15 ドキッ♡と海水浴1
二日目。日差しが照りつける。海岸に遊びに来た客はそれぞれビーチで場所を取っている。夏真っ最中であるからか、海水浴客は多い。啄木はテンション高い仲間の一人を見て呆れていた。
「夏だ! 海だ!」
茂吉は高らかに声を上げ、手にしているものを掲げる。
「ごはんだぁぁぁぁ!!」
焼きそば。たこ焼き。焼き鳥。海の家に諸々のメニューが入ったビニール袋を両手で掲げ、ニコニコと笑っている。茂吉の髪は後ろに結ばれ、フード付きの上着を着ている。
はしゃぐ相方に直文は呆れた。
「お前の本性バレたのに、本当そういうキャラを保とうとするんだな」
彼はポニーテールにして髪を結び、無地のアロハシャツを上着にしていた。レモネードを飲みながら、八一はサングラスを少しずらして笑う。
「いいじゃん、いいじゃん。私はそうキャラ崩さないの好きだぜ☆ もっきー♡」
彼は直文と同じ上着を着ているが、前髪をピンでおしゃれな止め方をしている。親しげに八一が話しかけ、茂吉にこやかに。
「うわ、きも。やめろ、ハートマークつく言い方するな。八一」
「茂吉は辛辣だな。だが、その返しは最高だ」
マジトーンなで言われ、八一は面白そうに白い犬歯を見せて微笑む。二人のやり取りに、啄木は呆れた。
「お前ら、そう険悪に見せたり仲良く見せたり……周りを困惑させるようなやり取りやめろ」
長袖の上着を着て、メガネと髪を結ぶのは通常である。横脇に抱えているクーラーボックスを抱えている。それぞれが色と模様が違うハーフタイプの水着を着ている。啄木から指摘され、八一と茂吉は肩を組む。
「たくぼっくん♡ だって、俺はおたぬき様だぞ♡」
「私はこんこーんなおいなり様だぞ☆」
「「二人合わせて、おたぬきとおいなりの化かし合いだZOI♪」」
茂吉はピースをし、八一は指で狐を作り手首を動かしてうなずかせる。
「
啄木の即出た悪口に「たくぼっくん、ひっど~い」と裏声で二人は故意に悲しむ演技をする。明らかにからかわれており、啄木はため息をつく。直文から労いとして肩に手を置かれた。
啄木は直文に声をかける。
「で、場所取りは終えてるのか? 直文」
「ああ、八一が手早く済ませてくれた」
狐と狸は互いに肩を組むのをやめ、八一は不敵に笑う。
「任せろ。奈央の水着姿を見るためならばどんな手段でも」
「手早く済ませた動機が不純だわ。ばかもん」
言葉を遮って啄木のツッコミに八一は抗議の意を示した。
「はぁー? 不純? 好きな女の子の水着姿は男として一度は拝みたいだろ。それが不純っていうのかよー。私は不服だ。不服申し立てる。言っとくが、奈央は鍛えられた足が程よいから、体格と腰のくびれ具合に臀部とのバランスが見事に」
「そこまで語れと言ってない。あと、オープンになれとも言ってねぇよ。不服申し立ての使い方、あえて間違えんな」
啄木は突っ込み、八一はテヘペロとわざと誤魔化す。茂吉は八一に呆れ、焼き鳥を食べる。
「ったく、八一は……もぐ。その変態性をはぐ……
「食べながら喋んな。お行儀悪い」
焼き鳥を食べる茂吉を啄木は注意すると、串を手に微笑む。
「仕方ないじゃん。朝ご飯、物足りなかったんだから。あっ、後でおやつ食べようかな」
「もっくん。まさか、おやつって軍用レーションじゃないよな?」
直文に言われ、茂吉は当然のごとく。
「それはお家用。持ってきた海外の高カロリーおやつあるからダイジョーブ。俺、太らない体質だしね」
と答え、啄木は不思議そうに見つめる。
「お前の体質本当どうなってんだよ……」
「あはは、死んだら献体になってやんよ。啄木」
「笑えない冗談やめろ。茂吉」
咎めると茂吉はただ笑みを浮かべ、焼き鳥を食べる。八一と直文も笑っておらず、茂吉は話題の切り替えに入る。
「ねぇー、なおくん。はなびちゃんの水着初めて見るよね?」
「えっ? ……えっ、待って。依乃の水着……?」
話題を振られ、直文ははっと目を丸くした後、しばらく考え真剣な顔をする。何を考えているのか、想像しているのかは不明である。が、考えがまとまったらしく真顔で顔を上げる。
「三人の誰かでいい。俺の介錯を頼む」
「「「おい待て」」」
現代的にアウト案件を頼まれ、三人は思わず突っ込む。
切腹というが、現代的には自殺に当たるゆえしてはならない。介錯も自殺
「とても素敵だと思うんだ。けど、俺が見てもいいものがわからない!」
「いや、お前、今までハニトラ仕掛けるとき、防ぐときも他の女の裸見てるだろう」
八一の発言に、直文はきょとんとする。
「何を言ってんだ。ハニトラは仕事で他の女性のはただの肉体だろ?
