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八一の話を聞いて、彼女は放心状態であった。奈央の頭からは煙が見えているように見える。
あの世とは地獄や天国のある場所のことでその公認の組織『桜花』。半妖だけで構成されており、輪廻の巡りを保つもの。八一は百五十才以上で、未来の直文は今の自分の歳を越えているのだろうと。また直文も半妖であり、
暫し飲み込むのに時間がかかり、処理をしおえたあと。
今度は奈央が未来を話す番だが、八一からは話す前に話せない内容は話さなくていいと気遣いを受ける。
彼女は
未来に干渉しない程度の内容、直文と依乃。ここまでくるのに何があったのかを話す。拙いながらも話す彼女の話を彼は静かに聞いてくれる。合間を見て八一は質問を入れてくれる。答えられないもの、わからないものとなると彼は気遣って深く聞かなかった。
話が終え、真夜中となる。奈央はどっと疲れた。思い出しながら語り、合間に鋭い質問を投げ掛けられたり、答えたり。八一が話したものより、多くを話したような気がする。聞いた本人は興味深そうに頷く。
「へぇ、人の文明の進みの速さには驚くもんだな。けど、直文が未来で女の子と一緒にねぇ……」
「……久田さんとはどんな関係で……?」
奈央が聞くと、八一はいたずらっ子の笑みを作って自身の尻尾を触った。
「友人でもあり、仲間でもあり、家族でもあり……互いにとっては
好敵手と書いてライバルと読む場合もある。
彼は狐の耳と尾、
「まず、真面目に状況を整理すると、君はその時駆け狐と言う妖怪によって過去に飛ばされた。能力はともかく、その狐の姿には覚えがある」
「知っているのですか……?」
「うん、間違いない。稲荷大明神の神使による嫁婿探しの使い魔だ。覚えがある」
「嫁婿探しの……………………嫁婿探し!?」
嫁婿探しと聞いて、彼女は声をあげる。
時駆け狐の怪談の中にいる元タイムトラパーの相手は行方不明になっていたが、時駆け狐を通して神隠しされたのだ。彼は頷いて厄介そうに頭をかく。
「けど、おかしいな。その狐に容易に時を越える力なんてない。時を越えるには多くの手順が必要。……やっぱり未来で怪談になった影響か」
「……怪談と妖怪になんの関係が……?」
奈央の質問に八一は妖怪の生まれ方を教える。
理解不能な現象を引き起こす非現実な存在妖怪。彼らは人の想いや気に当てられて生まれる。名付けられて、呼ばれからやっと形を得る場合もある。生まれ方は様々だが、ベースは思いを土台に生まれるらしい。
「要は人の思いから妖怪は生まれる。つまり、人に影響を受けやすいってことだ。そんでもって、怪談の妖怪は話そのものが本体。生まれるのは滅多にないとはいえ、警戒すべきものだ。だが、その狐の場合は後世の創作で能力が付属された可能性がある。……君の未来は容易に怪談を作り、広げられるほど文明か。ったく、厄介な」
八一は頭を抱えたあと、方針を話した。
「
協力者に関する規則
一 協力者となった者には裏組織を明かさないと約束させる
二 協力者となった者は全力で護衛に尽くす
三 情を持ってはならない
四 全てが終わった後 協力者の記憶は抹消する
以上これをもって 任務に望む
口頭で伝えられ、彼女は厳しさに驚く。だが、同時に納得もできる。あの世の組織であるならば、知ってはならないこともあるのだろう。
規則を話終えて、八一は苦笑した。
「まあ、三番目の規則は人によっては破られていたりする。これは協力者を裏側に巻き込ませない為の規則だ。無論、この時代でも俺たちは普通じゃない。口外はしないように」
「……私の友人のはなびちゃんは協力者なのですか?」
直文と依乃は両想いだと見てわかる。依乃も協力者ならば、互いに別れなくてはならない。直文と依乃との話を聞いていた八一は首を横に振る。
「それはない。その友人と直文にまだ繋がりがあるならば、保護を継続しているのだろう。余程の事に巻き込まれたと見ていい」
八一の答えに安心もするが不安もある。
名前を取り戻したのに、友人がまだ悪いものに狙われている。直文が守ってくれるものの、やはり不安は残った。不安そうな彼女の顔を見て、八一は指摘をする。
「あのな、お嬢さん。その友人さんは大丈夫だろうが、今君自身が狙われているんだぞ? 見知らぬ人外の嫁さんになりたいのか?」
「イケメンならいいけど、嫌だ!」
即答に彼は笑う。
「よしきた。この八一。君を全力で守ると誓おう。私はこの後この旨を
「……ありがとうございます。八一さん。元の時代に帰るまでよろしくお願いします」
親切な彼に頭を下げた。八一は頷いて、微笑む。
「よろしく、お嬢さん」
よろしくの
今後の方針が決まった以上、彼女はこの時代に慣れなくてはならない。また八一は時駆け狐について、情報を集めつつ彼女の護衛を受け持つ。
彼女の中ですべき事を考えていると八一は質問をしてきた。
「ところで、そのいけめんとはなんだ? それは私の知らない
まだイケメンの言葉がない江戸時代にとって、聞きなれない言葉であるのは違いない。聞かれて彼女は興奮をする。
「イケメンとはイケけている男の人。魅力的な男性。美男子、美形、ハンサム。つまり、顔面や性格がカッコいい男の人の事です。八一さんはイケメン上位スリートップにランクイン。つまり、私の中でカッコいい男性の上位にはいります!」
「なるほど、つまり、色男と伊達男のことか。意味はわかったし誉めてくれるのは
八一も突っ込むほどのちょろさ。彼女は「大丈夫ですよ!」と両手にガッツポーズを作る。端から見て不安でしかない。
この時代、茶髪はいい扱いを受けないと説明されて認識阻害の術をかけて貰った。未来の服と荷物に関しては八一が預かって隠し、江戸時代に添う服装を貸し与えてくれる。
普通なら苦しくて大変だろう。奈央は自分なりに
五月の夕暮れが高校を照らす。依乃は通学バッグを手に
入学祝で両親から買ったものだ。画面には田中真美と書かれた名前が出ている。
「……そういえば、奈央ちゃん。今日、学校来なかったな」
授業や休み時間におらず、部活の方に顔を出しても存在が確認できなかった。奈央の部活もそろそろ終わっている頃合いであり、いつものように校門で待つと来るはずなのだ。先に帰ったのかと思ったが、彼女は通話ボタンをタップして耳に当てる。
「もしもし、真美さん?」
《もしもし、はなびちゃん!? ねぇ、今、学校? なら、奈央を見かけなかった!?》
スピーカーから聞こえる慌てように彼女は驚き、首を横に振る。
「い、いえ、今日一日見かけませんでしたが……」
《今日ね、担任の先生から連絡があったの。奈央が欠席について聞かれたけど、奈央はちゃんと朝通学していったのを見たの! でも、そっちにいないなんて…………!》
友人の奈央が行方不明。依乃は言葉を失った。
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