14 後日談 白椿陰陽の追試結果
追試を乗り越え、その追試のテストが返却された日。自宅の居間にて。
真弓は涙目を浮かべながら、キラキラと目を輝かせていた。机に並べられたテスト用紙。点数を見て葛と重光は感嘆をしている。
一年○組。三善真弓。85点。
一年○組。三善真弓。81点。
一年○組。三善真弓。83点。
一年○組。三善真弓。84点。
全部八十点代であるが九十点には及びない。が、平均点を超えたものもあり、彼女は嬉しそうにテスト用紙を掲げた。
「やった──! 追試、乗り越えたよお!」
兄である葛は涙目になりながら、妹の頭を撫でる。
「っほんま……ほんまに……よく乗り越えたな! 真弓。けど、ほんっまに佐久山さんに感謝だぞっ!?」
「うん! うん!」
何度も頷く真弓に、隣で見てきた重光は涙をハンカチで拭き鼻をすすりながら話す。
「っ追試三日前……ラストスパートやばかったもんなぁ……。佐久山さん、本当に
啄木が自らテスト用紙を作り出した。
その条件がえげつない。その内容は平均点超えなくてはご飯食べれまてん。陰陽師修行に出れまてん。前者はともかく後者はかなり響いたらしい。真弓は彼の作り上げたテスト用紙に必死で立ち向かい、平均点以上を叩き出した。
三人は鬼のごとく見つめてくる啄木の姿に体を震わせた記憶は新しい。
その本人がいないことに、真弓は残念そうに話す。
「けれど、啄木さんがここにいないのが残念だなぁ……」
勉強を見た張本人は退魔師としての仕事があり、来れていない。真弓のバッグから携帯の着信音がなる。開くと佐久山啄木の名前。すぐに通話ボタンを押し、耳に当てた。
「は、はい! もしもし!」
《もしもし、真弓か? 今の時間帯、電話かけても大丈夫だったか?》
「はい、大丈夫です。啄木さん!」
啄木から電話がくるとは思わず、真弓は心が踊る感じがした。明るく嬉しそうに笑う妹の顔を見て、葛は片眉を上げ何かを察する。重光は口に手を当てて、ニヤニヤと笑っていた。
ホッとしたように間をおいて、啄木は話す。
《……迷惑でなかったらよかったよ。ところで、真弓。テストはどうだった?》
「追試! 乗り切りました!」
《そうか、よかった。けど、しっかりと授業は受けて、勉強しろよ?》
「うぐっ……」
手痛い指摘を受け、真弓は言葉を詰まらせる。正論であり、反論できない。彼女の様子に啄木は笑った。
《ははっ、授業でわからない部分があったら教える。なんだったら陰陽師の修行も付き合おうか?》
「えっ!? 啄木さん。いいんですか!?」
《いいもなにも、言う前に、貴女のお兄さんからも今後とも家庭教師としてよろしくしてほしいと言われてるからだ。まあ、俺個人としても人生棒に振るような奴ほっとけないっていうのある。変なことはしないから安心しろ。ただ無茶行為については
「うっ……」
まさかの兄の公認に真弓は固まる。余所から見ればシチュエーションに萌えるだろう。真弓にとっては妖怪退治の活動制限を意味している。
電話の主は穏やかに声をかけた。
《でも、よくやったよ。おめでとう。真弓。頑張ったな》
包むような優しいお祝いと労いの言葉。声を聞き、真弓は頬を赤く染めて嬉しそうに微笑む。
「はい、ありがとうございます! 啄木さん!」
《ああ。じゃあ。またな》
「はい、また!」
通話が切られる。通話の切られた画面を真弓は見つめ微笑む。パタリと携帯を閉じた。
──しばらくすると、ピンポーンとインターホンが響く。
葛は立ち上がり、玄関の前に行く。
「こんにちは、追試お疲れ様、葛くん。真弓ちゃん。
お疲れ様ということで、これ故郷で有名な和菓子をもってきたよ。うんで、しげみっちゃぁぁ──ん!! おじさんだよぉぉぉ──! しげちゃんのおじさんだよぉぉ!」
景気のいい年上から甥っ子大好きおじさんが現れた。重光の叔父冬弥が真弓の追試が終えた労いにお菓子を持ってやって来た。それを口実に甥に会いに来た。
重光は顔を真っ赤にして怒り出す。
「うるさいな! 少しは近所を考えろ! また変に不審者扱いされんじゃねぇーか!」
身内同士のやり取りに、真弓と葛は笑い声を上げる。その場には賑やかさが包む。
啄木は切った電話の画面を見つめ、ポケットに入れる。
身隠しの面をしながら、彼は港近くの工場の屋根の上にいる。真弓がいるであろうアパートを見ていた。
「ま、なんとか乗り越えられてよかったよ」
彼女が追試を乗り越えられてホッとする。
海辺を巡回しようと、啄木は背を向ける前に三善家のアパートの部屋に向かう人物がいることに気付いた。
重光の叔父だと啄木は聞いている。何気なく見ていたが、その叔父と呼ばれる人物は振り返った。ただ振り返り風景を見るだけならいい。
ふっと目線があった気がし、啄木はびくっと震えて武器を出して構える。
距離は離れており、普通の人には見えないはずだ。だが、その人物は振り返り、啄木を視認した。相手は何事もなかったかのように去っていく。彼は違和感が拭えなかった。
その相手は、重光の叔父土御門春彰の弟。啄木は武器をしまう。
「……本部に戻って、調べてみる必要がありそうだな」
啄木は変化をし、空へと翔び立っていった。
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