21 一段落する間は少なく
彼らは寝泊まりするシェアハウスに集まる。啄木と真弓が先におり、コップや飲み物の準備をしていた。泊まる旨をそれぞれの家族に伝えた後、前に泊まっていた部屋に荷物を置く。
リビングで全員が集まる。ソファには少女たち。椅子と立ちは半妖。種類が異なる飲み物がテーブルやそれぞれの人の手にあるとはいえど、雰囲気が和らぐ訳では無い。茂吉は食べ物を手にせず、啄木や直文から聞いた話に眉間を指で抑えていた。
「陰陽師たちが葵区にいないこと、『儀式』シリーズの完成速度、三善ちゃんの誘拐未遂。……普通なら夕暮れはこんな濃い時間過ごさないって……」
直文は一口緑茶を飲むと、一息つく。
「けど、随分と気になる事柄は出てきたな。だが、問題は『儀式』シリーズの完成速度か」
八一はスマホを出し、通話履歴を見せる。そこには『クソ上司』という名前で、電話番号とともに通話履歴が残っていた。
「これに関しては、上司に直接電話で報告したよ。深刻そうな声で任務の抹殺の件はしばらく『様子見』だって。要は調べがつくまでは待機だ」
待機ときき、少女たちはもどかしいのかそれぞれリアクションを取る。
罪悪感に苛まれ、陰陽師を自分でなんとかしようと考えたのだろう。真弓は立ち上がって外に出ようとしたが、啄木に押さえられた。
事態の拗れた状況に澄は渋い顔をする。その彼女に茂吉は温かいココアが入ったマグカップを渡す。
なんで様子見なのかを奈央は八一に食いかかるように問う。
依乃は不安げにカップに入っているお茶の水面を見つめ、直文が近くに現れて、彼女の頭を優しく撫でた。
真弓を宥めつつ、啄木は疑問を呈する。
「けど、真弓を攫おうとしたのは気になるな。裏切り者扱いとして狙うなら納得いくが、そういう理由には見えなかった。追われたのが『変生の法』を受けた陰陽師たちと真弓が断言した。
抵抗するのを想定して彼らにしたという理由は引っかかる。彼女を大人しくさせるには真弓の兄を人質にしたほうが効率的だし効果的だ。だが、葛たちを餌にしていない。つまり、『変生の法』を受けてない陰陽師たちに眼中にないということ。ただ一点に真弓を狙っていることと意味する」
啄木は言い切り、怒りと悲しみをにじませて呟く。
「……息子の重光すら眼中にないってことか。あの会長は」
「……っ!」
啄木の呟きに真弓はピタリと動きを止め、体を震わせた。相手が会長であり、重光の状況を知って事態の拗れ具合を把握したのだろう。怒りたいが怒れないだ。真弓は悔しげに拳を握っている。
緑茶のコップをテーブルに置き、依乃は直文達に声をかける。
「……なら、私が本部に身を置くことはどうでしょう? 本当なら家族にも話したほうがいいのですから事情を話して……」
考えながら言う依乃に、直文は首を横に振る。
「君の家族の理解してくれるかにもよる。どんな形でも理解させようにも時間がない。保護するにも間に合わない。俺たちのことを知っているのは得策と思えない。むしろ陰陽師側がどこまで許容しているのかも怪しいな」
依乃は指摘を受けて口を結ぶ。理解している少女たち、特に奈央は親友の背中をやさしく撫でていた。
悠長にしていられなくなったのだ。『儀式』シリーズでどのタイミングでランダムで狙えるようになった以上、依乃を家族の近くには置かせられない。また依乃が組織の一員である以上、巻き込ませようと考えもあるだろう。
直文はスマホを出し、片手ですばやく操作をする。ワンタップをし、スマホをしまう。
「……一応、俺の信用できる先輩に依乃の家族の護衛を頼んでみる。事情を話せばわかってくれる人だから、多分先輩なら手を出す余裕を与えることはしないと思う。それに、元から依乃の家族とも知り合いだしね」
話を受け、奈央は驚いたように声を上げる。
「それはそれで、すごい偶然ですよね……! 依乃ちゃんの家族が無事ならちょっと安心」
安心する奈央の頭に八一は手を置いて撫でる。
「まあ、そこは大丈夫だろう。護衛がついたとしても、向こうが現世で面倒事起こすことはしない。もしそうしたら一つに賠償、一つに補填、一つに補償、一つに隠蔽工作、一つに警察の捜査、一つに──」
八一は片手を広げて、一ずつ指を折っては指を上げる。奈央は背景に宇宙を抱え始め、狐はいたずらっぽい笑みを作る。
「まあ、こんなところ。なんせ、後始末っていうのは中々大変なんだよ。オカルトとなると金額が更にはねがる。オカルト職業も基本は人材だ。自動化できたとしても、基本は人が関わらなくちゃならない。後始末とか事後処理はちゃんとしなきゃだめだ。……これ、三善さんは知って……るよな?」
と八一が不安げに真弓に目を向けた。
全員、真弓のやらかしや性格については把握している。葛からもらった説明書を啄木がプリントして、全員に渡してあるけらだ。
今の話の表題は、わかりわすく言うと『後片付けの大変さと大切さ』である。どの場所でも後始末や後片付けはちゃんすべきだが、苦労もある。これは娯楽や仕事にも通ずる。全員の目線が彼女に向いたとき、真弓はキョトンとした間抜けた顔であった。
「えっ……なにそれ……全部お兄ちゃんたちに任せてたから知らない。それに、協会の依頼のあとは疲れて寝てたし……」
まさかの本業の事後処理を知らない。
啄木は天を仰ぐ。黄泉比良坂で真弓の暴挙を垣間見た依乃は渋い顔をした。二人以外の彼は言葉も出なかった。
学生には関われない部分もあるだろう。だからこそ、同伴して知るべきこともあるのだ。が、真弓の無茶と破壊行為による後処理に追われているのであれば知る由もないのだろう。とんでもない問題児だ。
ガッシリと真弓の肩を掴み、啄木は顔を引きつらせながら話す。
「真弓。後片付けはしっかりするって知ってるよな?」
「えっ? あっ、うん。知ってるし、自分の部屋はきれいにしてるよ?」
違うそうではない。物事の事後処理に一片すらついて知らない彼女に、啄木は更に表情を引きつらせる。
「じゃあ、後できっちりお話しような? な?」
「えっ……あっ、はい……」
物をいわせぬ圧を放って真弓に否を言わせぬ。依乃は苦笑をしていると、直文から声がかかる。
「少し良いか?」
全員が直文に顔を向く。穏やかな表情である眉はいつも以上に下がり、瞳には強い光が宿っている。いつも以上に真剣であるが、いつも以上に余裕はない。
「受け身でいてもことは進まない。だが、こちらから動いても相手が何を仕掛けるのかわからない。危険を犯してでも、早急に『儀式』シリーズを止めないとまずい」
「……で、具体的には何をするんだ。直文」
茂吉に言われ、直文は目を伏せその内容を話し出す。
その内容を聞き、依乃は段々と目を丸くしていく。その他の全員は言葉を失った。
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