13 落ち着かぬこの一件
全員が現世に戻った後、少女たちは家の前に送られた。
登校をして、しばらくは普通に過ごした。制服は冬服。秋近くだ。ここしばらくは『影とり鬼』と『偽神使』の対策をSNSのグループで簡単なやり取り。遭遇したときの対処についてもまとめた。
各地で起きている『送祭り』については、その地域に住まう妖怪や祭神と仲間に連絡して抑えてもらうしかない。
狙いが依乃であるならば、彼女の住まう地にいるのがベストと言えよう。相手が日本大三大妖怪の『大嶽丸』でなければ動きに制限は出なかった。さらに、陰陽師に生まれ変わっているとなれば厄介度は更に上がる。
また各地であるニュースが流行っており、一部を抜粋しよう。
【××県××市の篠崎秋保さんが行方不明になってから十日。未だにみつかって──】
【東京都××地区にて。ある男の子が行方不明になりました。加納ゆうくんが今朝未明行方がわからなくなりました。ゆうくんは『おまつりだ』といったあと、目を離した隙に姿を──】
『××市の井上利松さんの行方がわかっておらず──』
行方不明の事件が全国のニュースで、かなりの頻度が流れてきていたのだ。
またSNS上では。
【噂の祭囃子が聞こえるって言ってた子の様子を見たら、影が消えてた。翌日から登校しなくなったっぽい】
【私の父親も影が無くなりました。祭囃子みたいなのが聞こえるといってましたが……】
掲示版でも同じような内容の投稿頻度が上がっている。ハッカーを頼んで同じような話を消していくが、噂や話が広まっている以上『儀式』シリーズの完成度は高くなっていくだろう。
彼らは警戒度を上げていくこととなった。
そんな10月中旬のある日の昼休み。
各自昼食を取り終えたあと、人気のいない校舎裏で依乃と奈央と澄はスマホをいじって話していた。
対策は鬼門と裏鬼門に長居をしない。夕暮れにその方向をなるべく通らないようにする。鬼門や裏鬼門にならない場所で三人はおり、監視の式神などで見られないように結界を張って『影とり鬼』の内容を見ていた。
真弓とはメールのやり取りをして、依乃は返信のメールを送る。
画面が切り替わり、『影とり鬼』の内容になると依乃はすぐにブラウザバックをして『怪談図書館』から去る。深い溜め息を吐いて辟易していた。
「……もう怪談はいいよ。平穏に過ごさせて……」
親友の言葉に、奈央は何度もうなずく。
「わかる……。八一さんに連れ回されてるから分かる……。でも、はなびちゃんが言うと狙われてるからか言葉の重みが違うね……」
しみじみという親友に依乃は若干涙目でスマホを強く握る。
「襲われ慣れたいわけじゃない。本当に怖いからやだよ……」
後輩の様子に澄は複雑そうに腕を組む。
「はなび……依乃を狙ってくる輩は多い。ある意味モテモテで困ったちゃうね」
「先輩。冗談でも嫌ですよぉ……」
「まあ、そうだね。ごめんよ。……でも」
スマホをしまい、澄は複雑そうな顔をする。
「『送祭り』の儀式シリーズ……この怪談を成立させて、何をしたいんだ?
