それは冷淡にやってきた

 少女は小さい頃から夢の中の人に恋をしていた。


 王子様のようなかっこよさではない。けれど、逞しくてかっこよくて強い。何しろ、少女にとても優しくしてくれた。その人は色んな事を教えてくれて、色んな場所へと連れて行ってくれた。

 憧れていた。憧れから、段々と異性の恋へと変わっていく。その人の喋りを真似するぐらい彼女は好きだった。少女は夢の中でその人に告白したことがある。その人は困りながらも、赤い顔で笑って承諾してくれたのだ。


 ずっとそこから有頂天であった。時々その夢を見ては日々の気力として彼女は学校生活を頑張がんばってきた。


 だが、ある日を境に怖い夢に切り替わる。


 高校一年生の夏から、急に怖い夢になった。人に殺される夢だった。怖いはずなのに悲しみの方が勝っている。

 不思議ではあるが、もう夢の内容は覚えてはない。質の良い睡眠を取って、記憶の整理をしているからだ。

 彼女は誰かからアロマスプレーとアロマ効果を引き出す紙をもらった。鎮静効果が強く、よく眠れるらしい。効果は嘘ではなかった。眠りが深くなれば、悪い記憶は処理されるらしい。誰に教えられたのかはわからない。そして、誰にアロマスプレーと紙を貰ったのかはわからない。

 毎日使用していたので、紙は使い切り、アロマスプレーの量も底を尽きた。

 スプレーが空になったあとも、殺される夢は見ることはしない。安心するはずなのに、彼女の中の胸に空っぽな穴が空いたような気がした。


 彼女はあの小さい頃の夢の人に出会おうと考えて眠りにつくが、もうその夢を見ることはなかった。


 寝不足に悩まされることはなくなった。

 しかし、高島澄の心には切なさが襲いかかるようになっていた。


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