7 任務
真夜中の
しかし、とおるはただの少女ではない。彼女は気配を物陰から感じた。
大きな通りを通って、人気のない町外れへと移動する。背後から複数の足音が聞こえた。とおるは驚いて振り向く前に口を押さえられて、腕も取り押さえられる。彼女の背後には背の高い外人の男がおり、その相手が押さえていた。
当時の軍服を着ており、腰に軍刀を
〈なんだ。魔物とのハーフと聞いたから身構えたが、そんな大したことはなかったな〉
〈見たとこ、かなりいい女じゃないか。ここでやってもバレないよな?〉
〈おいおい、イエローモンキーのハーフだぞ!? 感染しないのかっ!〉
三人の背後には、身隠しの仮面を
【とおる。目をつぶって】
普通の人にはわからぬ暗号で茂吉は伝え、とおるは言われたとおりに目をつぶる。
軍人の彼らは彼女に手を伸ばそうとして びくっと動きを止めて目を見開いた。静かに三人は地面に倒れる。後ろから思いっきり心臓まで刺して殺した。必殺とも言えるがえげつないとも言う。身隠しの仮面により、外人は茂吉の姿が見えない。
唐突に倒れた姿に残りの軍人は困惑をした。
〈な、何が起きたんだ……!?〉
〈お、おい、まさか……この女が仕掛けたんじゃあ……いっ!?〉
とおるは捕まえている男の足を踏んで、腕の掴む力を弱めさせて振り払う。自由になった両腕で男を掴んで、背負投げをした。地面に叩きつけられて男は驚く。彼女は茂吉のところまで飛び下がる。彼の後ろに立ってとおるは人避けの結界の術を使ったのち、話し出す。
〈私達を舐めてかかりすぎてはないでしょうか? 皆様〉
同じ言語を喋り、彼らは驚愕をして見せる。
〈っ! 俺たちと同じように喋れるのか……!?〉
〈なんてこった! 嘘だろ!?〉
本気で喋れるとは思わなかったらしい。情報に制限をかけているため、詳しく流れない。茂吉は背負い投げされた男に目線を向ける。
〈こんな罠にかかるなんて、お間抜けなんじゃないかな? 吸血鬼さん〉
残りの二人は再び驚愕する。ゆっくりと起き上がり、砂を払って二人を見た。
〈……はぁ、どうやら私達は偽の情報を掴まされたようだ〉
白い牙を剥き出しに瞳を人でないものに変える。冷静に対処しており、二人は百年は長く生きている吸血鬼と判断した。仲間の彼らが吸血鬼を見て驚く様子がないのは、探りを入れようとしている
相手の発言に茂吉は苦笑する。
〈まさか本当に食いつくとは思わなかったよ。まあ、俺達の素性をあまり出してないから、食いつきやすかったんだろうけどね〉
一部しか知られておらず、外国の妖怪や精霊は強い者かトップしか知らない。死んでも口には出してはならない故に、周囲には伝わらない。それもこれも禁忌を犯そうとする相手を仕留めるためである。
この吸血鬼も禁忌を犯そうとしており、茂吉はため息をつく。
〈……たださ。君の真祖からも始末してもいい話が来てるんだ。これって、つまり、君達は触れてはならない禁忌に触れてるのわかる?〉
軽く聞くが、吸血鬼は唇を噛む。
〈我々が生きながらえるためだ。その方法の手身近に貴様達の組織があった。それをちらつかせ、
「二人共」
吸血鬼の背後に人が降り立つ。
降りてきたのは、仮面をした直文だ。その彼の両手には二人の人間。いや、足が砂のように消えていく者を人間というのか。吸血鬼は振り返って、驚愕をしていた。
〈……はっ……なっ!? ……わ、私達は……私達は! 弱点さえつかれなければ不死身だぞ……!? 何故、容易にやられている……!?〉
動揺している吸血鬼の目の前に、勢いよくその亡骸に等しい吸血鬼を投げつけた。吸血鬼達は白目を剥いており、口から涎を出しながら体を砂と化していく。直文は不思議そうに彼らの言語で話した。
〈弱点をつかなければ我々が死なないと思っているのか?