依乃を捕まえたいのであればこんな手間をしなくても良い。穏健派らしからぬ方法を取っている以上、誘拐などしてもいいはず。なら、この祭りは……何を目的にしているのだろう?」
言われて、依乃と奈央は顔を上げて気付く。
依乃を狙うだけであるならば、儀式の怪談を作り上げる必要はない。直文の護衛。直文のお守りがあるといえど、実力のある陰陽師が数人策を練れば隙をついて連れされる。連れ去る隙なんぞ、『おまねき童』の時にいつでもあったのだ。
先輩の疑問を聞き、奈央は困惑を隠せずに声を震わせて話す。
「……じゃ、じゃあ、『送祭り』はなんのために?」
「……まず儀式シリーズの怪談について見直さないといけないだろうね」
澄の言葉に奈央はきょとんとする。澄の疑問点を察して、依乃はスマホをポケットにしまいながら唇を動かす。
「……儀式シリーズは神が人を連れ去るというもので、相手側が求めているものは神の力で目的のもの手元に呼び寄せること。……なら、何を呼び寄せるか。何をしたいのか。彼等の目的ですよね? 先輩」
依乃は自分が狙われたあのとき、中途半端なものを感じていた。たとえ怪談が制作途中、試験運用だとしても、あのときに導入した理由がわからない。調整のためというわけではなさそうだ。認知させて製作を進める思惑もありそうだが、そうではない気がした。澄は頷く。
「そうだね。儀式シリーズの神は黄泉の神となっている。だが、普通の神が黄泉に関わるのは相当の力技だ」
黄泉の神。イザナミノミコトとも言われて入るが、イザナミノミコト以外にも神はいる話はある。名前のない弱い神となどに、黄泉に関わる力などはない。零落した神を利用する陰陽師に、奈央は渋い顔をする。
「疑問を聞いて、納得です。弱ってる神すらも利用するなんて穏健派らしからぬ発想ですよね。どこが穏健なんだ。コノヤロー! ですよ! 依乃ちゃん、狙いやがって!」
プンスコと両手を握って怒る奈央に澄は笑った。
「確かに。奈央に同意するよ。けど、言葉にも意味があるし、人の扱いにもよる。向こうは屁理屈で言うだろうね」
ああ言えばこう言う、と言えるだろう。人によってはその意味がまかり通れば、通らない場合もある。依乃は話を思い浮かべていると、ふっと疑問が降りてきた。天啓が来たとも言えるだろう。恐る恐る花火の少女は疑問を口にする。
「……その術式に『変生の法』……もとい『顕明連』の痕跡を組み込んだりしますか……? いえ、そもそもできます?」
後輩の言葉に澄は目を見開く。奈央は驚く先輩を見て不思議そうに依乃に聞く。
「えっ、ねぇ、はなびちゃん。どういうこと?」
「……儀式シリーズの内容って……黄泉とか地獄のイメージが強いよね? 巡りの神とかも創作怪談にも書いてあったし……。それにもっと大きな存在を呼び寄せるには、多分もっと工夫しないとならない。強い力が必要なんだと思う。昔の蘇りの話には、代償は必ずあるから」
依乃の疑問に、澄は真剣な顔で口を動かす。
「……『まがりかどさん』は人の多い場所で生まれ、『だょたぉ』は外法の失敗により生まれた。『三年二組の井口くん』は一種の降霊術であり呪い。そして、『紅継美村』は現象……暗示やそうさせようとする強制力があり、村に来た人物を取り込もうとする」
澄のつぶやきに、奈央は苦笑を浮かべた。
「せんぱーい。そういう風に怪談を並べられると、なんかのサンプルみたいですよ。そんなに並べてなにかがわかるわけ」
何気ない奈央の言葉に合致したのか、依乃と澄ははっとして奈央に声を上げた。
「「それだ!」」
「えっ!?」
びくっとする奈央に、依乃は親友の両手を握り表情を明るくさせた。
「すごいよ! 奈央ちゃん。それだよ!」
「えっ? なに?」
わけがわからないと目を点にする奈央に、澄は微笑みながら教えた。
「今回の依乃を襲ったのは、この件をサンプルにするためだ。誰でもいいわけではない。守護や守りなどがあるから狙ったんだ。答えは一つ。何かの障壁を突破するためだろうね。堅牢な刑務所から脱走方法を考えるように。ウイルスがパソコンのセキュリティソフトから逃れるように、ね」
「でも、『大嶽丸』や『悪路王』がいるのに『変生の法』を利用する必要ありますか?」
向日葵少女の疑問に、澄は険しい顔をする。
「いや、使うと決めているんだ。メールの内容を思い出してみな。器である依乃を必要としている以上、何かをしようとしているのは間違いないんだよ。奈央」
「あっ……そうでした……」
メールの内容を思い出し、奈央は落ち込む。サンプルにしている事以外わかったとしても、彼女たちは来るものを防ぐことしかできない。
澄はため息を吐いて、後輩二人に目を向ける。
「わかったところで、今の私達にできることは少ない。
依乃、なおくんのお守りは肌見放さずもってる?」
「……はい。持ってます」
返事をし、澄は奈央に目線を移す。
「奈央。神通力は?」
敬礼し、奈央は真剣な顔で返した。
「常に機能してます! 八一さんにあれこれ叩き込まれて来てますから!」
「よし、でも、ちゃんと休むときは神通力を使わずに休むんだよ?」
先輩に「はーい!」と声を上げる。
予鈴の音が聞こえた。昼休みがもうすぐ終わる。三人は話し合いを解散し、それぞれの教室に戻っていき授業を受けた。
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