好きな人の方が魅力あるに決まってるだろう」
流石の発言にあの茂吉がドン引く。八一と啄木も直文の素の言葉が出せずにいた。
「わぉ……なおくん。俺も人のこと言えないけど、自分の凄まじい執着に気付いてる?」
「えっ? 執着してるだろうけど……酷いか?」
相方に指摘され、直文は不思議そうに首を少し傾ける。気付いていない様子に、三人は何と言えない表情をした。価値観が違うというのもあるが、直文から垣間見えた執着に引くしかない。
日差しが照りつける中、彼らは先に水着へも着替えを済ませていた。彼らの容姿は目に引くものがあり、男女問わずその美貌と肉体美を一瞥するものも多い。
見られている自覚はあるが、彼らはあえて無視していた。声をかける強者もいるが、大抵直文や八一の「すみません。彼女を待っているので」の言葉ですぐに去る。
パラソルを用意した場所で彼女たちを待っていると遠くから砂浜を踏む音が聞こえる。足音を聞き、直文は体を足音する振り向く。
「
「ごめんなさーい! おまたせしました……!」
依乃は髪をおろしてやってくる。花火柄のハイネックビキニである。ハイネックのような胸当てに覆われ、腹が見える。背中の見えている面積が多く、水着を支えている紐と金具がある。彼女は化学部であるが、休みの日にはダンスをしているため体型と肉付きのバランスはいい。
「はなびちゃーん! 待ってー!」
奈央が走ってやってくる。足が早く依乃を追い越すが慌てて、彼女の元に戻る。向日葵柄のワンピースである。胸は慎ましいが、陸上部で鍛えられた美脚は目を引くものがある。
先輩である澄は苦笑しながらやって来る。元々澄は体格や体付きがよく胸も豊かであるが、上着を着ている状態で全てがわからない。
啄木は茂吉に意地悪く微笑む。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「うるさい。ほら、三善ちゃんも来たよ」
啄木は顔を向ける。真弓は白いの花がらのワンピースを着ている。全体的に体と筋肉も程よくついている体育会系の手足をしている。髪を高く結び、真弓は啄木の目の前に来ようとするが、砂浜の上でバランスを崩して前に倒れようとする。
「っ真弓!?」
抱えているボックスを放り投げて、駆け出す。砂浜を慣れたように走り、啄木は地面を倒れる前に彼女を受け止めた。厚い胸板に顔が当たり、真弓は顔を上げる。
「っご、ごめんなさい……」
「いいって。怪我してないか? 足はひねってないか?」
「足に痛みはないよ。啄木さん」
「けど、足の具合だけ見せてくれ。……っと、あ、クーラーボックス。受けとめてくれてサンキュ。八一」
顔をパラソルの方に向けると、放り投げたクーラーボックスを八一がシートの上においていた。真弓から離れ、啄木が動こうとすると上着が掴まれる。
真弓を見ると頬を赤くして、可愛らしく笑っていた。
「啄木さん! どう? 兄と重光さんと考えて選んだんだ!」
葛と重光の名を聞いて納得する。水着の選ぶセンスがなく、買ってもらったのだろと。
啄木は素直な感想を言う。
「重光と葛は、貴女に似合うものをわかっているな。うん、凄くいい。似合っているぜ。真弓」
「……え、へへ。ありがとう。啄木さん」
真正面から褒められ、真弓は嬉しそうに笑う。それぞれ個性があるビーチサンダルを履いていた。一方、依乃は直文の前に来て照れながら聞く。
「な、直文さん。どうですか……? 澄先輩のおすすめで着たのですが……」
直文は依乃をじっと見続けており、唇を小さく動かす。
「──しよう」
つぶやきが聞こえ、依乃はきょとんとしていると直文は晴れやかな笑顔で。
「そうだ。切腹しよう」
「……へ?」
呆然とする依乃に直文は砂浜の上で膝をつく。
「彼女の 水着姿に 下心 抱く愚者は 消えゆく定め」
短刀を何処からともなくだして、切腹の構えを取る。
まさかの辞世の句とも取れる歌に依乃は慌てる。啄木と八一と茂吉の三人は、すぐに駆け出して直文を止めに入った。銃刀法違反と仲間が自死するのは勘弁であり、公衆の場でやるものではない。
後に直文は正座させられ、三人に叱られた。
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