吸血鬼にも吸血鬼の殺し方が多岐にわたるだろう〉
〈……魔殺しだと……!? ……そんな馬鹿……いや、関わってならない……まさか……お前たち……!?〉
直文の手から吸血鬼の体が消えた。完全に死んだのだをみて、彼らがどういう組織なのか吸血鬼は悟ってしまった。吸血鬼は「ひっ」と情けない声を上げて、体をコウモリにして逃げていく。先程の余裕はないようだ。人間たちよりも、自分の保身に走る。
直文は宙に浮いて、二人に声をかけた。
「俺は吸血鬼を仕留めてくる。二人はそこの人間の処遇を決めてくれ」
背を向けて、勢いよく飛んでいく。
茂吉は二人に振り返る。
〈さて、君達の処遇をどうするか、俺達が決めさせてもら──〉
とおると茂吉は言葉をつまらせる。男の一人がポケットから小さな瓶を出していたからだ。透明な色であるからこそわかる。赤い液体が入っていた
茂吉は声を荒げる。
「──おい、まさか吸血鬼の血かっ!?」
「……っ嘘!?」
彼女は驚愕した。吸血鬼は噛まられるだけではなく、血を与えられても吸血鬼になる。血は先程の吸血鬼に与えられたものの可能性が高い。だが、瓶の量が多すぎる。吸血鬼に転化するなら一滴でいい。飲む量は多ければ多いほど、理性のない化け物に成り下がる。
〈っっ……くそっ!〉
蓋を開ける男に茂吉は急いで走り出した。茂吉は瓶を叩き落として、吸血鬼の血を地面におとした。
その赤い血は地面に染み込んで消える。
とおるが走り出す。とおるが動き出した理由を察して、茂吉はもう一人の相手を見た。そのもう一人が血を飲んでいたからだ。とおるが手を伸ばしても遅かった。その男は瓶を落として、苦しみ出す。
「うっ……ぐっ……!?」
手の爪が伸び、牙ができ始める。目も白目になり、肌から血管が浮き出ていた。その軍人はとおるを吹き飛ばす。彼女は静かに着地をして、顔をあげた。茂吉は男を地面に押さえつけて、血を飲んだ相手を見た。
吸血鬼となった男は倒れた三人の死体に飛びかかった。
一人の遺体の首筋に噛みつく。死んでまだ間もなく、吸血鬼となった相手からして、格好の餌だろう。血を飲み干し、更に遺体の首筋を噛んで血を飲み干す。
変わり果てた同僚の姿をみて、生き残った男は怯えを隠せなかった。
〈れ、レオン……?〉
声に反応して、吸血鬼は首筋から口を話して男に顔を向ける。口の端から血を流し、殺意を男に向けていた。
〈ひっ……!〉
仲間めがけて、吸血鬼は飛びかかってくる。させまいと茂吉は変化をして駆け出した。仲間殺しに合うより、自分たちの手で亡くなったほうがまだ救いがあるからだ。彼は吸血鬼の心臓の上を掴み当てて言霊を使用した。
「……申し訳ないけど……
手から勢いよく黄色い光が一瞬だけ現れ、吸血鬼の体を貫く。
吸血鬼自身何が起きたのか、わかっていない。胸に空いた穴を抱えながら、相手は後ろに倒れる。心臓に杭を打てば吸血鬼は倒れるというが、正しく言えばその生命力となる心臓を攻撃すればいい。
吸血鬼は倒れ、男は目を丸くした。我に返ったのだろうか、相手は瞬きをして人の瞳を目に宿す。自分が何をしようとしたのか、理解したのだろう。
ゆっくりと顔を同じ同僚に向けて、手をのばす。
〈……ああ……ダニエル……ごめん……ごめん〉
目に涙を流しながら、体を砂に変えていく。死にゆく姿に、男はゆっくりと起き上がってその吸血鬼となった男の名を呼んだ。その声に吸血鬼の彼は申し訳無さそうに謝り続ける。
〈助けようとしたはずなのに……君を……殺そうとして……ご、め……ん……〉
顔までも消えていき、強い風が吹く。吸血鬼となった男は自然の中へと返って行った。
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