12 その道筋見えず
全員は窓に顔を向ける。顔を向けた方向は温泉施設がある方だ。
図書館の中にある会議室にて四人はいた。国立、国際とも言えるほどに広く、本の種類も幅広い。絶版本や妖怪の世界の本も扱っている。啄木は『魂と魄』や『黄泉がえり』についての書物を多く読み込んでおり、その証がテーブルの上にある本の山だ。早く事を進めたいのか、ページを進める手は早い。
直文は『依代の器の変化』の関連する本を。茂吉と八一はノートパソコンとスマホを操作し情報や状況のまとめをしていた。安吾は瘴気の中に解けて戻って情報の収集に戻っている。
声を聞いた途端、啄木は申し訳なさそうに目を伏せる。
「……真弓か。悪いな」
「依乃たちに何かあったかと思ったけど……そっか。三善さん、今辛いんだったな」
直文は納得したように本を閉じ、目をそらす。
不信感のある協会の件。身内に話せない事情。抱えている問題。多くが彼女に降りかかり、苦しめている。
話を聞き、茂吉が顔を上げた。
「まあ、俺達ができることは少しでも彼女達の苦しみを取り除くことじゃないかな。
こっち側にも巻き込ませるようなものだ。少しでも普通の日々を送らせないとならない」
八一はスマホをおいて、息をつく。
「その人個人の苦しみを完全に理解できなくとも、少しでも理解する努力は必要だ。だから、彼女のために調べているんだろ? 啄木」
名を呼ばれ、啄木は懐から畳まれた手紙を一つ出す。手紙にしては厚く、悪い笑みを浮かべ、その手紙を見せつける。
「ああ。だからやってるさ。話し合いが終わったあと、上司の許可得て黄泉の神々と地獄の方々に手紙を送った。要約すると【『大嶽丸』復活の可能性あり。昭和中期からの黄泉や地獄にいる妖怪の罪人や住人の行方不明や転生したものを調べてほしい】ってね。さっき、安吾から渡された手紙の返事がきた」
啄木の発言に、狸と狐はぎょっとしてみる。いつの間にか、手を回していたこと。だが、二人が驚いたのは黄泉の主祭神や地獄で働く大王たちを動かしたことだ。直文は感嘆したように啄木を見る。
「なるほど、『大嶽丸』の名前が出ては向こうも動かざる得ないな」
パワーインフレを起こしている『大嶽丸』は九尾の狐にも匹敵する厄介さだ。動くのも納得だが、あの世側の早急な対に八一は険しい顔をした。
「けど、それって向こう側にも異変が起きたってことだろ? 啄木」
手紙を広げ、啄木は苦笑した。
「まあな。間違いなくだ。向こう側も借りは多いからな。こうして返事が早いのも出来るだけ返したいんだろうし……、それにこちらもまた借りを作るらせる機会ができたとも言えるしな」
啄木は手紙を広げ、中身を見た。そこには妖怪の罪人と住人の数が書かれている。狐、狸、イタチなど動物系や木霊などの植物系。鬼や付喪神などもある。彼らは中身を見て、目を丸くした。
啄木は鬼の部分を指差す。
「……やけに鬼の数が多いが……これは……」
動物型の妖怪や精霊などもいる。変生の法はガチャ要素ありといえど、多いのは鬼の転生の数が多い。直文も数を見て、予想ついていたのか渋い顔をした。
「顕明連自体に『大嶽丸』の痕跡が残っていた可能性が高そうだな。術自体が顕明連にあるものをもとにして作っているならば……」
鬼神『大嶽丸』の黄泉がえりの術の痕跡。元いい、『大嶽丸』の残滓が、『変生の法』で呼びよせられ、生まれ変わらせられている。その呼び寄せるものが鬼が多いというだけで、穏健派の陰陽師が妖怪の生まれ変わりであることはほぼ間違いない。しかし、漠然とした言葉だけで詳細まではわかってない。
話を聞き、茂吉はノートパソコンを閉じた。立ち上がり、頭を掻きながら三人に声をかける。
「俺、昭和中期からの陰陽師の死者について調べる許可取ってくるよ」
直文は茂吉に声をかける。
「もっくん、俺も行くよ。魂関連の昔の事件とかあるだろうから」
依乃の為に調べているのだろう。過去の記録の件に反応して、啄木は直文に頼む。
「直文。俺もその記録を見たい。ここに持ってきてくれないか?」
「わかった」
頷くと、会議室のスピーカーから音声が入る。
《ピンポンパンポーン。セルフ放送、皆の上司。クソ上司だぞー☆
直文、茂吉、八一、啄木。聞こえてるー?》
聞き覚えの調子のいい声に、全員の顔がわかりやすくげんなりとした。
《顔が見えなくてもわかるげんなり顔。ヨシッ!
早速だが──四人には頼みたい案件があってね。啄木の手紙の返事の案件で、さっきもう一通速達で届いた。任意ではあるが、やらざる得ない。恩を売っとくに丁度いい機会だ》
声は調子良いが冷静であり、全員はげんなり顔をやめた。スピーカーから次のように内容が話される。
《何せ、黄泉や地獄からの要請だ。地獄の沙汰も金次第というなら、恩を売るの悪かなかろうな? 諸君》
全員は真顔になり、これから話される内容を耳にした。
スピーカーの内容を聞いたあと、過去の記録を持ってきて全員で調べた。
機密事項ゆえに内容はあかせないが、調べた結果平成の去年まで前世返りをしている人間はいない。その人生は天寿や事故、病気など人らしい死因などで終えている。他は陰陽師の仕事での死亡。前世返りしたような記録はなく、今年度で初めてのようだ。過去の記録からは前世返りした記録はあるが、今回には当てはまるものでないと断定する。仕方なく今回の件をまとめ、彼らはそれぞれの部屋に戻り入浴を済ませた。後に外に出られるラフな姿となる。その後、部屋から適当な未開封の酒の瓶とつまみを手土産に一葉のいる部屋に向かう。
就寝中の拷問など勘弁だからだ。
その後。根掘り葉掘り、洗い浚い。この2つの言葉通り、先輩である一葉から恥ずかしいことまで話されたのであった。
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