21 ばかもんの陰陽少女
真弓は屋外に併設されている小さな露天風呂を堪能することに。依乃達は既に入浴を済ませており、最後は真弓が入浴する。
念入りに髪と全身を洗いながら、泡をお湯で流す。
泡を洗い流したあとは、源泉かけ流しの湯船に入る。
体にはいくつか小さな切り傷がある。彼女は啄木と出会ったきっかけとなった傷跡を触る。啄木に迷惑をかけたが出会えて良かった。出会わなければ死んでいた故に、怪我をして良かったと考えていた。
彼女は不謹慎ながら、嬉しさを感じている。
「って……いけない。啄木さんに怪我するなって言われちゃう」
顔を押さえて、彼女はにやける顔を何とかしようとしていた。
湯船の湯気が思った以上に多い。彼女は空を見上げる。大きな一等星や二等星ほどの星は見え、細い星々も肉眼で見えた。星の綺麗さに真弓は思わず声を出す。
「綺麗……」
故郷の京都が風情あるが、静岡にも地元なりの風情があった。綺麗さに空を見続けている。体が火照ってきた為、すぐに立ち上がり風呂を出た。
後片付けをして、体を拭いて髪も拭く。
髪を拭き終え、タオルを巻いた後は化粧水をつけてルームウェアに着替える。
その後は歯を磨き、ドライヤーで髪を乾かす。乾かしながら櫛で髪を解かす。前ならば気にならなかったが、ここ最近は身なりをちゃんとするように真弓は心がけている。
「啄木さんの目の前では少しでも良くしないとね。理由はわからないけど」
不思議に思いながら、髪を乾かし終えた。ドライヤーを片付けたあとは髪を結び、布団で待つ少女たちに声をかける。
「ごめんね。またせちゃった?」
「あっ、いいよー! 気にしないでー!」
奈央の明るい声とともに、依乃と澄が顔を向けた。奈央はトランプの箱を出す。
「ねぇねぇ、真弓ちゃん。トランプしない? ババ抜きで罰ゲーム付き!」
「あっ、いいな! 楽しそう! 罰ゲームって何? 奈央ちゃん」
「恥ずかしい話を暴露するっていうのが定番かな。まあ! とりあえずこっち来てやろう!」
奈央はわらってカードを切った。真弓は友達とお泊りで、遊ぶのは初めてである。楽しみで真弓は表情を緩ませて、三人の元に歩みだす。
──四人はババ抜きしながら会話するが──。
「おや、また私の負けたか。うーん、何を話そうか」
仕方なさそうに彼女は微笑む。三回やって澄が負けた。真弓はババ抜き弱いんだと思っているが、依乃と奈央は驚愕していた。
「えっ、うそ。澄先輩が負けた……!?」
最も奈央が驚き、戸惑っていた。
「カードゲームで負けるはずのない先輩が……!?
「奈央。今ここで使うのに相応しくないよ。あと、私はトレーディングカードには強くないと言っておこう。まあ、私も何回も負けるときはあるよ」
後輩にツッコみ、澄は呆れる。カードは時の運もあるがババ抜きで、連続して負けることは少ない。真弓は澄と初めてあった頃は、しっかりとした頭のいいお姉さんの印象がある。
依乃は恐る恐る聞く。
「あの、先輩。わざと負けてませんか……?」
「おや、正解。ふふっ、よくわかったね。依乃」
正解と微笑む澄に、奈央は文句を言う。
「そんなの先輩ばかりがふこうへーじゃないですか! もっと公平に行きましょう!」
「そうだろうけどね、奈央。けど、はじめましての三善さんに、後輩の恥ずかしい話をさせるわけにいかないだろ。なら、話題のポケットが多い私が話さないと」
にこやかに澄は語る。身代わりになる形に後輩の二人と真弓は感動して澄を見た。
後に、澄が罰ゲームばかり受けていた理由は、二人の身の上を詳しく知らせない為とのこと。僅かな情報でも分析でわかってしまうことがあるため、喋らせないようにしていたらしい。
これを真弓が知るのはもっと後のことである。
依乃があくびをした頃、奈央も眠くなっていた。時計は十一時ほどであり、健全な子は既に寝ている。電気は消され、三人は布団に入って寝息を立てた。
一方の真弓は布団には入ったが、寝付けなかった。
「…………」
四人で寝るというのが初めてであり、興奮しているのだ。
「日がたてば……帰るんだよね……」
口にすると三人と離れがたくなり、寂しさがこみ上げるのか真弓は鼻をすすって涙目になる。優しくて楽しい彼女たちと別れると考えると、真弓は寂しくなった。
「あっ」
三人のことを考えていると、邪気の件が心配になる。啄木は大丈夫だと言っていたが、真弓は心配であった。
起き上がって、布団から出る。
荷物の準備の際、こっそりと持ってきた身隠しの面。そして、退魔の札と結界の札を手にする。部屋に結界を張っておき、邪悪なものや敵側の陰陽師が入ってこれないようにする。
靴を履いて、身隠しの面をした。階段を降りて、面で旅館の受付の目をかいくぐる。自動ドアの前に来ると面を外して存在を認識させて外に出た。
外の生温い暖かさを感じつつ、彼女は身隠しの面を再びして駆け出していく。
「啄木さん。ごめんなさい……!」
勝手に無茶をする事に、怒られることも承知で真弓は外へと出ていった。
真弓は気付いていない。かつて寝ていた部屋に明かりがついたことを。
スマホからは依乃の声が聴こえてくる。
《直文さん! やっぱり、佐久山さんの言うとおりでした……! 真弓ちゃん。出ていきました!》
「ありがとう。依乃。後は、俺達に任せて。おやすみ」
《はい……直文さんも無理なく……!》
スピーカーにして聞こえるように設定した直文は通話を切る。隣りにいる仲間に苦笑した。
「というわけで、見ての通りになったな。啄木」
隣には片手で顔を押さえて深いため息をついていた。牧水荘の屋根の上から様子を見て、啄木は心底呆れていた。
「やると思った……あのばかもん……」
「……ところで、三善さんは常習犯なのか。啄木」
恐る恐る直文は聞く。啄木は頷き、三保半島のある方見てを同情するように話す。
「ああ、真弓の兄とその友人が手を焼いてた。真夜中の悪霊妖怪退治の常習犯ぶりに成績も常に底だ」
「……本当の教育指導ものじゃないか」
先生でもある直文は何とも言えない顔をする。
改めて、啄木は葛と重光の苦労を理解した。彼らがすぐに海岸に向かわないのは、真弓の行動を予測していたからだ。寝ていれば、真弓たちが寝に入ってから海岸に向かう。が、案の定部屋から動く気配と結界の力を感じた。啄木の予想通りに真弓の身勝手な行動を見た。
説教だと考えながら啄木は顔から手を外す。
「確かに有里さんを守ってやれとはいったが、そうじゃねぇーよ。もう少しじゃじゃ馬を押さえろ。ああ!! 今までん行動ば葛になんて言えばよかっさ!」
宙から太刀を出し柄を握る。もう空いている片手には身隠しの仮面を出し、ため息をついた。
「……仕方ない。このまま介入するぞ。真弓はなんとしてでも守る」
「苦労してるな。啄木。帰ってきたらお前の好きな晩御飯にしとくよ」
「……どぉーも……」
直文の労いに啄木は感謝をする。
「守りは茂吉と八一に任せてある。陰陽師に警戒しながらやろう。啄木」
言葉に頷くと二人は仮面を被り、牧水荘の旅館の屋根の上から消えた。
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