を呼んだのです。必死に呼んでいると、甥御は気付いて僕に駆け寄ったのです。
しゃがんで甥御と顔を合わせて、甥御の後ろを見ると見慣れぬ子は男の子か女の子かはわかりませんでした。ですが、わかるほどの歪んだ笑みを浮かべて。
『あーあ、大人が来ちゃった。ここまでか。全員の影、取れなかったなぁ。残念』
と聞こえるようにいい、影を踏んだ子たちを連れて姿を消したのです。甥御たちは鬼と影を踏んで消えた子たちたちに気づいてない様子でした。……後日、消えた子については行方不明で捜索願が出されてます。……鬼に連れ去られて、もう戻って来ないでしょうが。
……なので、僕が『影とり鬼』と遭遇した三人目となります。
『影とり鬼』
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