3 海原百鬼夜行の前兆1

 三人はデザートを食べ終え、ショッピングをしようとする。

 お菓子や生物などいろんな店はあるが一番のメインはホームアシストだ。葛と重光は目を輝かせている。


「うわっ、すごいなっ。のこぎり金槌かなづち。木材、釘、DIYやら余裕でできるほどの材料があるっ! しかも、キャンプ用品にバーベキューの道具まで……!?

すみません。佐久山さん。俺達、店を見てきます!」

「葛。工具とか揃うてるっぽいで。行こう!」


 子供のようにはしゃぎ、二人は店に向かう。

 重光と葛はDIYを趣味としており、木材や釘など必要物品を欲しがっていた。ホームアシストで多くが揃っているとは思ってもないらしい。静岡独自のホームアシストは、木材やDIYなどが揃っている。つまり、DIYする者たちとってテーマパーク。はしゃぐ二人に真弓はうんざりとした。


「まったく、お兄ちゃんたちは……本当にすみません。啄木さん」

「気にしないって。楽しいものにはしゃぐ気持ちはわかるし、俺の先輩もこういうの好きなんだ。本部にこの手が好きな人が何人かいてさ。身近な先輩からはお手製の椅子を貰ったことがある。かなり気合が入ったもので芸術品と言える品物なんだ。……勿体なくて使えないからお蔵入りになってるけど」

「げ、芸術品って……なかなか気合が入っているよね……?」


 啄木はなんとも言えない顔で頷く。タダで急に貰った代物故に、もらった側は困惑する。ついでに代物の出来は、教育放送の美しいツボとのようなタイトル番組に取り上げられるほど。

 彼は背伸びをして、真弓に顔を向ける。


「まっ、そんなこんなで、あそこのホームアシストは色々とある。二階にはゲームコーナーと本屋があるらしい。行くか?」

「あっ、行きたい……け、ど……」


 彼女は段々だんだんと声を暗くし、顔を俯かせる。どうしたの聞く前に、彼女は顔を上げて暗い表情を見せる。


「ううっ……テストが駄目駄目で……一から勉強しなさないといけなくて……」


 テストと聞き、彼女がこの近くの高校を通っていることは知っていた。成績までは知らない。

 同僚の狐から聞く向日葵少女と同じような状態なのかと啄木は考えた。式占しきせんは専門性がないと占えない為、真弓の地頭じとうは悪くないはずだ。

 優しく気遣うように啄木は聞く。


「……どうしたんだ? 勉強、苦手なのか?」

「……ええっと……」


 真弓はポツポツとテストの点数が悪い原因を話し始めた。

 真夜中の妖怪退治、悪霊退散が続けていたせいで睡眠時間と体の体力が削られていると。諸々の経緯を聞き、啄木はまず一言を言う。


「……それは貴方あなたの自業自得でしょう。まず、勉強をしたほうがいいぞ」

「……でも、わからないところは本当に……わからなくて……」


 落ち込む真弓に、啄木はあきれる。


「勉強よりも、式占しきせんをやる方がもっと難しいんだぞ。式占しきせんで占いができるなら、本当の貴方あなたは頭が悪くないはずだ」

「そうだけ……ど……」


 啄木に言われ、真弓は渋々と頷く。彼は彼女と接してある程度の性格は理解してきた。

 真弓は人の命を狙おうとする妖怪や悪霊を許せないようだ。無茶をしてでも助けようとする正義感に危うさを感じる。しかし、その危うさからは啄木はある人と通づるものを感じる。そのせいか、啄木はある質問を口を滑らせてしまった。


「──貴方あなたは、人が好きか?」


 唐突な重い質問に、真弓は目を丸くした。


「えっ……急にどうしたの……?」


 口から出た質問に、啄木ははっとして口を押さえる。恥ずかしそうに頬を赤くして手をふった。


「な、なんでもない。悪い」

「……本当に?」


 あからさまな反応に、真弓はムスッとして怪しむ。怪しまれる目線に気付いて、啄木は罰悪そうな顔をする。彼女の疑心をどう晴らそうかと考える前に、真弓が答える。


「でも、答えるなら……私は人は好きだよ。お兄ちゃんと重光さん。もういないけど……お父さんとお母さんだって大切だし、友達だって人間だもの。大切な人は守りたいよ」


 優しく兄の行った方向を見て、当たり前の答えが返ってくる。身内を大切に思っている返答に啄木は安堵あんどした。真弓は慌てたように顔を向けてきた。


「あっ、啄木さんもだよ? 忘れたわけじゃないよ!?」


 焦ったように言うが、彼は一瞬だけ言葉を失う。自身の正体を知らないとはいえ、彼女から同じ大切な人されるとは思わなかったからだ。

 啄木は朗らかに笑った。


「あはは、わかってる。わかっているよ」


 明るく笑う姿を真弓は瞳に入れて、頬を赤くする。知ってからまだ日は浅く、本当に仲良くなっているわけでない。忘れるのも仕方はない。啄木はわかっており、口元を緩めた。


「それに、俺達は親交はまだ浅いんだ。これから互いに知っていけばいいんだ」

「……! うん! 嬉しいよ。啄木さん!」


 何度首を縦に振る少女に、彼は微笑ましく見つめている。

 海からの良くない気配に啄木は目を丸くし、真弓は背筋を震わせて伸ばす。

 海原百鬼夜行の始まりの余波。夜に行われるものが昼に始まりを告げて、起こるはずない。様々な推測をしながら啄木は険しい顔をすると、耳元で声が聞こえてきた。


《啄木。どうやら、待てない愚か者もいるようです。先走った妖怪が何体かいます》


 相方の安吾の伝達が聞こえ、眼鏡をかけ直して舌打ちをする。話を聞くに余興として昼間から人間を襲おうとしている。しかし、昼間は陽の気が強く、外に出れないはずだ。

 思い当たる方法が一つあり、啄木は眉間にしわを寄せた。


「……前々から予想はしていたが……まさか」


 重光と葛が慌ててやってくる。商品は買ってないらしい、先程の気配を感じてやってきたのだろう。葛が目の前に来て啄木に聞く。


「佐久山さん! 今の感じました?」

「ああ、感じた。……三保海岸に急ごうか。嫌な予感がする」


 啄木の言葉に賛同する。三人は大型商業施設から出ていった。



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