13 海原百鬼夜行、終了
何が起きたのか。真弓は呆然として去った姿を見る。先程の刀を手にした人の形をした神獣が近辺を浄化し、陰陽師を癒やしてくれた。しかし、かの神獣が放った力は啄木がくれた札の力と酷似していた。
「今の……神獣……啄木さんの札と同じ力を感じた」
「……まさか、神獣を使役してるのか……あの人!?」
神獣の使役と聞き、周囲がざわつく。
静かな
「おい、真弓、三善さん! いるかっ!? っ聞こえてるかっ!?」
首を左右に向けながら、必死に啄木は彼らを探していた。真弓は慌てて身隠しの面を取り、声をかける。
「啄木さんっ!」
「っ! 真弓、そこにいたか!」
駆け寄り、啄木は体を曲げて膝に手を置く。息を荒くし肩を上下させた。
「……はぁ……はぁ……良かった。なんか三保海岸に行こうと思わなくて……気づいたら……時間たってた……どういうことだ?」
「……それって」
前に人が去る現象と似ており、辺り一帯に人避けの呪いをかけられていた。と耳に入れた人は思うが、啄木が思うように誘導しているだけ。
息を整えながら、啄木は彼女に声をかける。
「皆は……無事か?」
「う、うん。大丈夫。何だが、不思議な人……? 神獣っていうのかな。その神獣さんが、牛鬼を倒していって周囲を綺麗にしていって、皆の怪我を癒やしていったんだ」
「っはぁ? 人? 神獣? 神獣が勝手に現れて、勝手に牛鬼を倒していったのか!?」
非常に驚く啄木にその場の全員が驚きを示した。彼が知らぬ様子に真弓は目を丸くする。啄木は額の汗を腕で拭い、息を吐く。
「……確かに神獣の力が宿ったものを元に札を作ったけど……神獣が現れるなんて聞いてないぞ?」
「えっ、使役してないの? 札の力があの助けてくれた神獣さんと似ているように思えたけど」
啄木は息を整えた後、首を横に振る。
「無理だ。俺に神獣の使役はできない。札に使用したのは蔵にある力を宿した神獣の毛や角だけだ。真弓たちにあげた札は神獣の角を使用したもの。魂を食ったと聞いて、今回は多めに神獣の角を砕いて作った札を渡したんだ」
使役ではないが、神獣の角と毛。陰陽師の世界では一つだけでも数千万円の価値はある。しかも、力の
「……その札の力で呼び寄せてしまったのかもしれないが……神獣が助けるなんて思えない」
神獣が人を助けるはずない。啄木の意見に真弓も頷く。神獣を助けるはずないと知っている。世間や人が汚くなった以上、人を助けるはずないのだ。葛と重光が仮面を外して歩み寄り、啄木に重光が疑問をぶつける。
「神獣なのかは、わかりません。ですが、神獣は人の姿になって戦いますか? 人の姿をとっても神獣は武器を使うようには思えない。啄木さんのご意見を聞きたいです」
疑問に啄木は首を横に振る。
「神獣はないと聞く。俺個人としてもないと考えられる。その相手が何者かはわからないが……敵でもなければ味方でもないのかもな」
敵でもなければ味方でもないと聞き、真弓は思案した。彼女は地獄の使者なのではないかと考えている。しかし、兄や重光からはありえないと否定されていた。
啄木は葛に頭を深々と下げる。
「三善さん。申し訳ない。御宅の妹さんを勝手に出してしまって」
「いえ……むしろ、結果オーライといいますか……なんだか運が良くてよかったですよ」
運が良かったのだろうか。真弓は更に険しい顔をするが。
「おい、三善の坊主と嬢ちゃんに土御門のご子息!」
声がかかり、真弓は驚き振り返る。身隠しの面を取った曜憐だ。素顔は陽気なおじさんである。啄木に近付いて肩を叩いた。
「よぉ! かっこいいにいーちゃん。あんたが札を作ったんだってな。俺は曜憐。
「……ははっ、俺は佐久山啄木と申します。本業は医師ですが、訳あって今は三善真弓さんの勉強を見て──」
勉強の言葉と聞き、重光は顔色を悪くして声を上げる。
「あっ……勉強……そうだよ! 真弓ちゃんには追試の勉強があるじゃんか!」
「あっ……あぁぁぁ! そうだったァァァ!」
葛も絶望の声を上げるが、当の本人は瞬きをしてはてなを浮かべる。
「えっ?」
「えっ? じゃねぇよ!」
きょとんとする妹に兄は突っ込む。ツッコミを入れられ、真弓は現実を思い出し顔面蒼白となる。啄木もわかりやすくまずいという顔をしており、曜憐に頭を下げた。
「申し訳ありません。曜憐さん。俺達は彼女の追試の勉強を見なくてはならないので……急いで帰宅していきます! では!!」
彼らは砂浜を駆け抜けて、海岸を出る入り口へと向かう。残された退魔師の中には悟ったものや、理解不能といった人もいる。曜憐は悟ったものに類する。
「……あー、三善の嬢ちゃん。またやらかしたか……」
三善真弓の成績不振の件について、親しいの者の間では有名であった。
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