『海人間』
ある時期のこと。私と友人は泊まりで、一緒に海の近くにある観光スポットへ行きました。とても海が綺麗で、風景もいい場所でした。
町は小さいですが、風景が美しくて有名な場所らしいのです。
さざ波が聞こえる中、私達はお互いに写真を取っていると近くにある石碑と神社がありました。
とても古い石碑で、所々が風化していて何と読むのかわかりません。神社は海を祀る神様ぐらいしかわかりませんでした。すると、近くのおばあさんが話しかけてきました。
「おや、お嬢ちゃんたち。観光客かい?」
「はい、この近くの宿で泊まってます。……この石碑と神社はなんですか?」
おばさんは色々と教えてくれました。
「この辺りはね。昔漁業が盛んだったの。けどね、海に出るたび帰ってこないものも多いの。台風やひどい風と雨が吹く日で、海の波で飲まれる人がいたり、川の増水で溺れる人もいたり。水の関係で亡くなった人を弔うための石碑と神社でもあるんだよ。ここはね、水難から守ってくれる神社として地元では『水祓い様』として有名なんだよ」
とのことでした。昔は大きな神社だったらしく、大昔の台風で身代わりになるかのごとく崩れたそうです。崩れたときの水難事故はなかったようです。
現在では小さな神社ですが、今でも水の関連で事件が起こる前に身代わりになるかのように一部の神社のものが壊れ、皆を守っているようです。
この神社で小さなお祭りが行われ続けており、水祓祭とされています。
聞いている限り、作り話かなと思いますが一応守護にあやかろうと私達は私達はお賽銭を入れて参拝をしました。
参拝をしてくれるおばさんはにこやかに笑って「ありがとね~。水祓い様も喜んでいるよ」と感謝しました。
神社を去る前に、おばさんが呼び止めました。
「ああ、そうだ。夜、海辺に近づいちゃだめだよ。川の近くもダメ、夜の雨の日なんてもっとだめだ。昔、川や海で亡くなった人間が戻ってきて、水の塊が陸に上がって人の形を取る『海人間』になってくるんだ。
この地元でよく言われている妖怪でね。海人間は家に帰れない可愛そうな魂なんだ。けど、哀れんじゃだめだ。海人間は仲間が欲しくて、生き物に近づいて自分の水の体に取り込んで溺れ死にさせる。だから、夜は近づいちゃだめだよ。
まあ、水祓い様が守ってくださるだろうけどね」
おばさんは注意をして、神社の前から去っていきました。
ここでは、そんな話があるとは思いませんでした。船幽霊ではなく海人間は初めて聞きました。海人間なんて作り話だろうと私達は思ってました。
その夜。私達はお酒を買いにコンビニへ寄りました。コンビニはあの水祓い様の近くにある場所で、私達はコンビニから出るとバキっと音がします。
音がしたのは神社の方からでした。
何だろうと、私たちが気になって見に行くとそこには、水祓い様の神社の土台が壊れてました。どういうことなのだろうかと、考える前に私達は遠くから猫の威嚇する声を聞きました。
その猫の声を聞いて、何が起きたのか見たのがよくありませんでした。
海辺の近く、いえ、私達が写真を取った場所で一匹の野良猫が顔のない人の形をしたような水の塊に飲まれていたのです。
手もなく指などなく、全体が丸いような形をしたもの。そいつは野良猫を自らの体に取り込んでいたのです。
猫は悲鳴を上げながら飲まれ、水の中でもがき、次第に抵抗できる力もなくなって動かなくなります。
死んだ猫の体を水の体の中で抱えながら、海の方に向かって歩いていきました。私達がいるのに気付かずに、そいつはゆっくりと海に沈んで行きます。
急いで、私達は駆け足で宿に戻っていきました。我武者羅に走っていたので、すぐにお風呂に入って、すぐに布団の中に入りました。
あの光景を忘れようと、目を閉じて必死に。
朝起きて、私達は朝食を少し取ったあとに水祓い様のお社に向かいました。すると、水祓い様のお社のど台の一部がしっかりと壊れていました。水祓い様が守ってくれたのだと考えていると、昨日のおばさんがいました。
水祓い様のお社が壊れていることを見慣れたように見つめ、私達を見て挨拶をしてきました。
「あら、おはよう。よく眠れましたかしら?」
「……いえ、その……」
私達は海人間を見た話をしました。その話を聞きいたおばさんは嬉しそうに笑いました。
「そうなの、そうなの。水祓い様が守ってくれたの。じゃあ、また水祓い様のお社を直さないといけないさね。水祓い様は海人間からも守ってくれるの。けどね、海人間はもとは人間だし、水祓い様のお社は鎮魂の為にも建てられたの。お参りして良かったわね~」
とのんびり言われましたが、私達は気が気ではありませんでした。
あのとき、私達がお参りしていなければ、海人間に見つかって猫のように溺れ死にさせられてたかもしれません。そこから、私達は水の事故が置きやすい時期には必ず『水祓い様』のお参りをしています。
『海人間』
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