7 海原百鬼夜行の始まり
まさかの支援に驚きつつも葛と重光は支援の品を貰う。啄木と真弓に見送られながら、身隠しの面をして二人は家から離れていく。
葛は刀を腰に携え、投げナイフを上着の裏や腰に重光はつけていた。銃刀法違反になるゆえに、身隠しの面は外せない。
ここ最近、啄木に関する疑心が少しずつなくなっている。啄木にも怪しい動きはなく、家に盗聴や監視の式神を仕掛けるのをやめた。
海辺に向かう道を歩きながら、二人は黙って歩く。家からだいぶ離れると、重光は口を開く。
「佐久山啄木さん。悪い人じゃなさそうだな。葛」
「ああ、俺たちの敵でないのは本当らしい。革命派でも無ければ、第三勢力じゃない。信用はしてもいい。…………だけど」
葛は
「得体の知れない違和感はある。それは佐久山さんにとって知られたくないんだろう」
相方の言葉に、重光も頷いて振り返る。
真弓も感じている得体の知れなさ。違和感があり、本来ならば信用してもいいか疑う。三人が信用しているのは、啄木自身が彼らの抱いている心情を理解している
二人は啄木を思い浮かべ、重光は腕を組む
「あの人は俺達に干渉させない代わりに、俺達の問題にも深く干渉しない。けど、助けるときは助ける。絶妙な立ち回りをしてるよなー……。良い人であるんだろうな」
重光は話し、話題を変える。
「そもそも、妹をおいてきて大丈夫なのか。成人男性一人と二人っきりなんて、心配にならないのか?」
第三者に聞かれれば、普通は心配するだろう。啄木を得体が知れないと思っている。葛は首を横に振り、不安げに空を見つめた。
「……むしろ、あのジャジャ馬妹が佐久山さんに迷惑かけないか心配だ……」
「……確かに……」
星空がキラキラと輝いている。二人から見て、夜空にはデフォルメされた真弓の笑顔が写っているだろう。啄木が苦労している姿も目に写っているのだろう。彼らは罪悪感を抱きながら、背を向け海辺へと歩いていった。
海辺につく。
十数人の退魔師がそれぞれチームを作っていた。
「よぉ、三善の坊主に土御門のご子息! 元気か!」
坊主頭で顔の布でかけた僧侶がいた。
「
「はっはっ、まあな。稼ぎ時といえば稼ぎ時だが、命までは失いたくないよな」
曜憐という男は、切なげ話す。海原百鬼夜行で命を落とす退魔師は少なくない。今回、魂を食っているともなれば死者も多く出る可能性がある。死んでしまう可能性を考え、葛は拳を握る。
「死にたくはないですが……覚悟しています。殺らなければやられますから」
相方の顔を見て、重光は雰囲気の場を明るくする。
「けど、こっちもやられるばっかではありません。生存率を上げるためにある方から支援品を貰ったんです」
「ほぉ、それは期待していいのか?」
「いやぁ、大いに期待されると困りますけどね……」
にやにやと微笑む曜憐に彼は重光は苦笑して答える。貰ったものが、本当に役立つのかもわからないからだ。
海から邪気を感じ取り、全員が黙る。重光は腰にある投げナイフを手にし、曜憐は
随分前に行われた海原百鬼夜行よりも強く荒々しさを感じた。何度か百鬼夜行に参加している葛と重光は、今回の件は以前より違うと感じていた。
三月の震災の影響で、海の妖怪達は調子に乗っているのだ。禁忌を犯すにしても、バレなければ問題ないとでも思っているのだろう。
汗を流し、風と潮の香りを感じる。海にぶくぶくと泡がたち、それらは姿を表した。
頭に三角冠をしているが、所々が腐りかけている船幽霊。
琵琶を手にしているが、肉体のガタイが良くなっている海座頭。海の遠くからは顔を勢いよく2つの目を光らせて現れる。上半身が女で下半身が蛇の姿をした磯女と二体現れた。
陸の上に上がるはずのない船幽霊が地に足をつけると。
「いくぞ!」
一人の男が声をかけ、他の仲間は武器を構えて駆け出していく。囚われ糧となっている魂達を早急に助け妖怪達を倒さなくてはならない。また海原百鬼夜行の妖怪に対話は通じない。
曜憐は
「ナマサマンダバ サラナン トラダリセイ マカロシヤナキャナセサルバダタアギャタネン クロソワカ」
一体の磯女は曜憐に襲いかかった。
「させるか!」
重光が手を振るい、投げナイフを数本飛ばす。磯女の下半身に刺さると、相手は悲鳴を上げる。葛は勢いよく駆け出して、刀を突き立てた。勢いよく横に切り、葛は横に避ける。
葛と重光は構え、曜憐の援護をする。切り口から血が吹き出す最中、
「ナマサマンダバ サラナン ケイアビモキャ マカハラセンダキャナヤキンジラヤ サマセ サマセ マナサンマラ ソワカ」
「
磯女に勢いよく振り下ろされる。ズンッと音と砂埃がたち、起こされる風に二人は身構える。強い風もあり、砂埃が晴れていった。
あまりの異常な再生能力に曜憐は言葉を失い、葛は舌打ちをする。
「ちっ、女郎蜘蛛のときと同じか……!」
重光は
「本当に酷いことするよな!
重光の言葉とともに、磯女の体に取り込まれたナイフが光だす。磯女は苦しげにその部分を抑え、葛は札を投げた。
「
勢いよく爆風が現れ、磯女は海へと投げ飛ばされる。周囲をよく見ると、退魔師達も魂を食った妖怪に苦しめられている。早くも劣勢に追い込まれおり、魂の食った妖怪がどれだけ厄介ものは彼らは身にしみた。
葛は襲いかかってくる船幽霊を刀を振るっては追い払う。懐から啄木の貰った札を一枚手にして見た。いくつもの文字と模様が書かれており、強く浄い力を感じている。
「っ! 使うのか!? 葛!」
重光に聞かれ、葛は力強く頷く。
「ああ! 劣勢に追い込まれるよりかは──少しでも優勢に持ってきたい。一か八かだ!」
葛は札を掲げた。
「
札は葛の声に反応し、光り出す。
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