16 ドキッ♡と海水浴2

 直文を叱り終えたあと。少女達は浮き輪などを膨らませて、海水浴を楽しむ。

 真弓達は準備体操をしたあと、海に入る準備をした。奈央は向日葵柄の浮き輪を抱え、楽しそうに笑う。


「さーて、泳ぐぞー!」


 張り切る向日葵少女の頬を八一はつつく。


「楽しそうだな。かわいいお嬢さん。私もまーぜて」


 横から突かれ、奈央は顔を赤くする。八一に顔を向け頬を膨らませた。


「八一さん。……私をからかって楽しい?」

「超絶」


 白い歯を見せて微笑む。奈央は悔しげな顔をするが八一の体を見て、すぐに顔を横にそらす。

 耳が赤いのがバレバレであり、真弓は苦笑した。

 八一も直文と同じように脱がなければ鍛えられているとわからないタイプ。シックスパッドと背中や胸板などの筋肉が強調している。他の胴体の筋肉も盛り上がっている。

 二人は細マッチョタイプだ。水着として鍛えられた肉体をみて奈央はより意識しているのだろう。

 面白そうに八一は奈央の顔を見ようと動くが、彼女は何度も他所を向く。

 直文と茂吉の会話が聞こえてきた。


「もっくん。相変わらずムキムキですごいよな。……マッチョっていうんだっけ」


 相方の言葉に、茂吉は串焼きを片手に笑う。


「そうそう、なおくん。ボディービルダーほど鍛えてないけど、食べた分は消費しないと。筋トレは欠かさずやってるよー」


 直文と八一よりも筋肉量が多い。腕はしっかりしていると思っていたが予想以上だ。全身の筋肉は男前と言えるほどだ。茂吉は謙遜しているが、肩に小さな重機を乗せている。

 真弓は啄木を見る。

 啄木も茂吉と同じマッチョタイプであるが、スポーツマンのように整っている印象がある。彼らの中でも身長が高く、足と太くて逞しい。腕も幹のように太い。

 兄と重光を比較して見る四人はかなり鍛えている。尚帰ってきて後に、筋肉の話をすると兄と重光は筋トレによく励むようになったとか。

 彼らを見て、真弓は考える。


「うーん、四人を選ぶならやっぱり啄木さんの方が素敵だなぁと思う。にしても、啄木さんたち、すっごく鍛えているんだね……」

「何でも使いこなすならば、相応の精神と肉体が必要なんだって。三善ちゃん」


 依乃が近くにやってきて話しかける。


「そういえば、啄木さん。太刀とかで居合い……抜刀術を使ってたな。抜刀って技量と身体が必要だから、凄い鍛えているんだね……」

「でも、三善ちゃんは佐久山さんと一緒に仕事したことあるんでしょう? それだけでもすごいよ!」

「ありがとう! 有里ちゃん。でもね、私は逆に助けられてばかりだから役に立ってないよ。少し手伝っただけだもの」


 褒められたとはいえ、真弓自身は啄木に助けられているばかりの印象が強かった。依乃の近くに奈央がやってくる。ぷんすこと音を立てるような怒り方をしており、赤い顔で依乃に抱きついていた。


