13 安倍川の狐と狸2
一つことが終えたと言ってもいいだろう。茂吉は気絶させた二人を見ながら悩ましげ声を上げる。
「うーん、流石にこの地区に置いて行くわけにはいかないよなぁ。シェアハウスも確実ってわけじゃないし」
「じゃ、一時の避難に組織の『きさらぎ駅』に直送しよう。あそこなら、先生たちが融通きかせてくれると思うし、安全地帯だと思うぜ。お狸さん」
「……へぇ、良く組織の『きさらぎ駅』っていう場所を思いついたね」
「はっはっ、褒めよ褒めよ」
「よっ、流石は変態狐ー☆」
「それ褒めてるのかー? 真実だけどさw」
狐の提案に茂吉は感心し褒め、褒められた本人は調子いい演技をする。担ぎながら、何かをつぶやくと八一の抱えていた陰陽師の姿が消えた。
手にある砂を払いながら八一は思いついた理由を話す。
「あの作戦会議のあと、奈央と出来る限りの避難場所をいくつか決めていたんだ。家とかもあったけど、絶対的に手を伸ばせない場所として組織の『きさらぎ駅』を候補の一つとして上げた」
話を聞き、茂吉は頷いて納得する。
「ああ、なるほど。あそこは門だから『儀式』シリーズでも干渉はできない。しかも、先生たちが守護してるからなおさらだ──」
茂吉は八一と同じように何かをつぶやき抱えている陰陽師の姿を消す。二人は話している通り、陰陽師たちを『きさらぎ駅』に送ったのだろう。
いきなり送られて善子たちは困るだろうが、奈央達もそこに向かうと踏んで送ったのだ。話を聞いて事情は汲んでくれる上に、許容はしてくれるだろう。何せ、緊急でもあるのだ。
彼らは『偽神使』のことが終えたと判断し、二人は仮面を外す。変化を解いて空を見上げた。茂吉は深呼吸をしてにこやかに笑う。
「いやぁー……仮面からのかいほー……やっぱいいね……」
「確かになぁー。昔みたいに緩いわけじゃないから、仮面は必須だけどなぁ……」
八一は同意する。他愛のない会話をしながら地区にある違和が、海岸の方に向かっていくのを感じた。
バイブの音がする。八一はポケットからスマホを出した。奈央嬢さんとある画面に、彼は通話ボタンを押す。茂吉にも聞こえるようにスピーカーにする。
《っもしもし、八一さん!?》
「もしもし。君の八一さ。こっちは無事だぞ」
《っ……よかった》
ホッとする奈央の声。君の八一発言を無視されたが、奈央はいつもの調子で安心したのだろう。心配してくれてことに八一は照れてように頬をかき、直ぐに真顔となる。
「さて、奈央。今、状況を聞きたくて茂吉にも聞こえるようにスピーカーにしている。今君はどこにいる?」
《……組織の『きさらぎ駅』。先輩が頑張って……静岡駅の近くに転移させてくれて……。今、駅の改札を通ってそこにいるよ。……あと、真弓ちゃんが穏健派の陰陽師の女性日下部さんを保護したよ。……あと、駅に伸びてる陰陽師さんたち二人いるけど……》
「その陰陽師はこっちでも保護したんだ。……さて、互いに何があったか、話そうか」
《うん、こっちも話さなきゃならないことあるから……》
八一に奈央は同意し、互いに情報交換をする。『儀式』シリーズの完成速度についても、予想外だった。だが、彼らを最も驚かせたのは八一の相方についてであった。
まさかの相方の登場に八一は目をまん丸くさせている。
「──三代治っ。三代治だって? まさか、あいつが三善さんの元に来てたのか!?」
《ええっと、話によると……真弓ちゃんを助けてそのまま伝言を残して去ったみたい。
『皆が隠すなら僕なりに調べる。今回は僕は手を出さない。けど、次から僕も関わらせてもらう』……って馬鹿狐にも伝えろって》
「……まじか」
厄介げに彼は顔を片手で抑えた。八一が珍しく余裕なげである。それは茂吉にも言えた。電話から話された内容に恐る恐る茂吉が聞く。
「三代治は? その後、三代治の消息は?」
茂吉の疑問に答える人物が空から答える。
「巻かれた。探ったが、あいつはとっくに葵区から出ていった」
二人は背後に体を向けると、変化済みの啄木が降り立つ。仮面を取ると同時に変化を解いていた。啄木の仮面を消し頭を掻いて、八一に尋ねる。
「三代治の言葉通りなら今回は関わらないんだろうが、相方の八一はどう見る?」
伝言の言葉の意味のことだろう。八一は苦笑しながら答えた。
「……たぶん言葉通り今回は関わらないんだろう。けど、この先は覚悟した方がいい」
三代治について、彼女たちも話は聞いたことがある。
三代治は『悪路王』にやれて死に。その前に彼の大切な人間も殺された。その彼にとって今の『悪路王』は復讐相手。陰陽師の方にいるとなると、復讐をしようと殺しにかかる可能生がある。つまり、厄介事が増えるのだ。
口に出さない方がいいのは、電話の向こうにもいる少女たちも理解している。八一は咳払いをし、電話に声をかけた。
「……とりあえず、作戦通りにいってる。奈央たちはそっちで陰陽師達の尋問を頼むよ。私達は私達の役目をこなす」
《うん、八一さん達。無事でね! じゃあ、また……!》
通話が切れる。八一はスマホをポケットにしまう。通話が終わったあと、茂吉は余裕なさげに笑った。
「……ここまで順調だと逆に怖いね」
八一は頷き、啄木に目線を送る。
「そりゃ、背後で根回しの指示してるのは知識の瑞獣様だしな……」
納得するように頷く八一に、啄木は息をつく。
「俺は出来ることしているだけだって。……というか、この後、大仕事あるの知ってるだろ……」
彼の言葉に狸と狐は微笑んだ。
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