6 一連の状況まとめ1
茂吉の食べっぷりを周囲は気にせずに、それぞれの食事を取っていく。食事量に見慣れぬ依乃、奈央、真弓は食べ終えたあとに呆然としながらギャラリーとなっていた。
食べ終えて一息ついた後に、全員は茂吉と澄に案内されて会議室に向かう。
扉を開くと、大学の講義室のようなテーブルと椅子がある。部屋の内装はこの現代の最新式。プロジェクターやスクリーンなどが用意されていた。それぞれのテーブルには飲料水用のペットボトルとプリントの資料などが置かれており、人数分用意されていた。
余裕で大学の講義ができ、国会議事堂のような会議もできるほどの広さだ。初めてきた少女たちは驚き、奥では一葉が佇んでいた。
「皆、よく来たな。早速だが資料が用意してある席についてくれ」
言われたとおりに全員は席につく。依乃と直文、奈央と八一、澄と茂吉、真弓と啄木。それぞれが用意された前列の席に座る。一葉は資料を教壇の上に起き、リモコンを用意して一礼をする。
「夕食後にもかかわらず、話し合いに参加してくださったことを彼女たちに感謝します。この場を設けたのは、緊急で話さなければ内容だからです。また無礼と存じておりますが、この先は敬語抜きで話させていただきます。よろしいですか?」
一葉は依乃、奈央、真弓をそれぞれ一瞥する。彼女たちは驚くもゆっくりと首肯をし許した。了解を得たことに一葉は軽く礼をし、話し出す。
「──では、早速本題に入ろう」
一葉はリコモンを操作し、部屋を少し暗くする。暗さは手元にある資料が見える程度。そのさなか、プロジェクターの動く音が聞こえ始め、プロジェクターのレンズ部分から光が発せられる。
スクリーンに光が当たると、映像が映し出される。
写真などがあり、簡単にまとめられたもの。
パワーポイントなどでまとめられたものであり、一葉はレーザーポインターを使用してパワーポイントにある文字を指し示す。
「まず、有里依乃さん、田中奈央さん、三善真弓さん。特に、三善さんはちゃんと聞いてほしい。まず【『変生の法』の成り立ち】についてだ」
何度も事件があるたびに聞いている言葉を耳にして依乃はビクッとした。
他者の器に魂を入れる術であり、魂は生者死者の関係ない。何もない器に魂を入れて生き物と生かせるが、見方によれば死者の蘇生にもなり体の乗っ取りにもなる。無機物にも魂を入れられるが、使い方によっては外法になる。
スクリーンには依乃の聞いた通りの内容が書かれていた。奈央は興味津々に見つめ、澄は真剣に見つめていた。
「
彼らは資料を手にし、その資料の1ページを見る。依乃は書かれている内容のタイトルを見て、そのタイトルをつぶやく。
「『田村語りについて』……?」
不思議そうに呟く言葉に、奈央はハッとする。
「えっ、田村ってもしかして征夷大将軍の坂上田村麻呂?」
奈央の指摘に一葉は拍手をした。
「見事だ。しかし、そちらは歴史上の人物としての名だ。ここでは伝承の田村丸としての名を使わせていただく」
パワーポイントを操作し、田村丸の伝承について載っている。
「田村丸の伝承は多くあるが、ここでは一部分だけ載せて要約させていただく。
資料にもあるが田村丸という人物は共に多くの鬼を倒している。いわゆる鬼退治の英雄の一人だな。多くの諸説はあるが、私達は坂上田村麻呂と田村丸は同じだと認識している」
「鬼退治……それは皆さんが話している『悪路王』と関係しているのですか?」
真弓の質問に一葉は返事をする。
「是だ。関わりはある。説は諸々あるといえど、後世では『悪路王』は田村丸が倒したとされている。では、何故この田村丸の話をしたかだ。それは、田村丸の伝承に深く関わりがある存在がこの件の渦中である恐れがあるからだ」
話を聞き、真弓は不思議そうな顔をする。