「もーぉ、はなびちゃん! 慰めてー!」


 背中に顔埋める親友に依乃は笑いながら聞く。


「どうしたの? 奈央ちゃん」

「八一さん、からかっただけからかったら私にキスして海の家に行った……! 頬だから良かったけど、恥ずかしいよ。なんでグイグイ来るのかな……」

「たぶん、奈央ちゃんがちょろいからでは……?」

「私はそんなにちょろくない!」


 と明言するが。


「そこのかわいいお嬢さんたちー! ちょっといいかなー?」

「はぁい!」


 くるりと奈央が背を向けて反応する。ちょろさを発現している親友に依乃は呆れ、真弓は心配する。

 声をかけてきたのは、陽気な大学生ぐらいの男性たちだ。

 にこにことしているが、明らかに良い意味でかけたわけではない。声をかけられ、奈央もおかしいと理解したようだ。

 奈央は顔からどうしようとあぐねている。


「ちょっとお兄さーん! 何してるのー!」


 真弓にとって見知らぬ声に驚き、顔を向ける。

 ふわふわとした長い黒髪を持つ美少女が怒っていた。

 真弓たちよりも年上だろう。目つきは少し鋭いがそれもまた少女の良さが出ていた。三人の中でも背が高く、スタイルも抜群であり胸も大きい。

 ビキニスタイルだからか、余計に男たちは彼女の全身を舐めるように見る。

 傾国の美女とも言える容姿に真弓はつぶやく。


「キレイ……」


 しかし、依乃と奈央はあんぐりと口を開けたままであった。黒髪の少女は彼らにぷんすこと怒ってみせる。


「この子達も可愛いけど、私の方がもっと素敵でしょう! お相手するなら、この子達より先に私が相手しますよ。私もちょうどお相手が欲しかったから……」


 とお腹の上を触り、腕で胸を持ち上げ巨乳を強調させる。目を細め、妖艶な微笑みを浮かべる。


「ねぇ……全員で……やらない?」


 男全体とは限らないが、男とは単純な生き物である。大学生の彼らは顔を赤くして、男の男を興奮させている。大学生の一人は声をかける


「……じゃあ、いいところあるから……いこう!」


 と黒髪の少女を連れて、大学生の彼らは歩いていく。黒髪の少女は恥ずかしそうにある場所を指差す。


「いいとこよりも……まず最初にスリルある場所なら……あそこ……ね?」


 指を指す場所は木々がそれなりにあるが、公園の近くである。指し示しされた場所に、男性は困惑する。が、黒髪の美少女に「だめ……?」と残念そうに聞いてくる姿勢に心を射抜かれ「いいよ!」と黒髪の美少女を彼らは連れて行く。

 今までの流れを見て理解できなかったが、真弓はすぐに破廉恥はれんちで良くないと気付きて顔を赤くする。


「だ、駄目!! と、止めないと……!?」


 両肩を強く掴まれ、真弓は驚いて振り返る。掴んだのは、険しい顔をした奈央と哀れみの表情を浮かべた依乃であった。


「大丈夫。真弓ちゃん。やい……あの人は大丈夫。酷い目に合わされるのは、彼ら側だから……!」

「な、奈央ちゃん?」


 依乃は同意の頷きをし、口を動かす。


「あのね、あのお姉さんの現れるタイミングが都合良すぎるの。だから、近寄るのはやめたほうがいいよ……。逆に玩具おもちゃにされるのはあの人達だと思うから……」

「あ、有里ちゃんまで……なに……あの人……知り合いなの……?」


 困惑しながら真弓が聞くと奈央と依乃は頷き、それ以上は何も言わなかった。

 どんな人物なのだろうかと考える前に、黒髪の少女が指し示した方向から悲鳴が聞きこえた。「ごめんなさい!」やら「もうやりません!」などの助けを求めるもの。「ごほうびー!!」などのなぞの悲鳴も聞こえ、真弓は近づかないようにしようと決意した。




 ──三十分後、八一がにこにこしながらお昼を買って帰って来る。一部始終を見ていた直文と啄木は八一を褒めていた。真弓はお昼を買ってきただけで褒める姿を不思議そうに見る。 


 黒髪の少女を知っている依乃と奈央は何も言わない。

 ヒントは八一は狐の半妖である。それは答えとつっこんだ人は正解だ。




 真弓は啄木に呼ばれ、日焼け止めを塗ったかの確認をしている。啄木は心配しつつも優しい目で見守り、真弓は気丈に返事をして笑っている。二人のやり取りを依乃は見ていると、直文に呼ばれた。


「依乃。どうしたんだい?」

「直文さん。いえ、佐久山さんと三善ちゃんは仲いいんだなぁと思いまして。佐久山さんがあそこまで表情が柔らかくなるのを初めてみました」


 彼女は再び二人を見る。直文は彼女と同じ方向を見つめ、納得したように呟く。


「あいつ、少し吹っ切れたかもな」

「吹っ切れた?」

「ああ、を守るのか。何を守るのか。啄木自身がわかったといえばいいのかもしれない」


 依乃は二人の間に何があったかは知らない。しかし、違う経歴で似て非なる立場であろうと、依乃は直で感じていた。直文は依乃に微笑み、自信満々に笑う。


「無論、俺は依乃と君の大切なものを守る為に傍にいる。それは俺自身の為にもなるからね」


 混じり気のない眩しい笑顔であった。素の言葉に依乃は慣れず、赤い顔を横に向ける。これ以上、卑下や訴えの言葉を述べるとそれ以上に慰めという形の愛の言葉が飛んでくるゆえに黙った。

 静かになった彼女を不思議に直文は見つめている。

 尚、二人のやり取りを遠くから見ていた仲間たちは呆れていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る