14 組織の駅内1

 スマホの通話を切り、バッグにしまう。

 身隠しの面をはずした状態で全員は駅のエントランスホールにいた。倒れていた陰陽師の二人も起き上がる。場所と奈央達の存在に混乱していたが、仲間の陰陽師が事情を軽く説明し落ち着かせた。

 彼らは面を取れば、一般人と変わらない。簡単に自己紹介を済ませ、六人はエントランスホールに用意されたテーブルと椅子に座る。善子がお盆で飲み物の入った紙コップを持ってきて、三人の陰陽師の前に出した。


「どうぞ。現世にもあるみかんジュース。あっ、炭酸飲料のほうがよかった?」

「い、いえ……お気遣いなく」


 陰陽師の言葉に、善子はニコニコと微笑む。


「あらあら、ふふっ。偉いわねぇ。この後、おばあちゃんがお菓子も持ってくるから待ってててね」


 お盆をもって、駅の事務室に戻っていく。見た目麗しい鬼の美女なのに実家のおばあちゃんのような雰囲気。フランクな対応に、陰陽師たちは困惑する。オカルトの駅なのにこんな実家の居間の雰囲気でいいのかと、少女たちも困惑する。だが、侮ることができない。だが、油断してしまう油断できない相手が『きさらぎ駅』の駅員としてここにいる。

 飲み物に変なものは入れてないことを証明するために、澄が近くにあるコップを飲む。

 一口飲んで、陰陽師たちに無事であることを見せる。


「ご安心を。私が飲んでも無事です。ヨモツヘグイなどもありません。安心して身を落ち着かせてください」


 ごとっと結露の付いたみかんジュースの入った瓶が置かれた。また近くにお菓子が置かれる。善子が自慢気にジュースを見せた。


「そう! 安心して、これは静岡のみかんジュース。駅ならどこでも見かけるひよこパッケージのケーキお菓子! 賞味期限切れてないからたくさん食べなさいな」


 籠に用意された菓子と瓶のパッケージは駅やお土産物屋でも売っている。一般で売られている駄菓子系かジュースを買うかと思った。が、事務室から微かに聞こえる男泣きで少女たちは察する。

 ゲームで負けた夫の義二が買わされたのだと。菓子を出した善子が「それじゃあ、ゆっくりね」と声をかけて、部屋に戻っていく。ドアが閉じられる音を聞いたあと、澄は真面目に話す。


「さて、まず、話す前にお互いに私達の本当の身の上を話さなくてはなりません。

……聞いてはくれますか?」


 正体を知りたいのは当然だろう。陰陽師たちが頷き、澄は自分たちの本性について話した。

 奈央は仲間。真弓は協力者。そして、澄は組織の半妖であることを明かす。また今日遭遇した八一や茂吉、啄木についても半妖であることを明かす。話に伝わる『地獄の使者』であると事細かに伝え、陰陽師たちを驚愕させた。


「……は……はぁ!? あの……『地獄の使者』が半妖……!?」

「はい、私は金長狸。日下部さんが遭遇したのは白沢。大春日さんと滋岳さんが遭遇したのは稲成空狐と隠神刑部。それぞれの半妖の彼らです」


 雑魚ではない強力な妖怪の血を引く存在である。この明かされた本性に三人は言葉を失う。特に八一たちは特級レベルであるがゆえに、言葉が出ないだろう。

 澄は真剣な顔で話を進める。


「ええ、私達は非常に強力な妖怪の血を引き、力をそのまま受け継ぎますが……その理由は貴方がた三人が行っていたような出来事を止めるため。取り締まりためにです。

長い目を見て、何度も人間と妖怪は酷い事件を起こし掛けてますからね」


 指摘された瞬間、陰陽師の三人は顔色を真っ青にする。すなわち犯罪に加担した当事者に含まれ、手伝わされていたのだ。決していい思いにはならない。

 澄たちは自分たちの立場について明かした。次は陰陽師たちの番である。三人はそれぞれ目を合わせる。女の陰陽師の日下部は代表として、澄たちに身の上を話し始めた。


「……私は日下部麻美子と申します。こちらは、大春日佑弦と滋岳奏汰です」


 紹介のあとに、二人は軽く頭を下げた。


「……私達は陰陽師であることを知っているかと思います。……今回の件について、私達が知ることは少ないです」

「いいえ、構いません。知りうる限り、お話していただけると嬉しいです」


 澄の言葉に、日下部は頷いて知りうる限りを口にする。

 まず日下部たちは今回の『儀式』シリーズについてだ。ある妖怪をおびき寄せるための作戦だと聞いた。作戦の内容で動物霊の使用からして、陰陽師としておかしいと思い、会長に作戦を抜けることを話した。しかし、抜け出すことは許されないと呪いが発動したという。

 会長が呪文を唱えただけで苦しくなったらしい。大春日と滋岳も同じような感覚に襲われたとのこと。会長いわく、生まれたときからその呪は仕組まれていた。逃げたり、失敗したりすると死んで『儀式』シリーズの糧になってもらうと。

 信者らしき人間には呪いをかけなかった。だが、『儀式』シリーズの術式が信者を連れて行ったのは失敗したと見なされたからだろう。

 話しているさなか、日下部は体を震わせて頭を垂れる。


「……けれど、貴方方の御陰で自分たちの中にある………違和感は少なくなりました。

ありがとう、ございます」

「いえ、お気になさらず。……ああ、もしよければお三方。ご協力を願いますか?」


 提案にきょとんとする陰陽師。真弓に目線を送りながら澄は話す。


「お三方の呪いは三善真弓さんの件でもあります。彼女の中にある呪を解こうとしている仲間がいるのです。サンプル、もしくは症例を集めればその呪を解く鍵があるかもしれません」

「……解くって……できるのですか?」


 澄は頷く。


「ええ、不可能ではないでしょう。必ず仲間が解いてみせます」


 断言して三人は顔を見合わせる。

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