「えっ? 田村丸がその『悪路王』を退治した……そう話を耳にしたことがありますよ。『悪路王』と変生の法ができるのに何の関係が……」
真弓の疑問を聞き、啄木はハッとして声を上げる。
「……いや、そうか『鬼』か!」
鬼と聞き、半妖たちが目を丸くする。鬼ときき、奈央と依乃はきょとんとした。意味がわからないという顔をしている三人。だが、そのうちの一人である真弓は数分のうちまばたきをして、すぐに目を見張って声を上げた。
「……あっ、そっか……! 田村丸は倒した鬼は
言われて、二人も理解する。田村丸が倒した名のある鬼は『悪路王』だけではない。真弓の言葉に啄木は悩まし気な顔をする。
「だが、坂上田村麻呂……坂上田村丸の鬼退治にはいくつかの諸説はある。その中でも俺たちが知る『悪路王』は田村丸が倒した本人ではない。『悪路王』については、多くの説がある」
彼らの言う『悪路王』は存在が曖昧であり、確立されていたとしてもどちらの諸説によるという。田村丸が倒してない、倒した。別の鬼と混在、同一。蝦夷の人物、人物ではない。様々な説がある曖昧で存在が確立されている妖怪だ。啄木の言葉の後に、直文が口を動かす。
「非常に曖昧な東国の鬼とされる『悪路王』だが、その田村丸の伝承の中のとある鬼の存在だけは曖昧ではない。
確立されていると言える存在。その鬼は、日本三大妖怪に数えられている鬼だ。
名を『大嶽丸』。神通力など力ある悪しき鬼神。義仁先生と善子先生が反応したのは、恐らくこの『大嶽丸』と戦ったことがあるからだ」
鬼、天狗、河童などのメジャーな方の三大妖怪ではなく、日の本を危機に晒そうとした三大妖怪について明記する。
日本三大妖怪。酒呑童子、玉藻の前、そして『大嶽丸』。これらの三つの妖怪は、朝廷の頭を悩ませた存在とも言われている。中でも、『大嶽丸』はいくつもの田村語りにて凄まじい力を振るっている。
直文の話に一葉は一笑した。
「はっはっ、流石は直文だ。ああそうだ。『大嶽丸』はその名を残すほどのもの。宇治の宝蔵にあるとされているものだ。だからこそ、存在が確立されていると断言していい。そして、私がその『大嶽丸』について話した理由はこの『大嶽丸』に関わる三明の剣。大通連、小通連、顕明連。その中でも顕明連について話したいからだ。資料の説明を見つつ、画面を見てほしい」
一葉はリモコンを操作し、次のスライドを見せた。
そこに書かれていたのは、顕明連についてだった。
三明の剣とは、立烏帽子──鈴鹿御前が持っていたとされる刀。もしくは、天竺の阿修羅王から『大嶽丸』に与えられた刀とも言われている。
大通連、小通連、顕明連。三明の剣とは伝承に伝わる神刀である。一振りすれば、多くの首を切り落としもう一振で更に多くの首を落とせると言われている。
資料と書かれていることは同じであるが、特にスライドでは顕明連について乗っていた。依乃は顕明連についての資料の説明を見て目を丸くし、スライドを何度も見返す。
「えっ……えっ?」
直文は資料を一通り読んでから、机に置いてスライドを険しい表情で見る。
「……なるほど、そういうことか」
いくつもの田村語りはあるだろう。中でも、『大嶽丸』の黄泉がえりの話がある。『大嶽丸』は顕明連の霊力を持って、蘇ったとされる。また顕明連に魂魄もとい魂を移し、蘇ったとも言われている。資料の顕明連についての黄泉がえりの説明を見て、納得をし直文は話す。
「つまり、顕明連の宿った霊力。すなわち、『大嶽丸』の遺した黄泉がえりの痕跡を元に『変生の法』を作り上げていった。穏健派……もとい陰陽師の協会には、三明の剣の一つ顕明連があるということでいいのですね? 一葉先輩」
直文の言葉に、一葉は「正解だ」と笑って答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます