9 過去と未来での情報共有
変化を解いたのち、四人と一匹は八一の借家に移る。少し狭いが話すには申し分ない。無論、他者に聴かせぬように防音の術はかけてある。
互いに簡単な自己紹介をしたあと、まず八一から語った。
奈央が来た話から今までを話し、夜久についても隠さず話す。側にいる狐の麹葉についても事情を打ち明けて、直文と依乃は驚きを隠さずにいた。
依乃は奈央が花嫁に選ばれたことに非常に驚く。また協力者である旨を伝え、依乃は悲しそうな顔をした。協力者の規則は知っているようだ。
次は依乃達が未来に起きている事柄について話を始める。
未来では奈央の行方不明になったことでニュースになっていると。まだ騒ぎは県内に治まっているため、組織でも沈静化は可能だと話す。
奈央は心配そうな顔になるが、八一が慰めて安心させてくれる。
二人の話は続く。
ここに来る際に
片道切符である理由は同じものをつくるのに神の力の消耗が激しい。同時代に同じものを
最後に未来での仮面の男については、陰陽師の
名前がわからなかった理由。彼女の側に直文がいる理由。名前が戻ってきても、名無しの期間が長いせいで霊媒体質になってしまっていると。依乃が保護という名目で組織に入っている。
奈央は友人の抱えている事情を知らず、落ち込みを見せた。湯飲みを手にしながら、直文は
「そっちもそっちで大変だったんだな。八一」
「まあな。けど、相手が
彼の言葉に直文はあきれた。
「止めろって。未来を変える気か……」
「はっはっ、わかっているさ、直文。私たちが干渉するのはご法度だもんな」
「まったく……相変わらずだな」
「あの、今後の方針はどうしますか?」
彼女の言葉かけで、八一は手をあげる。
「まず、現状の方針として『夜久無という狐を利用して
八一はあげた手で数字を表す。
「まず一つ。夜久無は人の魂を喰っている。二つ、帰るための手段である時駆け狐は夜久無の一部になってしまった。三つ、夜久無を
数字を作るのをやめて、八一は厄介そうに笑う。
「なるほど、未来の
「……タイムパラドックス。田中ちゃんから教わったのか? 八一」
聞かれて直文に湯飲みを片手に首を縦に振る。奈央と八一を交互に見て直文は。
「八一。まさか、お前は田中ちゃんにほの字なのか?」
と爆弾発言をし、八一は飲もうとしていたお茶を吹く。人にかけないように吹いたからよいが、暴露された本人は咳き込んでいる。依乃は
ほの字とは惚れていると言うことである。
「……へっ?」
しばらくして奈央は我に帰り、顔を赤くした。八一は咳き込むのをやめて、直文を
「っなぁーおーぶーみー……!」
「えっ? いづ!?」
キョトンとする彼に八一は
「表情が出て変わったかと思えば、未来でもお前は相変わらずなんだなっ!? いい加減に配慮を学べっ!」
「えっ、えっ? ……あっ! すまない。申し訳ない!」
気づいて直文は謝り、八一は頭を抱える。
「ったく、気付いて謝るだけ成長はしてるんならもうちょっと配慮しろ……」
八一は
「あの少し良いですか? 何で陰陽師の失敗作を夜久無だと思えるのでしょう? 私達でも詳細はつかめてないのに……」
質問に八一は気を取り直して答える。
「時駆け狐が夜久無の側に居たからだ。稲荷大明神の使い魔が未来で変質して時駆け狐となり、操られるようになった。その未来の夜久無が前世返り。復讐か仕返しを込めての時駆け狐を利用した。二人の話を聞く限り、私の中ではそれしか辻褄が合わないのさ」
さらりと説明をして、直文は感嘆した。
「そこまで考えているなんて流石だな」
「お前も同じ事を考えていたくせに」
狐のように笑って八一は指摘し、直文は「まあな」と微笑むが、すぐに笑みを消して問いかける。
「今はその問題をどう解消するかだ。夜久無は俺達をかなり警戒するはず。誘き寄せるのも策が必要になる。どう出るつもりなんだ」
直文の言葉通りだ。
八一は回復期間を見積もって早くて七日間と考えている。悪霊食わせて、完治を早めて部下を送ってきたのだ。性格上、ゆっくりできる狐ではないのだろう。またその回復期間にできるだけ策を練らなくてはならない。八一は息を吐き、彼らを見る。
「まっ、有里さんと直文はここに来たばかりなんだ。今日は休もうぜ。今後の事はまた明日考えよう」
提案に直文は頷き、麹葉は半妖達を見ていた。
直文と依乃の分の宿の部屋を仲間を通して連絡を取り、二人は宿へと向かう。八一は提灯を手に奈央と麹葉を呉服屋に送っていった。裏口の前に行き、彼は奈央に声をかけた。
「今日は災難だったな。けど、無事に守れてよかったよ」
「八一さんのお陰ですよ。ありがとうございます」
頭を下げる少女に、八一は照れたように笑って「どうも」と微笑む。彼は指を立てて口に近づけた。
「そうそう。直文の失言は忘れていいからな?」
「嫌です」
即答をして、八一は間抜けた顔になる。直文の返答に彼は否定をしなかった。それは彼女にとっても心踊ることではあるが、協力者と言う立場を忘れてはない。気持ちを知って辛い思いを味わっても、彼女は真っ直ぐと微笑む。
「嫌ですから、絶対に約束を果たしてください。私が忘れても、絶対に会ってアイスをおごってください。麹葉さんにも絶対です。……後生ですよ?」
「……参ったなぁ」
笑みを形を変え鋭い
「じゃあ、また明日な。奈央じょーさん。麹葉さん」
「は、はい。また!」
[またはい、明日]
手を離して振って背中を向ける。彼女は去っていく彼を見送り続けている。中にはいって、少女たちは廊下をゆっくりと歩いていく。部屋に戻って布団に入り、麹葉におやすみと言おうとしたあと。
[そういえば、八一様から初めて名前呼ばれたのでは……?]
「あっ!」
彼女の指摘を受け、気付いて奈央は顔を赤くした。
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