11 励まし合い支え合い

 話を終えたあと、各自用意された部屋に向かう。

 終えた瞬間に、直文は一葉に首の根っこを捕まれて後片付けの手伝いをする羽目に。

 禁止令を本当に実行するらしく、直文は涙目で一葉を手伝う。相方の反応に引きつつ茂吉は「禁止なの、たったの数時間だろ」とツッコミを入れた。

 啄木と真弓と合流する。二人に内容を事細かに伝え、二人は驚愕をする。最後の命令について、真弓は複雑そうな顔をして沈黙をした。泊まる場所について本部の洋風の建物の外にあり、場所に案内される。

 八一たちも近く寝泊まりしており、高級マンションに似た建物に案内された。内装は清潔感のあるホテル。受付の人もおり、入ってきた客人の三人に頭を下げる。

 依乃、真弓、奈央はそれぞれ部屋の部屋に案内された。お風呂も付いているが近くに入浴施設もある。澄が案内してくれるらしく、少女たちは後に合流することとなった。

 啄木たちはやることを終えた後に入るようだ。

 下着やパジャマなどアメニティなども用意してくれてあるらしく、それぞれ案内された部屋に入った。

 入った瞬間に依乃は言葉を失う。

 土肥の牧水荘のスィートルームにも負けない豪華さで広々としている。靴は脱ぐ仕様であるが、部屋の中は清潔感が溢れ出ており、空気も埃っぽくない。

 木造の柱、暖色に近い白い壁が部屋の中の暖かさを演出している。キッチンは現代の最新式。食材も置ける冷蔵庫もあった。

 一人でぽつんといる部屋に依乃は我に返り、靴を脱いで急いであがる。テーブルには梱包された服と新品の下着があり、便箋が置かれていた。

 中身を見ると、万年筆で手書きされたようなものであった。


【有里依乃さんへ

はじめまして。この手紙を書いているのは組織の上司さんです。本職が忙しく対面の挨拶できず誠に申し訳ございません。この部屋に用意してある着衣はご自由に。ここの部屋のものは自分の部屋のように使ってください。仲間となった貴女へ進呈いたします。書きたいことはたくさんありますが、負担をかけさせるわけにいきません故に今はゆっくりと身を休めてください。それでは、また会える機会まで。

組織の上司さん 小野篁より】


 達筆であり、読みやすい文字。まさかの組織の上司の手紙に驚くも、最後まで読み進め、依乃は気遣いを感じて微笑みを浮かべる。

 一瞬だけ上司と遭遇したことあるものの、直文が言うほどの厄介な性格していない。と思った瞬間だった。篁という文字を見て、彼女は瞬きをする。

 たかむらと読むのだというのはわかるが、何処かで見たことあるような名前にしばらく見つめた。時計を見ると、そろそろ合流の時間に近づく。慌ててお風呂の支度を用意し、施設の前に向かった。



 入浴施設に向かい、三人と合流する。中は銭湯と変わらない施設であったが、利用者は依乃たちだけであった。着替えを脱ぎ、糸すらまとわぬ姿になるとタオルを用意する。

 中に入ると、中は様々な温泉があった。香り付きの風呂、五右衛門風呂やヒノキのお風呂、サウナや水風呂。凝りなどをほぐす滝湯や温泉など。薬湯などがあり、傷を癒やす神聖な雰囲気を感じる温泉など。

 露天風呂などついていた。

 様々な効能がある温泉に興味を湧きつつ、早速かけ湯をし全身を洗う。

 髪の長い依乃、真弓、奈央はお湯に浸からないように髪をまとめてからお風呂に入る。

 最初に全員は露天風呂に向かう。

 温泉特有の硫黄の匂いもあるが、不思議と落ち着く香りの要素のほうが強い。外の秋風に当たりながら、彼女たちはゆっくりと入る。


「ふぁぁ気持ちぃ〜。癒やされるよぉー……とろけるよ〜……。はなびちゃ〜ん」


 頬を赤くし奈央は脱力しきった表情で話す奈央。貸切状態出るゆえに奈央は大きな声を上げていた。依乃も恍惚として息を吐き空を見る。


「……ほんとだね……奈央ちゃん……きもちいい……」


 心地よさそうな二人の隣で、真弓は顔を俯かせている。とろけている後輩達に澄は苦笑する。


「あはは……普通の人からするとだいぶ心地いいかもね。体の傷だけでなく、魂や心を癒やす効能もある。流石に深い心の傷までは無理だけど、ここが整っているのは全ては私達が万全に戦うためだ」


 都合がいい場所のように思うだろう。全ては半妖である彼らが滞りなく任務が進めるようにするための施設だ。妖怪や人を殺したあとでも、万全に仕事をこなせるようにするためだ。

 話を聞いて、依乃は空を見る。空は見たことのない星ばかりであり、秋の星座などもわからない。心地のいい温泉の香りをかぎながら、流れていく源泉の湯の音を聞く。とんでもない所まで来てしまったと息を付く。奈央がはぁとため息をつく。


「とんでもないことに巻き込まれて、とんでもないところまできちゃったね……」

「あっ、奈央ちゃん。私と同じことおもってたんだ」

「はなびちゃんも? あっ……いや、はなびちゃんの方がその実感強いかも」

「あはは……名前奪われちゃったこともあったからね。それに、奈央ちゃんが巻き込まれて、先輩がまさかの組織の半妖だと思わなかった。陰陽師の真弓ちゃんにも会うとは思わなかったな」


 笑うのをやめ、依乃はため息をつく。


「でも、これからどうなるんだろうね。私達……」


 依乃は狙われており、奈央は巻き込まれた形ではあるが妖狐から狙われる恐れあり。真弓自身には身に爆弾を抱えているようなもの。深刻さ故か、彼女は三人の会話に口出しをせず、ずっと黙っている。


「三人が守ってくれるよ。そして、私も守る」


 澄は三人に断言した。後輩の目線が来ると、澄は片手を伸ばして湯をかけていた。かけるのをやめ、その片手で強く拳を握る。


「私も組織の半妖だ。……自分のできる限り、皆を守りたい」


 ふうと息を付き、拳を湯につける。


「全盛期だったらだいぶ動けて力を奮えたけど……流石に鈍りすぎたからね。遅れを取り戻していくよ」


 鈍っているというが、組織の半妖として働いていた澄の姿は気になる。後輩二人の興味津々な瞳に、澄はおかしそうに笑う。


「ふふっ、そう見られても何も出ないよ」

「でも、先輩の変化した姿見たかったなぁ」


 残念そうな奈央に仕方なさそうに依乃は話す。


「奈央ちゃん。先輩に無理はかけさせられないもの。仕方ないよ」


 人でないものの力を使うには、見合うように心身を鍛えなくてはならない。八一がいい例であり、彼は自身の力を自由に奮うためにトレーニングは欠かさずしているようだ。

 差し障りのない話題を出してみるものの、入ってからずっと真弓が黙っている。湯気が立つ水面を見つめ、ため息を吐いていた。現状でかなり重荷を背負っているのは真弓だ。自身に何を仕掛けられたのか、彼女自身がわかってない状況だ。

 澄は真弓に声をかける。


「三善さん。啄木くんなら君の中にある悪いものを治す方法を絶対に探す。私たちは君がいて迷惑になるとは思わない。陰陽師が味方にいるなんて心強いんだ。そう思いつめないでほしい」

「……でも、私は……いて迷惑になる……。みんな困らせるなら」


 真弓の暗い言葉に依乃の中で何か想起したようだ。目を丸くし、水音を立てる。白椿の少女の両手を自身の両手で掴む。握りしめて湯から上げた。


「そんなことない! 真弓ちゃんはすごい役立ってるよ!」


 驚く真弓の顔を見ながら必死に依乃は口を動かす。


「居て迷惑なんてことない。真弓ちゃんがいたから黄泉比良坂のとき助かったんだよ。全部が全部、真弓ちゃんが悪いわけじゃない! 元から真弓ちゃんが悪いわけじゃない! ……お願い。そう自分を悪く言わないで」


 名前がなかった頃、家族が巻き込まれそうになる危険性を教えられたとき。奈央を巻き込んでしまったとき。強く負い目を感じていた。明らかに自分が原因であることから余計にだ。だが、直文や茂吉達に助けられ、奈央や澄の支えもあって依乃は自分は前に進められたと考えている。

 だからこそ、同じ状況に陥っている真弓を少しでも救えないか。言葉をかけて行動してみた。

 他の人から優しい言葉を言われたことなかったのか。真弓は目を丸くして、段々と目をうるませた。次第に表情をしわくちゃにさせていき、露天風呂から大きな泣き声を響かせる。

 依乃と奈央は慌て、澄は背中を撫でながら優しく真弓のケアをし始めた。

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