15 組織の駅内2
僅かに雰囲気が和らいだことに、澄は見逃さず真剣な顔で三人に話をした。
「ご安心を。三善真弓さんと御三方が無事なのは仲間の加護があるからです。協力してくれる限り、仲間の加護は与えられ続けるでしょう。そして、祭囃子が聞こえないのはここが術式の干渉が及ばない場所にあるからです。私達、組織は御三方にも危害を加えるつもりもなければ、命を奪うつもりもありません。……代わりにそちらの持っている情報を出すことを願うでしょう。
都合のいいと思われるかもしれませんが、無事を保証します。一旦、組織に身を寄せてみてはいかがですか?」
身を寄せる提案に、澄以外の五人は瞠目する。だが、現状、澄の提案の方が三人にとっても魅力的であり、彼らにとっても有益だ。三人はそれぞれ話し合って決めたらしく、顔を向けて答えを出した。
「お願いします。私達を組織に置いてください」
「了解いたしました。話はこちらで通しておきます」
代表である日下部が返事をし、澄は首を縦に振る。奈央と真弓は不安げな顔をしていた。その不安げな表情に気付いて、後輩たちに声をかける。
「奈央、三善さん。どうした?」
「いや……あの……先輩。上司さんの決定もなしに、勝手に決めていいのですか?」
奈央の指摘は最もだ。澄は本部からの報連相もなしに話を進めている。後輩からの指摘に彼女は微笑みを浮かべていた。
「大丈夫。あの人の事だ。この話を何処かで耳にしているだろう」
「「えっ!?」」
驚く二人に、澄は自身の耳を指しながら苦笑する。
「地獄耳なんだよ。あの人は。……でも、このことを勝手に進めても問題はないだろうね。事前に手は打っていたみたいだから」
「あの、高島さん。なんで事前に手を打っているとわかるのですか?」
真弓に聞かれ、澄は何にもないように答える。
「簡単な事だよ。三善真弓さんのお兄さんと友人さんの捕縛情報が本部や陰陽師の方でも流れてこないからさ。捕縛情報があれば三善さんは焦るし、陰陽師の動きが違うはずだからだ」
言われて気づいたのか、真弓と奈央は「あっ!」と声を上げた。
陰陽師たちは葛と重光について話を出していない。捕らえた情報があるなら、組織の動きと陰陽師側の動きもだいぶ違うだ。捕らえた情報があるならば真弓の行動も違う。
気づいた二人に、先輩は困ったように微笑んだ。
「それに、三善さんのお兄さんと友人さんが捕まると陰陽師本部に殴り込みに行くつもりだろうしね」
「ゔ……」
困ったように言われて、真弓は刺さったようだ。性格を把握されており、真弓は痛みを堪えるような顔をしている。組織の全員に真弓の説明書を啄木から渡されているので、澄と奈央は把握していた。
反論も何も言えなくなり、真弓は気まずい顔のまま口を閉じている。また三人の中の一人が納得したような顔をしているあたり、一部の陰陽師からは真弓は有名のようだ。気まずい顔をした澄に真弓は声をかける。
「さて、三善さん。再度質問するけど、君たちの派閥にいる『変生の法』を元から受けている陰陽師はどのくらいいるんだ?」
「ええっと、私が知っている限り大半ぐらいしか把握はしてませんよ? 高島さん」
「じゃあ、一つ。質問を付け加えよう。君たちの派閥の信者はどのぐらいかは把握しているかな?」
「いえ、私は本当に多いぐらいしかわかりません。元々、私は会長にいい思いを抱いてないので、会長の集まりには行かなかったというか……」
真弓の答えを聞き、日下部が口を開く。
「……会長の信者はその大半ですよ」
その言葉に澄は勢いよく首を向ける。日下部は険しい顔をしてながらその信者についての情報を教えた。
「私たちのように会長を心の底から信用していないものは少ないです。
……会長の信者が大半なのは、ほとんどの陰陽師系がお家存亡になりそうなところ、救済措置として会長が『変生の法』を使用して霊力の強い陰陽師を生まれさせたからです。三十年使い続けて、私達の派閥の陰陽師は発展していきました。……今回の静岡での任務は私のそばについていた陰陽師以外、会長を信用していないものが集まったみたいですが……」
大春日と滋岳は会長の信者で内容だ。二人の顔や動き、雰囲気からも誤魔化しや嘘はない。聞き耳を立てている義二や善子が口を出さないところからして、彼らを快く迎え入れてもいいようだ。
聞いていた真弓は顔色を悪くしていく。
「そういえば、私達のお母さんとお父さん。会長たちの御陰で助かったって言ってたけど……あれって……」
その囁きから二人が会長の信者であった可能性もなきにしもあらず。真弓の予測であり実際は不明である。死人に口無しだ。澄が口を開けてフォローする前に、真弓の不安げな表情に奈央が彼女の両手を掴んだ。顔を向かせて、向日葵少女は告げる。
「っ真弓ちゃん。真弓ちゃんのお父さんとお母さんが信者と決まったわけじゃないでしょ? なら、今はこれ以上深く考えないほうがいいよ!」
「……奈央ちゃん」
名前を呼ばれた奈央は向日葵のように明るく笑ってみせた。だが、少し表情は固い。不安なのは奈央も一緒だ。友人が狙われているなら尚。後輩の優しさと明るさには澄たちも助けられている。
澄は奈央の肩に手をおいて励ましの言葉をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます