16 ep 送られてきたは二人の
近づいてくる気配が消えた。依乃は気付いて顔を上げる。直文も気づいたらしく、同時に顔を上げた。
潮の香りに波の音。海岸の砂浜には何度も水が引いたり、濡らしたりを繰り返す。
大浜海岸の砂浜に二人はいる。
人よけの結界もはり、人が来ないようにした。人が来ないのを確認した後、二人は仮面をはずす。
視界には風力発電の風車命名『風電君』。近くにある工場の電力の一部を賄っているが、未来では撤去されるものだ。その風力発電の風車を見つめながら、風を感じる。海岸の近くに張られた強い結界に阻まれて、何体が良くないものが消えていく。それがすべて消えると、直文はほっとしたように息を吐いた。
「良かった。全ての『偽神使』は倒された」
「……けど、倒してしまって良かったのですか? 直文さん」
「完成に近づくのはもうやむを得ない。だけど、まだ術式を壊すチャンスはある」
断言するが、依乃は不安であった。
創作怪談は認知されていくたびに発生率は上がり、材料が揃えば誕生もしやすくなる。今回は相手側が上手。倒されていくたび創作怪談の要素を取り入れていく仕組みだ。未だに依乃は遠くから響いて聞こえる祭囃子に息を呑む。
この現象を白状するために、直文に聞く。
「……あの、直文さん。遠くから祭囃子なんて……聞こえませんよね?
この地域のまつりなんて大道芸だけ……。直文さんは……聞こえますか?」
依乃に言われ、直文はすぐに真剣な顔になる。しばらく黙っていると、一筋の汗を流し渋い顔になっていく。
「……っ聞こえない。依乃は聞こえるのかい?」
「はい。遠くから聞こえるような感じですが……」
教え、また直文は周囲を見回して集中する。直文も聞こえづらい程に完成度を上げているようだ。遠くから聞こえてくる祭囃子が段々と近づいてくる。
音が聞こえたようだ。直文はすぐに駆け寄り、依乃を抱きしめたと同時に祭囃子が周囲に響き始めた。
美しい笛の音にリズムよく叩かれる太鼓の音。当たり鉦の音も高く響く。依乃の周囲に響くように鳴っており、完成度を確実に上げてきていた。直文は抵抗に麒麟の鳴き声を上げるが、祭囃子の音は強いままである。
彼女の持つ御守が熱くなっていくだけで、彼女は直文に抱き締め返す。
「っ……直文さん……!」
「──……っ! 依乃!」
悪寒がし、周囲の音と直文の放つ笛の音色が掻き消える。全てが祭囃子に変換されていく。
直文に顔を埋めていくが、寒気が消えたわけではない。ビリっとお守りが破ける音とともに、聞こえてくる祭囃子がふつりと途切れて響かなくなる。
「……まさか、彼諸共来るとは思わなんだ」
聞き覚えのない声に依乃は顔を上げ、動かせる範囲で首を動かす。
周囲には雑面をした十数人の陰陽師。五芒星の魔法陣の中央におり周囲には紙垂れのついたしめ縄。そして、二人の目の前には優しげな風貌の男が立って驚いていた。
直文は依乃を強く抱きしめながら、眉間に皺を寄せる。
「土御門春章……!」
名を呼ばれた春章は余裕なさげに笑っていた。
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