10 一連の状況まとめ5
「へぇーこれを怪異に昇華させようとしているのですか。中々骨折ることしますね」
安吾は一目通し興味深そうだが、直文はため息をつく。
「興味深そうに言うな。被害だって出ているんだぞ」
「すみません。でも」
目を開けて、険しい顔で安吾は怪談の内容を見つめた。
「儀式系怪異なんて、本当に骨折りですよ? 内容を一目見た限り、今の伝播力も含め小さな儀式なら一、二年で完成します。……どこからどうやって」
「それについてなら検討ついたよ」
スマホをいじる茂吉が声を上げた。全員が彼に向くと、茂吉はスマホを降ってにやっと微笑む。
「啄木が回してくれたメールアドレスやメールで辿れた。どーやら、インターネットの扱いについては俺たちが上みたい。後輩に頼んでハッカー動かして霊界通信も起動させて使ったら、『怪談図書館』に送られてきたメールの発信者、怪談の投稿主がわかった」
「相手は?」
淡々とした声で直文は聞くが茂吉は笑みを消し、スマホを伏せて睨みを効かせる。
「お前が飛び出してそのメールの発信者を殺しに行く真似しないなら教えてやる」
「……わかった」
相方からきつく言われ、直文は察したらしく渋々とうなずく。落ち着いた相方を茂吉は見て息をつくと、その主を答えた。
「相手は『穏健派』の陰陽師の一人。使い捨てのメールアドレスを使用していた。名は賀茂義朝。その相手は穏健派の幹部ぐらいの立ち位置で協会のトップの息がかかってる。その賀茂義朝の携帯やSNSからは儀式に付いてのやり取りについてのっていた」
ハッカーを動かし、霊界通信といった方面から攻めてた。やっていることは犯罪行為ではあるが、組織ぐるみで犯罪行為をしているので依乃は何も言えずにいた神や妖怪などが関わる裏組織のことだけはあると言えよう。
茂吉はスマホを操作した。一葉はポケットからスマホを出す。操作して画面を見つめる一葉は「ほう」と面白そうに声を出す。一葉は教壇の中からコードを出し、スマホにつなげる。近くにあるパソコンにつなげて、手慣れたようにパソコンを操作してキーボードを打つ。
操作が終えたのか、プロジェクターが起動した。スクリーンには別の画像が映る。
「これより、メールの画面をスクリーンに映していく。よく目を通すように」
一葉は言い、画像を鮮明にして見せる。
「……これは」
声を漏らし、直文は拳を強く握る。画像にはメールの内容があった。次々と画像が映し出された。
一連のメールの内容。儀式のやり取り、創作する怪談の内容。また『地獄の死者』についての話し合いもある。だが、あるメールには全員が釘付けとなった。少女たちは息を呑み、半妖たちは険しい顔をした。
あるメールの内容はこうだ。
【From:○○○✕✕✕……
To:□□□○○○……
件名:儀式の中核に使える神の発見
✕✕県の●●市にて零落した神の社を見つけました。この神と交渉すれば、創作している怪談の怪異を生み出す実験が進むかもしれません。復権派の手に入れられなかった元名無しの少女を餌にすれば、神も協力しだすかと。そして、貴方の目的も名無しの少女さえ手に入れば果たされるかもません】
賀茂義朝の名でメールが送られてきていたようま。送った相手の返信内容が次に映し出される。
【From:□□□○○○……
To:○○○✕✕✕……
Re:儀式の中核に使える神の発見
ご苦労だ。神を術式に組み込み殺すことができれば、怖いものはなかろう。『送祭り』の一連を儀式から呪術に昇華すれば穏健派も楽になろう。代償に人間と妖怪を贄にして、黄泉に送ることになるだろうがそこは必要な犠牲だ。目を瞑ろう。
個人的には、あの少女がまだ器であることが救いだな。復権派は良くやった。あの少女さえいれば、必要なピースは揃う】
木材がひび割れる大きな音が部屋に響く。
音の出処に全員が目を向ける。特に隣りにいる依乃はビビって体を小刻みに震わせていた。直文は怖いほど魚目でそのスクリーンを見続けていた。先程の音は、直文が机の一部に穴を開けた音だ。
手が机を突き抜け、視線を送られたことで直文ははっとして気付く。慌てて手を抜く。依乃に顔を向け、直文は謝る。
「ご、ごめん。依乃。先輩、皆もすみません。驚かせました」
笑みを取り繕いながら言うが、行動はドン引くものであり、一葉はため息を吐き直文を睨む。
「直文。お前の今月の給料から修理代だすようにな」
「……はい、わかってます。すみません」
落ち込む直文に、依乃は慰めた。
「私のために怒ってくれたのですよね? ありがとうございます。直文さん」
「……でも、俺。ここ最近君に関することには気持ちが抑えられないんだ。依乃がこの世で一番大切だから余計にかな。気をつけないといけないな……」
直文はこの場を何にしたいのか。落ち込みながら素で吐かれる愛が込められたセリフは場に似合わない。半妖男三人は「こいつまたやりやがった」と表情で物語り、澄とは顔を赤くしながら苦笑い。奈央は恥ずかしそうに両手で顔を隠しているが指の間から見ている。
言われた当人は顔どころか、全身を赤くして思考停止をしていた。
直文はきょとんとし、依乃と仲間たちを見る。
「? 皆も依乃もどうしたんだい? 依乃は特に顔が赤いし……まさか熱……!?」
心配そうに声をかけようと来た瞬間、ゴホンとわざとらしくも大きな咳払いが聞こえる。依乃以外の全員が顔を向けると、一葉が腕を組んで冷ややかな笑みを浮かべていた。
「イチャつくなら余所でやれ。直文、お前はこれが終わった後有里さんが就寝するまで面会禁止とする」
「……えっ……そんな……! 一葉先輩、酷いですよ!」
「酷くない。先程のセリフ、状況と場を考えろ。バカフミっ!」
先輩から出された面会禁止令とお叱りに、更に直文は落ち込みを見せる。
メールアドレスの主は土御門春章で間違いはない。しかし、利用するはずの神を呪術として組み殺すのであれば、依乃に何を宿すのか。彼らは考えようとする前に一葉は一息つき、懐から一枚の紙を出す。
「直文の天然で有耶無耶になったがこちらが本題だ。上司から預かってきたもの。命令ではあるが今後の方針にもなり得よう」
その紙は、依乃たちにも最近見覚えがあるもの。全員はすぐに雰囲気を変え、一葉は紙を広げ書かれている内容を口頭で伝えた。
【半妖たちに命ずる。陰陽師協会のトップ土御門春章の調査、監視せよ。また禁忌を犯した兆しがある場合、抹殺を許可する】
耳にした命令に、依乃は呆然とする。
人を殺す命令を耳にするとは思わなかったからだ。
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